7話 光祐とシャドウサイド その二
対シャドウの準備期間が終わった。今日、自分自身の命を賭けて自分自身と対峙する。
シャドウには一度大敗を喫っしている。つまり今回の戦いはリベンジマッチとなる。前回は圧倒的力量差で負けたことにすら気付かず殺された。だが今回は違う。この二週間で、僕は圧倒的に成長した。今回こそは•••
「戦いに赴く前に、今の能力値を確かめておこう」
魔術師の力を数値化したもの、能力値は、修行前は確か1600だったか。修行後の今、僕は強くなったことを確信している。
千歳が計測器を持ってきた。計測器に手をかざし、少し魔力を流すと•••
【魔力】1600 前回との差 +600
【身体能力】700 前回との差 +300
【知力】350 前回との差 +150
【合計値】2650 前回との差 +1050
前回との差1050!?かなり増えたな。これは修行の成果がよく出てる。
「低いな」
「え?低いんですか」
「ああ。少なくとも私の予測よりも魔力の数値が3000ほど少ない」
「さ、3000!?」
一体どこからそんな数値が。
「太陽の魔力さ。あの魔力があれば最低でも3000はあってもおかしくはないと思ったんだがな」
確かに。太陽の魔力、つまり人を爆散させるほどの魔力が700程度じゃあり得ない。でもそれじゃ3000でも少なくないか?
「そうだね。あの魔力を最大限に開放すると測定不可能だろう。でも今の君が今、開放できる量が3000ぐらいってことさ」
「なるほど。で、じゃあその3000はどこに?」
「まだ仮説だが、今思い当たるのはやはり太陽の魔力が外付け、さらに聖遺物などを使った既存の方法ではないことが挙げられるだろうね」
この世界での聖遺物を使った魔力は一応自分の魔力に換算される。だが僕の魔力は外付けであっても聖遺物によるものではない。その違いによって僕の魔力は増えなかったんだろう。
「そう。一応太陽の魔力を使っている状態で測ってみたまえ」
【魔力】2400
800も増えてしまった。少し纏っただけでこれだけ上がるのか。
「纏えば計ることも出来るんだな。まあそこまでわかったなら良いだろう。この話は終わりだ」
「千歳から見て、シャドウ戦の勝率はどんなもんだ?高いか、低いか」
「そうだね、正直にいうと低いだろう。君がどれだけ修行したところで、肉体はどちらも同じものを使うし、魔力だって素は変わらない。勝敗を分つのは君の太陽の魔力、そしてシャドウの知力になるだろう」
シャドウの知力は千歳の拘束を即座に解くほどだ。そして僕の魔力は確かに強力だが、体を削るようなデメリットとも言って良い物がある。対して知力にはデメリット無し。
「そう。やっぱり君の魔力のデメリットは大きい。どうしてもシャドウに軍配が上がる」
「じゃあどうすんですか。負ける未来しかないじゃん」
「だからこそ、君は魔力調節の修行をしたんだろう。魔力の調節を正確にすることが出来たら、そのデメリットも無いに等しくなる」
確かに魔力操作を正確に出来たらデメリットが無くなってシャドウにも対抗できる。
「でも、それじゃあ火力不足なんじゃ。デメリットを無しするレベルまで魔力を抑えて使うと普通に魔力で強化したのと対して変わらないんですよね」
「だから君は勝つためにデメリット度外視で戦う必要がある。戦場が精神世界なので、現実でのダメージは考えなくて良いので、少しは無茶しても大丈夫だ」
つまりある程度のデメリットは何とかなるんだな。
「だが、これはあくまで現実でのダメージの話であって、多少無理できるだけでデメリットがなくなる訳ではない。やはり勝機は太陽の魔力のシャドウ特攻だな」
シャドウは影を操る魔術を使う。だから光で照らすことで奴を弱体化させられる。照らすだけで弱体化するのなら勝機は十分じゃ無いか。
「だが、やっぱりそう簡単にはいかない。シャドウの魔術はかなり特殊なんだ。おそらくシャドウは影を自在に操るだけじゃなく、自分で影を生み出す、もしくは広げることができる可能性がある。もしこれができるなら、照らしたところで最悪光もろとも影に呑まれるかもしれない」
つまり、シャドウが光に照らされ戦闘不能になるのが先か、または影に呑まれてしまうのが先か、という戦いになるわけだ。
「そういうわけさ。さあ、時間も迫ってきている。準備はいいかい?」
「万全だよ」
「そうかい。じゃあそろそろ始めようか。もう入ってきても良いよ」
千歳の合図とともに部屋に前回の裁判で裁判長を務めていた男が入ってきた。
