26.もう一つの力を知られた!?
師匠と血縁関係があったことに私は衝撃を受けた。
「えええええっ!?」
応接室中に響く声で叫んでしまった。淑女としてははしたないが、許してほしい。それほど驚いてしまったのだ。
「やかましい」
手で両耳を塞ぎながら、師匠が顔を顰める。
「どうして教えてくれなかったのですか!?」
「特に聞かれなかったからだ」
「それはそうですが……」
「師弟関係を結ぶのに親戚かどうかは関係ないだろう?」
私は混乱した。高位の貴族だろうと推測はしていたが、まさか師匠がオーベルシュタイン大公家の人だったとは思いもしなかった。
そういえば師匠は祖母と同じ琥珀色の瞳をしていた。普段は糸目なので、開眼すればだが……。
「大公家のご子息がなぜ薬師になったのですか?」
「私は次男だし、貴族の生活には向いていないからな」
師匠は肩をすくめる。
「それに薬草学に興味があったからな。だから家を出て、宮廷薬師になったんだ」
「……そう……だったのですか」
私も師匠の真似をして肩をすくめながら、苦笑する。
「何だか、私と似ていますね」
「そうか」
「はい。私も貴族ですけれど、家を継ぐ必要もありませんし、当主である兄は私を政略結婚させる気がありませんので、こうして好きな薬草学を学ぶことができます」
「確かにな」
そして師匠と二人で顔を見合わせて同時に笑った。
コホンと咳払いがしたほうへ視線を向けると、ラインハルト様が苦笑している。
「はとこ同士仲が良いのは結構だが、俺の存在を忘れないでくれ」
「あれ? ラインハルト。お前まだいたのか?」
「先ほどからいるだろうが!」
またもや師匠がラインハルト様を茶化す。
その後の流れでラインハルト様と師匠が従兄弟同士という事実にも、私はまた驚くのだった。
◇◇◇
その夜、エルマにその日の出来事を話す。
「それでね。師匠はオーベルシュタイン大公家の現当主の弟君だったのよ。つまり私とははとこ同士に当たるのですって!」
「……まあ、そうだったのですか」
エルマは驚きながらも、どこか納得したように頷く。
「ラルフ様は立ち居振る舞いから高位貴族だとは思っていましたが……」
「エルマもそう思っていたのね」
「はい」
もしかすると、ダリアは知っていて、師匠の店を紹介してくれたのかもしれない。
「それとね。ラインハルト様と師匠は従兄弟同士なのですって! 今日は二度も驚くことがあったわ」
「まあ、皇帝陛下とラルフ様は従兄弟なのですか? それは、私もその場にいたら驚いたと思いますわ」
「そうよね」
あの後、ラインハルト様は本当に薬草を買っていった。何でも最近寝つきがよくないとのことだ。
師匠は『だったら永遠に眠れる薬を調合してやる』と何やら物騒なことを言っていたが、本気ではないだろう。
寝つきがよくなる薬草を調合してラインハルト様に渡したのだが、何故か三日分でいいと言われた。
『また三日後に来るから、ユリアンに調合してほしい』と……。
三日後にまたラインハルト様に会えると思ったら、嬉しい気持ちになった。
◇◇◇
その日私は師匠に頼まれて、薬草畑の薬草たちの世話をしていた。
「あら?」
水路から少し離れた場所に植えられた薬草に水分が十分に行き渡っていないことに気がついた。
土に水分が均一に行き渡るために調整をしなければ、ここの薬草たちは枯れてしまう。
(でも、どうしようかしら? ここで神聖力を使うわけにはいかないし……。この手はできれば使いたくないのだけど……)
「二度と使うつもりはなかったけれど、仕方がないわね。この子たちを枯らすわけにはいかないもの」
私は土に触れて、ごく僅かな魔力を流す。大地の力を借りて水分を薬草畑に均一に広げた。
「よし! これでこの子たちが枯れることはないわ」
故国エルフェリア王国では、聖女が神聖力以外を使うことは禁忌とされている。実際、歴代の聖女で魔力を使える者はいなかった。だが、私には生まれつき魔力があり、神聖力と同時に魔力を使うことができたのだ。
そのおかげで魔女として断罪され、処刑されてしまった。だから、今世では魔力は絶対に使わないと決めていたのだ。
「でも、この子たちを見捨てることができなかったのよね」
元気になった薬草たちを満足そうに見ていると、後ろで物音がする。
「ユリアン」
「え?」
振り返ると、ラインハルト様が立っていた。
「其方は魔力持ちなのか?」
(魔力を使っているところをラインハルト様に見られてしまった!?)
血の気がひいていくのを感じた。




