26話 魔術大祭⑫ 2人の暗殺者
森の中を走り続ける。
後ろからは暗殺者、影縫美代が追跡して来るのがわかる。
「逃げてばかりじゃ埒があきませんね」
光祐さんは無事逃げれたでしょうか。あるいは勝ってるかもしれないが。
いや、今は自分のことに集中すべきだろう。
私は足を止めて、相手の方を見据えた。
「•••••••••そこ!」
感覚を研ぎ澄ませ、影に潜む相手の位置を見極める。
その一撃は見事敵影を捉えたが、美代はその一撃を軽く回避した。
美代は火影から距離を取り、手にするナイフを構える。
火影もまた、杖に火を纏わせ、炎の剣を作り出した。
互いに睨み合い、どちらも動こうとしない。最初に声を上げたのは美代だった。
「不知火火影。火属性魔術の名門である不知火家に生まれ、今年で16歳」
それは火影の個人情報だった。
「両親は共に健在で、3年に兄がいる。名前は不知火不炎」
その名を出した瞬間、火影の眉が動いた。
「火影は魔術の道を否定され、家族に反発。兄に魔術を教えてもらいながら修行するも、結果はでず、やがては兄にまで道を否定される」
「••••••随分と詳しいですね。一体どこでそのような情報を?」
火影は拳を握りしめる。強く握りしめるあまり、指の間からは血が滴っていた。
「相手の情報を調べ上げるのは戦の定石です。ああ、そういえばあなたはこの試合が始まる前は3年生の試合を見に行っていましたっけ」
「••••••••」
「どうでしたか、自分の兄の戦いぶりは。私も見に行きましたが、さすがは3年トップなだけあって見てるこちらからでも勝てないことが容易にわかるほどに」
「••••••••」
「あなたと違い、“陽炎”を連発して使用していたのも、とても凄かったです。家族としてさぞ鼻が高いでしょう」
「••••••だまれ」
「それに比べ、あなたは“陽炎”の連発はおろか、最低のDクラスですから———」
「黙れッ!」
火影は火剣を構えて美代へと突進する。
——— その怒りっぽいのを治してみたらどうだ?
この戦いが始まる前に光祐に言われたことを思い出す。そして一瞬動きが停止する。
その隙を美代は逃さなかった。火影の腹部へと強い蹴りを放った。
「かはっ•••••!」
間髪入れずに手にするナイフで刺そうと近づいて来る。
防がなくては、そう思い、杖を振る。
ここは草木が生い茂る森の中。火属性魔術の火は燃え移り、どんどんその火を伝播させる。
後ろへ後退する美代は、現状を静かに見極める。
「まだ早いか•••••もうすこし」
美代は辺りを焼く火をものともせずに火影へと近づいていく。
2人の武器が交差する。美代はすかさず相手の耳元に囁きかけた。
「魔術の才能がなく、努力も報われない。悲しいですよね、悔しいですよね。でもそれが現実なのですよ、認めてこの世界から抜けていれば身の程を知り、屈辱に体を震わすこともなかったものを」
「•••••••!」
腑が煮え繰り返りそうなのを必死に堪える。
震える手を押さえ込み、この怒りはダメだ。今ここで感情のままに暴れれば、相手の思う壺。そう言い聞かせて必死に理性を保とうとする。
だが、それも長くは持たない。だんだんと込める魔力が増加していき、理性が効かなくなってゆく。
その葛藤の隙に、美代は手を上に上げた。
飛びかけの理性が、謎の行動を前に少し回復する。そしてその手の意図を探ろうとした瞬間、足元の影が隆起した。
「上出来、美代」
「!?あなたは———」
影から飛び出したのは影狗夜霧。一試合目で火影を欺いたもう1人の暗殺者。
不意の攻撃に、本能的に“陽炎”を発動する。
夜霧の初撃は回避したものの、2体1、回避先を読んでいた美代の攻撃が火影を襲った。
なんとかガードしたが、体は少し吹っ飛び、近くの木に衝突する。
「•••••影狗、夜霧。まさか、ずっと影の中に•••••」
冷静さを欠いていなかったら、不知火火影はきっとその存在に気づいていただろう。
だが、美代の煽りに怒りを募らせ、冷静さを欠いた火影は潜む暗殺者に気づくことは出来なかった。
出し抜かれた。その煽りが罠であると分かっていても、それを抑えることが出来なかった自分を恥じる。
震えるため息をだし、冷静に状況を判断しようとする。
「2体1、やむを得ない。ここは一旦退避を———」
「させると思いましたか?」
撤退しようとする火影の前後に、逃げ場をなくすように立ち塞がる2人の暗殺者。
2人は火影に向かって武器を振りかざす。
火影は一撃目を防ぎ、2発目を間一髪で回避する。
2人の連携は凄まじく、1人では対処しきれない。だんだんと、攻撃は激しくなっていき、やがて火影に刃が届いた。
「••••••」
手応えがない。間一髪、陽炎でその一撃を回避することに成功した。が、それすら、相手の術中だった。
火影は陽炎を連発できない。
それを読み切り、回避した火影に向けて、間髪入れず追撃を加える。
「ガハッ!?」
回避は出来ず、その一撃は火影に直撃した。
その体は軽く吹き飛んでゆく。
「やっぱり一回しか使えないんですね」
「あなたのお兄さんはさっきの試合で10回は連続して使っていたのに」
「••••••」
歯軋りをする。少し落ち着いていた怒りがさらに膨れ上がっていく。抑えきれなくなるほどに。
「———!!」
声にならない絶叫と共に、火影の怒りは臨界点に達した。いや、すでに大きく臨界点を飛び越えていた。
予想通りとばかりに、焦り一つ浮かべずに火影を翻弄し、攻撃を仕掛ける。
陽炎を発動。しかしまたしても回避後に強い一撃を加えられ、吹き飛ぶ。
———怒りっぽいのを治して見たら?
うるさい。ダメだったじゃないか。頑張って抑えて見ても強くはなれなかった。
だが、現在怒ったことでピンチになっているのも事実。
ふと、少し前に見た兄の戦いを思い出す。
ああ、兄さん。どうして貴方は、どんなにも強いのですか•••••。




