17.薬草店にやってきました
平民が暮らしている町を抜けると、まもなく商人が店を構えている区画に入った。
規模はそれぞれ異なるが、思わず人が立ち寄りたくなるような店舗、いかにも貴族向けの装飾を施した店舗など様々な店が道沿いに軒を連ねていた。
馬車は貴族街に程近いところで停止する。
「ユリアン嬢が行きたいという薬草の店は、この道の奥まった場所にある」
道の奥まった場所と言えど路地裏というわけではなく、街灯がところどころに立っているので、夜でも明るいのだろう。
石造りの建物が多い中、その店は煉瓦造りで緑の屋根の小じんまりとした店舗だった。
入口の看板は木で出来ており、『ラルフの店』と焼き文字が書かれている。
一見すると薬草店ではなく、雑貨の店かと勘違いしそうだ。
「薬草を扱っているお店には見えませんね」
「エルマもそう思う?」
こっそりとエルマが耳打ちしてきたので、私は頷く。
皇帝陛下が店のドアを開けてくれたので、中に入る。
「わあ!」
棚には乾燥させた薬草の瓶がたくさん並んでおり、壁には束ねた薬草のガーランドが吊るされていた。
「すごい。こんなにたくさんの薬草が……」
私は吸い寄せられるように店内に入っていく。
「ユリアン様、すでに目が輝いておりますよ」
エルマがクスクス笑っているので、私は棚にある瓶を指差す。
「だって、ほら見てエルマ。これはウツギソウよ」
ウツギソウは寒い地でしか育たない珍しい薬草だ。
「とても保存状態がいいのね。葉の色がほとんど変わっていないわ」
さらに奥のガラス棚にある瓶に目が止まる。中には淡い銀色の粒が入っていた。
「あれはホシフリグサの種ね。現物を見るのは初めてだわ」
「ユリアン嬢も見たことがない薬草があるのか?」
皇帝陛下が意外そうな顔をして尋ねてくるので、私は半分興奮気味で答える。
「たくさんあります。こちらの棚にある薬草は半分くらい見たことがないものばかりです」
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」
奥から一人の男性が姿を表す。長い白茶色の髪を後ろに束ねている男性は珍しい丸メガネをかけている。視力が悪いのか目が糸目だ。
年は皇帝陛下より少し上くらいだろうか?
「ラルフ、久しいな」
「これは皇帝陛下。こちらのお嬢様は陛下が連れていらっしゃったのですか? ついに身を固める気になられたのですね」
「やかましい」
皇帝陛下とラルフと呼ばれた男性は知り合いなのだろうか? 随分と親しげだ。
「ようこそ、お嬢様。私はこの店の店主でラルフと申します」
「ユリアンと申します。ラルフさんは皇帝陛下とお知り合いなのですか?」
「この店を開く前は皇宮で薬師をしておりました」
ということは、宮廷薬師というやつだろうか?
そういえば、皇帝陛下が皇宮には薬草園があると言っていた。ラルフさんは薬師として、そこの管理をしていたのかもしれない。
「そうだったのですか。このお店は薬草の品揃えが豊富ですね。見たことがない薬草ばかりで眼福です」
「眼福ですか?」
そう言うと、ラルフさんは吹き出す。
「いや……失礼。皇帝陛下は面白いお嬢様を見つけられたのですね」
「口を慎め、ラルフ。ユリアン嬢は純粋に薬草が好きなのだ」
じろりと皇帝陛下がラルフさんを睨む。
「からかっているわけではないですよ。それにしてもお嬢様は随分と薬草にお詳しいですね。どこかで学ばれたのですか?」
「祖母に教えてもらいました」
「ほう。お祖母様は薬師ですか?」
「いいえ。ですが祖母は薬草に詳しくて、いろいろ調合方法を研究していました」
祖母は薬師と名乗ってはいなかった。だが、時々頼まれて薬草を調合してはいたようだ。
「なるほど。お祖母様はかなり薬草の知識をお持ちだったのですね」
「はい」
「店の裏に薬草を植えているのですが、よろしければご覧になられますか?」
「ぜひ!」
元宮廷薬師が育てている薬草。そんなの絶対見たいに決まっている!
私はラルフさんに案内してもらい、店の裏手に向かった。




