24話 魔術大祭⑩ 叛逆の騎士
「オラオラオラァ!逃げても無駄だぞ!」
僕、光祐と火影はAクラスのモードレッドから逃げていた。
モードレッドは、一撃一撃が森の木を薙ぎ倒すほどで、真正面から戦えばかなり骨が折れる。
「どうするよ。このままじゃ一方的に攻められるだけだぞ」
「ですが、あれに正面から戦いを挑むのも愚かですよ」
その通りだ。
「ですが、このままでは勝てないのも事実。光祐さんは近距離で、私は援護します」
「わかった!」
僕は剣を造り、モードレッドを正面から見据える。
その目を見て、モードレッドは不敵に笑った。
「やっとその気になりやがったか!」
僕は地面を踏み、モードレッドの懐へと走り出す。
その光祐に向けて、剣を大きく振り上げたモードレッドの一撃を、紙一重で回避した。
大ぶりにガラ空きとなった胴体へ向けて、剣を振るう。
だが、モードレッドは振り下ろした剣を無理矢理振るったことで、その剣を弾いた。
「火属性魔術、“緋弾”!」
無理な剣振りに、体制を崩したところへ火影はすかさず緋弾を放つ。
流石に防げなかったのか、緋弾はモードレッドの脇腹へ直撃した。
「いってぇじゃねえか!鎧がなかったら火傷してたぞ」
直撃はしたものの、身にまとう鎧により防がれた。
が、確実にダメージにはなっている。これを続ければいずれは勝てる。
「やるな、てめえら。本当は私1人でどっちも倒してやりてぇとこだが」
そう言って、モードレッドは声を上げた。
「ほら、出番だぞCクラス!お前らには火属性の方を譲ってやる!」
「承知」
火影の背後から声がする。声とほぼ同時に木陰から、1人の人間が姿を現した。
Cクラスの暗殺者、影縫美代が火影の首へ手にしたナイフを振りかざした。
「火属性魔術、“陽炎”」
ナイフが刺さる瞬間、火影の体は陽炎となって消える。その姿は、いつのまにか美代の背後に立っていた。
「こいつらを分断する。そっちは頼んだぞ、暗殺者」
「御意です」
美代はモードレッドと光祐から離れるように、火影へ攻撃を仕掛けていく。
その状況を瞬時に理解し、火影は判断した。
「光祐さん!ここは一旦離脱します。互いになるべく生き残ることを優先してください!」
「わかった!」
そう言って、火影は美代と共に森の中へと消えていった。
僕は目の前にいるモードレッドを見る。
僕1人で勝てるだろうか。正直難しい。と言っても、逃げるのも簡単じゃない。
だが、生き残る上で一対一は避けるべきだ。
火影とは別の方向へと走り出す。
モードレッドは僕を追うよう走り出した。
「オイオイ、逃げんのか!」
足の速さではこっちに分がある。が、相手を撒くのはかなり難しい。
「だれかもう1人いてくれれば、戦うこともできるんだがな••••••」
走る走る。モードレッドから逃げるべく走り続ける。
僕はここら辺の土地を全く知らない。それが運命を変えた。
「やっちまったなぁ!自ら行き止まりに来てくれるなんて、楽でありがてぇ」
そこは大きな木で隠された崖があった。
木で見えていなかった。僕は崖を背にしてモードレッドを睨みつける。
こうなったら、もうやるしか••••••。
「やっぱそうくるよな。だが、正面からじゃ勝てねえぞ!」
「ちっ!」
大きく舌打ちをする。
僕の狙いはその背後、モードレッドを抜いて崖と逆方向へと逃げ道を変えることだ。
だが、それはほぼ不可能と理解した。
ならば倒すしか無いか。やむおえないが、温存していた魔力を使うしかないと、剣に魔力を集中して、モードレッドへ向ける。
互いの剣がぶつかり合う刹那、森に軽い衝撃音が聞こえた。その音とほぼ同時に、モードレッドの目線は横に向けられた。
僕も釣られてそちらを見る。
目線の先からは、水色の軌跡を描きながら高速で飛んでくるものがあった。
その飛来物を、モードレッドは全て撃ち落とした。
「ありゃりゃ、撃ち落とされちゃった。ま、想定内だけどね」
木々の隙間、そこには水色の髪をした男が、太い木の枝に座っていた。
「氷織!?」
「よっ。本物の天沢氷織だよ。さっき別方向に不知火さんもいたけど、状況的にこっちに加勢することにしたよ」
実にありがたい。そして、火影も無事そうでなによりだ。ていうか、本物のってなんだ?