「今回はお招きいただきありがとうございました」
「いやいや、私だけの証言だけでは周りは納得してくれないと思ってね。裁判長の証言なら証拠十分だと考えた訳だ」
なるほど。僕の肩を持つ千歳の証言より裁判長自身を証人にした方が良いという訳か。
「それでは今回はよろしくお願いしますね。光祐くん」
「はぁ、よろしくお願いします」
「さ!人は揃ったことだし始めようか。鏡の前に立ちたまえ」
僕は言われた通り鏡の前にたった。ついに戦いが始まる。千歳が魔力を込めると、鏡は強い光を放ち出す。二週間前にも見た光景だ。
「健闘を祈るよ。頑張りたまえ、光祐くん」
その一言に反応するかのように、鏡の光は強くなる。眩しくて目を閉じてしまう。
目を開けるとそこは物一つない殺風景な空間が広がっていた。
「やっと来たか。待っていたぞ、“僕”」
「久しぶりだな、シャドウ。今回は前のようにはいかないぞ。修行の成果を見せてやる!」
―――解析•創造!!
武器創造の詠唱とともに、手の中に魔力が集中し、編み込まれ、形を成す。やがてそれは、剣になった。僕は剣をシャドウに向け、一言
「行くぞシャドウ、俺はお前を超えるッ!」
「ふんっ、やってみろ」
シャドウの影が当たり一面を黒く染め上げる。途端、目の前からシャドウが消えた。
これは知ってる。奴は影の中を自在に移動する。僕は剣を構えて魔力を込める。
「はぁッ!」
太陽の魔力が込められた剣を円を描くように振るう。魔力が当たりを照らし、影を塗り潰す。移動場所がなくなったシャドウは影の中から出ざるを得なくなる。
その隙を光祐は見逃さない。足に魔力を込め、出てきたシャドウの元へ跳躍する。
だがシャドウはこうなる事を予見していたかのように、自身の前に影を展開する。攻撃を防がれ、一瞬止まった光祐に、その影は形を変えて、さながら槍の如く襲いかかる。
ーーーしまった!?
光祐は空中で体を捻らせ、攻撃を間一髪で避ける。
だがシャドウは、次の攻撃へ即座に転じていた。だが光祐もやられっぱなしではない。手に持つ剣に流す魔力を増加し、シャドウの影を断ち切った。
少しだがシャドウの顔に動揺の顔が見られた。己の影が光祐に切られるとは思っていなかったのだろう。だが、シャドウは即座に動揺を消し、次の攻撃に備えた。そのせいで光祐の攻撃は防がれてしまった。
そして光祐の剣に影が伸び、呑み込まれていく。咄嗟に剣を離さなければ光祐も呑み込まれていた事だろう。
剣を離し、3歩後ろへ飛び退くと、新しく武器を創造した。
光祐は攻撃の手を緩めない。シャドウに近づき、斬り付けに行く。だが足元に影が伸びて、足に絡みつく。
つまずいて転びかけるが、即座に体勢を立て直して次の攻撃に備えた。だが、光祐はシャドウに集中するあまり、周辺を埋め尽くす影に気づいていなかった。
気づいた時にはすでに周りを囲まれ、影の球体に閉じ込められてしまった。その球体はだんだんと縮んでいき、中にいる光祐は押し潰され•••••
だが光祐は、潰される寸前、太陽の魔力を体から一気に放出する。影の球体は魔力に照らされ消滅する。だが光祐は太陽の魔力を体から放出した事でダメージを負ってしまう。
それでも光祐は気にしない。そんなデメリット無いものとし、シャドウへ接近する。
迎え撃つべくシャドウはさらに影を広めて呑み込もうとするが、光祐は影の広がりよりも速く手にした剣を投擲していた。
その攻撃に、一瞬展開が遅れたガードは意図も容易く剣に貫かれ、ついにシャドウへ一撃を入れることに成功した。
「くっ•••••俺はお前を見くびっていたようだ。正直ここまでやるとは思っていなかった」
刺さった剣を抜き、腕から血を流すシャドウ。だが苦痛の表情どころか驚きすら消えている。
「喜べ、俺はお前を敵と見なそう」
「やっと敵と認めてくれたか。まあそのまま舐めててもらって構わないよ。僕としてはそれで油断してくれる方がありがたい」
「軽口を。その笑顔を絶やしてやるぞ」
シャドウは、言葉とともに己の影を収束し、一つの武器を作り出す。
それは漆黒の大鎌だった。さながら光祐の命を刈り取る死神のように攻撃を仕掛けてくる。
初撃を間一髪で避ける光祐はシャドウを煽る。
「大鎌とかありきたり過ぎない?」
「ありきたりだからなんだ。貴様を殺す死神としてはもってこいだろう?」
シャドウの鎌の攻撃範囲は光祐の剣の間合いより広いため、防戦一方になってしまう。光祐はこの状況を脱するべく、新たな武器を創造する。
―――解析•創造!!
