21.弟子入りします
皇都に薬草の買い付けに行ってから数日間、私はラルフさんの店で買った薬草の整理をしていた。
「これは乾燥させる物。こちらは土壌改良をしてから植えたほうがいいかしら?」
机の上に置いた薬草を仕分けしながら、考え事をしていた。
皇都にある薬草店の店主で元宮廷薬師のラルフさんに弟子入りをしないかと誘われたのだが、まだ決めかねている。
ラルフさんに教わったことはどれも新鮮だった。
薬草に適した土壌改良の仕方に薬効を損なわない収穫時期など、まだまだ私の知らないことがたくさんある。
もっと多くのことが知りたいし、学びたい。
そんな気持ちが日に日に強くなっていった。
「……弟子にしてもらいたいけれど、でもな……」
ため息を吐きながら、ぽつりとひとり言を呟く。
この館から皇都は遠い。とても通いで行ける距離ではない。
となると……。
「毎日ではなくとも数日皇都に泊まりこみ? でもその間の薬草の世話はどうしようかしら?」
「ユリアン様、どうかされましたか?」
考え事をしていて手が止まっている私を心配するように、エルマが傍に来てくれた。
「ううん。何でもないわ」
彼女を安心させるように微笑み、再び作業をし始める。
(ラインハルト様……じゃなかった。皇帝陛下に相談をしてみようかしら?」
困ったことがあったら相談してほしいと、ある魔道具を皇帝陛下から渡されたのだ。
その魔道具は送りたい相手に宛てて手紙を書くと、受取主に届けてくれるという不思議な羽根ペンだった。
夕方、皇帝陛下に宛てて手紙を書くと、紙は白い伝書鳩の姿になって飛んで行った。
◇◇◇
次の日、皇帝陛下から返事が届いた。
伝書鳩は私の下に飛んでくると、封書に姿を変える。封筒には竜の紋章の封蝋が施してあった。竜の紋章はライゼンシュタイン皇家の紋章だ。
封筒を開けて手紙を取り出すと、流麗な文字でこう書かれていた。
『ユリアン嬢へ
早速、俺に相談をしてくれたことを嬉しく思う。
ラルフへの弟子入りを受けたいという件は承知した。
だが、通いというのはいささか無謀だ。
そこで提案がある。
三日後、ラルフとともにそちらを訪れても構わないだろうか?
返事を待っている。
ラインハルトより』
育てている薬草やハーブ類を放っておくわけにはいかないので、ひと月に数回ラルフさんの下に通うのはどうだろうかと皇帝陛下に相談してみたのだ。だが、やはり通いは無謀らしい。
「それにしても、提案って何かしら?」
皇帝陛下とラルフさんには何か考えがあるのかもしれない。
私はその日のうちに皇帝陛下に了承の返事をした。
◇◇◇
三日後、約束どおり皇帝陛下とラルフさんが私を訪ねてきた。
「やあ、お嬢様。弟子入りを受けてくれて嬉しいよ」
にこにこと嬉しそうに笑いながらラルフさんが紳士の礼をとるので、私はカーテシーで返した。
「皇帝陛下。ラルフさん。ようこそお越しくださいました」
「ユリアン嬢。また会えたことを嬉しく思う」
皇帝陛下もなぜか嬉しそうに笑っている。
二人を居間に案内してお茶を淹れるため一旦下がろうとすると、皇帝陛下に呼び止められた。
「茶は後でも構わない。まずは用件から伝えても構わないだろうか?」
「一応、お嬢様の茶は飲みたいんだな」
ラルフさんが茶化すと、皇帝陛下は「うるさい!」と言い返す。
(この間より親し気なのね。ラルフさんが宮廷薬師をしていた頃から仲が良かったのかしら?)
私が首を傾げていると、ラルフさんがくすりと微笑む。
「今日はお嬢様がこの館から毎日通えるようにするために来たんだ」
「え? ここから通いでですか? そんなことができるのですか?」
ここから皇都までは馬車で半日かかる。どうやって毎日通うのだろう?
「この館とラルフの店を転移魔法陣で繋ぐのだ」
私は思わず息を呑む。皇帝陛下の提案とはこのことだったのだ。
「転移魔法陣ですか? そのようなことが……」
「できるんだよ。ライゼンシュタイン皇家の血筋は強い魔力持ちが多いんだ」
エルフェリア王国でも魔法を使える者はいる。魔力持ちがいること自体は珍しくない。
だが、転移魔法は高度な魔法だ。
「ライゼンシュタイン皇家は竜の血をひいている。祖先の強い血が子孫にも受け継がれているのだ。だから俺は転移魔法を使える」
ライゼンシュタイン皇国は『竜に守護されし国』と言われている。実際、この国に来た時に竜を見たから、言い伝えは本当だと思った。だが、皇家が竜の子孫というのは初耳だ。
確かに竜であれば、転移魔法を使うことは可能だろう。
「そこでだ。この館で転移魔法陣を設置する場所はあるだろうか?」
転移魔法陣を設置する場所には気をつけなければならない。うっかりダリアやハンスが転移魔法陣に踏み込んでしまっては大変だ。
(となると空いている部屋がいいわね)
「ご案内します」




