僕の中に眠る影
「これより裁判を開始する。」
僕は今、校長殺害の容疑で裁判にかけられていた。もちろん僕はそんなことをしていない。何で僕が疑われているのかも分からない。
「まずは検察から、」
「はい。校長殺害の事件の調査をしていたとろ、、」
この裁判は実にあっさりと終わった。内容を全て話さなくても良いほどに。結果から言おう。僕は有罪になった。検察官曰く、事件現場には僕の魔力の残穢が残っていたらしい。これは魔術の世界において誤魔化しようのない証拠だった。弁護人も、これでは庇うことはど出来なかったんだろう。大した証拠も提示できずに終わってしまった。
「判決を言い渡す。被告人、星海光祐は、校長殺害の容疑で、死刑にーーー」
「まった!」
判決を宣言される刹那、その判決に待ったをかける者がいた。それは、僕が入学式にあった人だった。
校長代理の千歳だった。
千歳は裁判所に登場するや否や、裁判長に向かって一つの封筒を手渡した。
「これは?」
「校長からの遺言状です。校長は死ぬ前に私んこれを預けて亡くなりました。証拠もありますよ。その手紙にはちゃんと校長の魔力のこもった判子が押されています。」
魔術世界では、手紙を送る時自分の魔力を流した判子を押す。そうすることで、手紙の送り主を判別する。
「確かに、これは校長のものですね。では読ませていただきます。内容次第では、判決が覆る可能性もありますが、滅多なことでなければ覆りませんよ。」
「わかっていますとも。」
裁判長はその手紙を開けて、中身を読む。すると裁判官はとても驚いた顔をした。
「千歳さん、これは、」
「全て真実ですよ。私もこの目で確認しました。」
手紙を読みきった裁判長は、千歳と何かを聞き、納得すると正面を向き、口を開く。
「改めて判決を言い渡す。被告人、星見光祐には、2週間の執行猶予を与える。」
「なっ!?」
まさかの判決に裁判所全体がざわめいた。僕自身も意外な判決だった。二週間だけとはいえ、あれだけの証拠があって執行猶予を与えられるなんて。あの手紙には一体何が書いてあったのか。
「では、これにて裁判を閉廷する。」
僕は何とか一命を取り留めたようだ。
「校長代理、いったいその手紙には何が書いてあるんですか?」
「これにはね、校長を殺した真犯人が書いてあるんだ。それと、校長代理なんて言わないでくれよ堅苦しい。私のことは千歳でいいよ。」
「いや、先生を呼び捨てはちょっと。じゃあ千歳先生で。それで、真犯人っていうのは誰なんですか?」
「君だよ。」
「へ?」
「犯人は君だとも。でもね、君であって君ではないんだよ。校長を殺したのは、君の中にいる影だ。」
「影?何ですかそれは。」
「詳しくは私の部屋で話そう。ついてきたまえ。」
裁判所を出て、僕は、千歳先生についていった。
そして、先生の部屋についた。
「まずは何から話そうか。そうだな、まずは校長のことを話そうか。校長はね、私の古くからの友人だったんだ。」
古くの友人?この見た目で古くって、いったい何歳なんだこの人は。
「失礼だね。私のことはそのうち話すよ。今はそんなことはいいんだ。校長はね、未来を見る魔術を使えたんだよ。そして校長は見てしまったんだ。自分が殺される未来と、自分を殺す人間をね。校長の未来は的確でね。これまで回避できたことはないんだ。死を悟った校長は、私宛に遺言を書いたのさ。」
「じゃあ、校長は僕に殺される未来を見たってことですか?じゃあ犯人は僕じゃないですか。何で執行猶予が。」
この話を聞く感じだと、執行猶予なんて絶対につかなさそうなんだけど。
「そこが重要なんだよ。確かに殺したのは君自身だ。でこね、さっきも言ったでしょ。殺したのは君の中の影だ。」
「だからその影って何なんですか?」
「じゃあ単刀直入に言おう。君はね、いわゆる二重人格っていうやつなんだよ。」
二重人格って、1人の人間にふたつの人格があるっていうやつか。僕が?そんなことこの16年感じたこともないのに。
「私が見てみたところね、君には本当に2つ人格があるよ。ただね、出てくるタイミングがあるんだよ。君は、睡眠中になにか感じたことはないかい?」
「睡眠中ですか?特には何もないですね。昔から寝付きがとてもいいと言われるんですよ。赤ちゃんの頃から夜以外全く寝ない子と言われてました。」
「そうか。今の話で確信が持てたよ。君のもう一つの人格はね、夜に目覚めるんだ。」
「夜、ですか?」
「そう。君は夜になると人格が入れ替わる。だから君は夜になるとよく眠る。朝の間は君が起きてもう一つの人格が眠る。夜になると君が眠り、もう一つの人格が目覚めるんだ。」
なるほど。だから僕の眠りはとても深いのか。・・・まてよ。夜になると別人格が起きて活動する。だったら誰かが気づいているはずだ。何でこれまで誰も気づかなかったんだ?
