27.希望ができました
今世では魔力は使わないと決めていた。やむを得ず魔力を使うことがあったとしても、一生隠していくつもりだった。
だが――。
誰も見ていないと思って油断していた。前世でもこの油断が命とりとなってしまったのだ。
「……ごきげんよう、ラインハルト様。その……これは……」
「いや。ユリアンはオーベルシュタイン大公家の血をひいているのだったな。では魔力持ちでも不思議はないか」
どう説明したものかと迷っていると、ラインハルト様は一人納得するように頷いた。
話がのみ込めず首を傾げていると、店に続く扉が開き師匠が顔を見せる。
「ユリアン、薬草の世話は終わったのか? おっ! 水分を均一に調整してくれたのか」
「……師匠。分かるのですか?」
薬草の状態を見てそう判断したのだろうか?
「まあな。魔力の痕跡があるな。土に魔力を流して水分量を整えたといったところか」
「もしかして……師匠は……」
「ああ。ラルフも魔力持ちだ」
師匠の代わりにラインハルト様が答える。
「まあ。ここでは何だ? 茶でも飲みながら、応接室で話すか?」
話の前にカモミールティーを淹れる。とにかく落ち着きたかったので、リラックス効果があるカモミールを選んだ。
「優しい香りだ。ユリアンが淹れてくれたハーブティーを飲むのは久しぶりだ」
ラインハルト様は香りを楽しむようにカップに口をつけながら、じろりと師匠を睨む。
「以前はどこかの誰かに邪魔されたからな」
「それは災難だったな」
「全くだ!」
師匠はラインハルト様の嫌味をさらりとかわした。
「さて、どこから話すかな?」
「師匠が魔力持ちなのはオーベルシュタイン大公家の出身だからですか?」
貴族らしくオブラートに包む物言いは苦手なので、単刀直入に尋ねてみる。
「そうだな。オーベルシュタイン大公家の始まりは知っているか?」
「はい」
詳しい系図は見たことがないが、今の皇帝陛下つまりラインハルト様の四代前の皇帝の時代に興した家だと記憶している。
「ライゼンシュタイン皇家が竜の血をひいていることは話したな。オーベルシュタイン大公家も皇家の血筋だ」
オーベルシュタイン大公家は、ラインハルト様の高祖父の弟にあたる方が興した家とのことだ。
「それでオーベルシュタイン大公家も魔力持ちが生まれる確率が高い。兄も私も高い魔力を持って生まれた」
「もしかすると、お祖母様も魔力持ちだったのでしょうか?」
「祖父からエリザベート大叔母上のことを詳しく聞いたことはないが、可能性はある」
祖母は薬草だけではなく、植物を育てるのが上手だった。私は祖母が魔力を使ったところを見たことはないが、おそらく魔力持ちだったと推測できる。
「ユリアンはオーベルシュタイン大公家の血をひいているからな。おそらく魔力を持っているだろうとは思っていた。なぜ隠していた?」
「……それは……」
(どうしよう? 話してしまおうか? 師匠とラインハルト様は信頼できる方たちだ。でも……)
私は神聖力が使えることを二人に話そうかどうか迷っていた。だが、ラインハルト様はこの国の皇帝で、師匠はオーベルシュタイン大公家の子息だ。私が聖女だと分かったら、利用されてしまうかもしれない。故国エルフェリア王国のように……。
幸い二人は私が神聖力を使えることは知らない。ただの魔力持ちであれば、それほどおかしなことではない。私もオーベルシュタイン大公家の血をひいているのだから……。
「故国エルフェリア王国では聖女が魔力を使うことは禁忌とされています。私は聖女を目指していましたので、魔力持ちだと知られるわけにはいきませんでした」
ラインハルト様と師匠は私の話をじっと聞いていてくれたが、眉を顰める。先に口を開いたのは師匠だった。
「ユリアンは聖女ではないと判定されたのだろう? ではもう隠す必要はないな」
「そうだな。我が国では魔力を使うことを禁止してはいない。俺も魔力持ちだからな」
二人の言葉に私は目を見開く。ここでは魔力が使えることを隠さなくてもいいのだ。
「それは……もしも私が……神聖力と同時に魔力が使えても……禁忌とされないのでしょうか?」
ラインハルト様と師匠が驚いた顔で私を見たが、ふっと微笑む。
「仮に神聖力を使える聖女だとしても、ユリアンは私の可愛い弟子だ」
「ユリアン。其方の力は其方だけのものだ。それに俺はユリアンを……」
最後にラインハルトが何やら呟いていたが、聞こえなかった。
「仮に……の話ですよ」
私はわざと口に人差し指をあてておどけてみせた。
「分かっている」と二人は声をそろえて返事をする。
きっと二人は気づいている。でも、気づかないふりをして認めてくれたのだ。
やっと自分の居場所を見つけた気がした。
いつか自分の力を隠さずに生きられる日が来るのかもしれない。
小さな希望が静かに胸の奥に灯った。