編まれた魔力はやがて一本の長い棒の形になる。そしてだんだん形が整い、それは長槍となった。
槍を横に薙ぎ、シャドウを後退させる。リーチの差を埋めたことで、互いに間合いを見計らう。
2人は同時に動き出す。鎌を大きく振るうシャドウの一撃を避け、胴体へ薙ぎ払いを入れる。だがシャドウはその攻撃を難なくかわすと鎌を縦に振りかざす。
その一撃を槍で受け流し、今度は突きを3発、高速で放つ。だがシャドウは全てを回避して距離を取る。
ーーーこのままじゃ埒があかないな。
互いに戦況の停滞を感じていた。
先に動いたのは光祐だった。手にする槍を再構成する。その槍は光祐自身の魔力で強度に極振りしている。
辺りが光に包まれる。強度に極振りした槍は通常の数倍の太陽の魔力を纏っていた。その魔力の光は槍の先端に収束し、螺旋状に回転し出す。それはさながら岩を穿ち、地を抉るドリルのように。
その魔槍を、光祐はシャドウに向けて投げ放った。それはシャドウの心臓を貫こうと一直線に飛んでいく。
シャドウは槍の進行を止めようと影の壁を複数展開する。魔力の光に負けまいと闇は濃度を増し、光の槍を呑み込む。
ーーーかに思われたが、螺旋状に回る魔力は、影の壁を抉り、シャドウの心臓へ減速せずに飛んでいく。
避けることは不可能なスピード。全ての壁を貫通し、シャドウの心臓を穿ち•••••
だがシャドウは影で背中に羽を作り、間一髪上昇し、心臓への直撃を間一髪で回避した。だが、完全回避は出来ず、槍は心臓ではなく脇腹を抉っていく。
現実 校長室
「勝てる。勝てるぞ。このまま行けば光祐の勝ちだ」
鏡の外で戦闘を見守る千歳と裁判長は光祐の勝ちを確信しつつあった。
「このまま何もなく勝てれば良いのですがね」
「相手はシャドウだ。何かしてくる可能性が無くはないだろうが、あの傷だ。そう大層な反撃はできないだろう。なにより光祐は魔力こそ消費したがまだまだ余裕が•••!?」
話す千歳と裁判長の顔に驚きと不安の顔が浮かび上がった。
精神世界
ーーー致命傷は避けれたか。まさかここまでやるとは。
シャドウは本気を出すまでもないと思っていた。確かに敵とは認めた。だが、対等ではないと考えていたが、あと少しで負けるところだった。
シャドウは影で傷口を塞ぎ、地面へ降り立つ。
「俺はまだお前を侮っていたようだ。もう油断はしない。容赦なく貴様を殺す」
ゾクリと背筋が凍るような感覚がした。
光祐は殺し合いの実践経験が乏しい。あまりの殺意に一瞬動きを止めてしまった。その隙をシャドウは見逃さない。シャドウは光祐の周りを照らす光に一本の影を伸ばし、一瞬で背後を取る。
影の死神は目の前の太陽に大鎌を掛け、首を断つ。
そして、太陽の光は、沈むように影に呑み込まれた。
第二章 光影決戦はついに佳境へ!
魔槍の一撃でシャドウに大ダメージを与えた光祐、だが見ていた千歳の顔は曇ってしまう。光祐はどうなってしまうのか、勝利はどちらの手に