「それについてだがね、おそらく君の別人格はとても賢いんだよ。誰かに見られている時は寝たふりをしていたんだろう。君が寮で暮らすことになったことで、寝たふりをする必要がなくなった。だから校長を殺したんだろう。」
「でもそれだと殺す動機がないじゃないですか。別人格はなんええ校長を殺したんですか?」
「それは別人格そのものに聞いてみるしかないだろうね。もうすぐ夜だし、今夜聞いてみようか。」
そうか。それが出来るんだったらそうするのが1番だな。でも、
「千歳先生は大丈夫ですか?仮にも校長を殺したんでしょう。」
「君の心配はとても嬉しいよ。でも大丈夫さ。私は強いからね。でも念のためだ。この椅子に座ってもらおうか。」
先生が差し出した椅子は何の変哲もない椅子だった。
まあ座ってみようかな。と、座ってみると、とてつもない魔力が流れ出した。
「何だこれ!?う、動けない。魔力に縛られてるのか?」
「そうさ。この椅子はね、私が拘束の魔術をかけた椅子なんだ。座ったものは、私の許可なしでは椅子を離れることはできないんだ。」
「そうですか。これってかなり高度な魔術ですよね。簡単には解けなさそうだ。」
「そうだね。でも君なら解けるのかい?初めまして別人格君。今の時間は9時か。9時になると君は起きるんだね。」
そに椅子に座っていた子供は、9時になった途端、人が変わったように表情を変え、まるで歴戦の暗殺者のような漆黒の覇気を纏っていた。
「君のことはなんて呼べばいいかな。別人格というのはすこし長いのでね。君の名前は?」
「・・・シャドウサイドだ。」
「シャドウサイドか。あの子の影の側面か。いい名前だね。そうだな、シャドウと呼ぼうか。にしても対話ができそうで良かったよ。」
「できれば話したくはないがな。だがお前に隠し事はできないらしいからな。」
「私は君とは初対面のはずなんだけどね。なぜ知っているんだい?」
「俺は“僕”とは違う。”僕“の記憶を覗くぐらい造作もない。」
「なるほどね。じゃあ説明する必要はないね。早速本題に入ろうか。何で校長を殺したんだい?」
千歳は早速本題に入ろうとした。だが、シャドウサイドは不敵に笑い、その場から姿を消した。
「驚いたな。まさかこんな短時間で拘束を解かれるとはね。君は相当のやり手のようだ。」
「こんなことは造作もない。そしてお前の問いに答える気もない。だが、一つだけ教えてやろう。貴様はこれから死ぬ。この俺の手によってな。」
いったいどこから話しているのか。一切姿が見えないのに、声だけが部屋中に響き渡る。だが、この状況でも千歳は一歩たりとも動かず、表情ひとつ変えなかった。
「私を殺すか。やってみなさい。」
校長が話した刹那、千歳が座る椅子が急に砕けた。バランスを崩した千歳を追撃するように、影が千歳に向かって伸びた。
「影を操る魔術ですか。それもかなり使いこなしていますね。戦闘IQもかなり高い。戦い慣れていますね。」
涼しい顔でそう話しながら、千歳は伸びてくる影をスルリと避けた。そしてそのままの流れで部屋中に魔力が流れた。
「!?」
その瞬間部屋中が光った。光に包まれた部屋には影がなくなり、その瞬間どこからともなくシャドウサイドが姿を現した。
「影の中にいましたね。本当にすごい魔術スキルですね。ですが、その魔術は影がないと効果を発揮しない。
光を当ててしまえばいいんですよ。」
「ちっ。」
部屋中が光に包まれてしまったことで、シャドウサイドは影を操る魔術が使えない。
「さあ、チェックメイトです。大人しく話してもらいましょうか。」
「影を潰した程度で俺に勝てると思ったのか。舐めるなよ。」
言うが早いか、シャドウサイドは自信を魔力で強化し、近接戦闘を仕掛けた。だが、その拳が千歳に届くことはなかった。
「素晴らしい教科魔術ですね。魔力の流れの扱いが上手いんでしょうね。ですが、」
千歳とシャドウサイドの間には防御術式が展開されていた。それもシャドウサイドとは比べ物にならないほどの魔力が流れていた。そしてその魔力の流れは、シャドウサイドの拳に絡みついた。
「さあ、捕まえた。遊びは終わりだよ。今度こそ話してもらおうか。」
「・・・校長を殺したのは、ただの腕試しだ。というか殺そうとしたわけではない。」
「そうなのかい?じゃあ何で校長は死んだの?」
「確かに俺は奴を襲った。だが、それはあまりにもあっさり終わってしまった。奴は俺の攻撃を避けようとしなかったんだ。俺の初撃は、さっき貴様にしたことと同じだ。相手の後ろから影を伸ばし、貫こうとした。」
シャドウサイドはあまりにも不服そうに話していた。何が不服なのかを、心を読める千歳は気づいていたが、あえて黙りながらシャドウサイドの話を聞いていた。
「奴はあの攻撃を避けるくらい造作もないはずだった。奴は攻撃をした瞬間、元々張っていた防御魔術を解除したんだ。なぜそうしようと思ったのか俺にはわからない。だが俺はガッカリした。力試しのつもりがあんなにもあっさりと終わってしまったんだからな。」
シャドウサイドは話すべきことは話しきったとばかりに一呼吸おいた。
「これが真実だ。どうだ満足したか?」
「ああ。実に満足のいく話だったよ。正直に話してくれてありがとう。」
千歳は礼を言うと、次の話題を出した。
「じゃあ次だ。君の能力値を調べたいんだ。いいかい?」
「ふん。好きにしろ。」
千歳はシャドウサイドの頭に手を当てると目を瞑り、魔力を込めた。目を開けると千歳は少し驚いた顔をした。
「【魔力】1000、【筋力】400、【知力】15000!
なんて知力の高さだ。さっきの戦闘能力はこれが原因か。」
「素体は”僕“とは変わらないが、人格が違うからな。知力だけは”僕“よりも断然高い。」
「なるほど。よし。知りたいことはだいたい知れた。最後にひとつ、君はこれからどうする?何が目的なんだい?」
「俺に目的なんてない。ただやりたいことをするだけだ。そのためなら人だって殺す。」
「そうか。じゃあ何とかしないとね。人を殺す以上、君を放置できないらしい。」
「ならばどうするつもりだ?ここで殺すか?無理だ。俺を殺せば“僕”も死ぬ。だからと言って俺をどうにかできるのは“僕”だけだぞ。そして今の”僕“に俺をどうにかできるだけの力は無い。」
シャドウサイドは勝ち誇ったように笑った。だが、千歳も笑い返した。
「ならば、あの子に成長してもらうしかないね。」
「残り二週間でか?無理だな。奴にそんな力は無い。諦めるんだな。」
「そんなことはないようだね。君は心の底で彼を恐れている。彼には君に勝てるだけの力があるらしい。それが何かまでは読めないが、それは私が彼を見ればわかるだろう。」
「やってみろ。俺が”僕“に恐れていると言う言葉、”僕“が処刑される前に絶対撤回してもらうぞ。」
「そうかい。せいぜいたかを括っているんだな。彼は私が責任を持って二週間以内に君に勝てるよう育てよう。」
そう言うと、シャドウサイドはゆっくりと目を閉じた。
次の日の朝、僕は何も覚えていなかった。
最後の記憶は確か、椅子に縛られて、、、
「やあ、おはよう。よく眠れたかい?」
「お、おはようございます。あの、この椅子って。」
目の前に転がっている椅子だったものを見て僕は千歳先生に問いかけた。
「気にするな。シャドウ、君の別人格にやられたんだ。」
「そうだったんですか。なんか、すみませんでした。先生は大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫だとも。君の体に異常はあるかい?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございます。」
いったい何があったのかは分からないが、先生は大丈夫そうだ。
「さあ、君の猶予は二週間だというのは覚えているね。」
「はい。」
「よろしい。これから君には、修行をして、別人格、シャドウサイドに勝てるようになってもらうよ。」
「シャドウサイド・・・」
それが僕の別人格。それに勝つための特訓か。
「裁判長との話はついている。二週間以内にシャドウに勝つことができれば、君の罪は許される。さあ、二週間後生きているために頑張ろうな。」
「・・・はい!」
この後ちゃんとした説明を聞こう。今は僕も生き残りたいから頑張ろう。
そう心に誓いながら、僕は千歳先生に詳細を聞くのだった。
これにて第1章終了です。次は第2章のシャドウサイドと戦うための修行と決戦です。タイムリミットは二週間!どうなる光祐、シャドウに勝てるのか。