「状況はある程度理解してる。俺は後方支援するからどんどん攻めてくれ。あと隠し球は出さなくていいよ」
「OK。よろしく」
正直、氷織の魔術については何も知らないけど、ここは信じてみよう。
「はっ、2体1になったからってなんだってんだよ!どっちも蹴散らしてやる」
僕は剣を片手に、モードレッドへ突進する。
氷織は、手に魔力を集中させ、物体を形成していく。
天沢氷織の魔術は氷属性。水属性の派生系で、魔力で氷を生成する。
氷織は氷で現代の銃を作り出す。火薬の代わりに火属性の魔術で発射するため、基本使い捨てであるが。
だが、その火力は本物ほどの殺傷力は無いものの、牽制、魔術戦においてはそこそこの強さを誇る。
故に、モードレッドは光祐と戦う中でも、氷織の攻撃を無視できない。
「めんどくせえな!」
モードレッドは弾丸を剣で打ち払う。そこの隙をついて僕は剣を振るう。
モードレッドは間一髪で防ぐが、またもその隙をつき、複数の弾丸が飛来する。
やむおえず、身に纏う鎧で防ぐ。が、その鎧が固かったのか、弾丸が想像よりも弱かったのか、弾丸は鎧により容易く弾かれた。
「思ってたほどじゃなかったなぁ!」
モードレッドは、僕を無視して氷織の方へと走り出す。
僕も追うように走り出すが、相手の方が一歩速い。
「終わりだ、氷野郎!」
氷織はそこから逃げようとはしなかった。
モードレッドが火織へと到達する瞬間、氷織はさらに1発、弾丸を放った。
「1発ぐらいなんだってんだ!」
モードレッドは、さっきと同じく籠手で弾こうと、正面へと手を出す。
容易に弾かれると思われていた弾丸は、その想像をはるかに外れ、鎧を貫通し、片手に致命的な一撃を与えた。
「こういう真正面から戦うタイプはすっごい刺さるんだよね、これ」
氷織が持っていたのは、これまでのハンドガンではなく、大きな、スナイパーライフルだった。
「ピストルは連射するために貫通力とか威力は低くしてるからな。『こいつの弾丸は鎧で弾ける』って意識誘導した後に貫通力と威力が高いライフルでの一撃はほぼ当たるんだよな」
氷織は半分ほど溶けてしまったライフルを捨て、新しくハンドガンを作った。
「光祐!」
「ああ!」
氷織は叫ぶと共に、モードレッドへ7発の弾丸を打ち込む。
片腕を扱えなくなったモードレッドの剣捌きは、先ほどとは比べるまでもなく弱くなっていた。
僕は、太陽の魔力を足にため、一気に地面を蹴った。
凄まじい加速に、モードレッドの反応が一瞬遅れ、片手で振る剣には十分な重みが乗らなかった。
光祐の一撃が、鎧を砕いてその体を切り裂いた、かに思われたが、その一撃は軽いと思っていた剣に防がれていた。
「舐めんじゃ、ねぇぞォォォ!!」
モードレッドの魔力が爆発する。
その魔力により、僕の剣が砕け散った。
「なっ•••••」
「魔力解放!”祖国への叛逆の剣”!!」
モードレッドから禍々しい魔力が溢れ出す。
アーサー王に反旗を翻し、剣を取った騎士モードレッド。これはその叛逆の力を再現する、Aクラスのモードレッドに与えられた力だ。
その瞳は敵以外が入る余地は無く、ただ殺意だけを滾らせる。
「ッ!?」
理性を感じさせないほど野生的に、爆速で間合いを詰めてくる。
光祐はその不意の変化に、一瞬狼狽える。
急いで新たな剣を造り、防御しようとする。
攻撃を受けかけたところを、氷織の援護射撃で間一髪、攻撃方向がズレ、防ぐことができた。
「理性を無くして力を得る。狂化ってことか。でも、あれ多分魔力バカ食ってるな。ほっときゃ自滅も•••••」
「冷静に分析してる場合じゃねえって!自滅する前にこっちがやられるんだけど!?」
———攻撃は実に単調だ。回避は難しくはない。なら、
「光祐!一瞬でいい、あいつの動きを止めろ!出来れば腕を押さえて欲しい」
「無茶いうなって言いたいけど、勝算はあるんだな!?」
「動きさえ止めて貰えば、8割ってとこだ。まあ多分やれる!」
「わかった、やってやる!」
目の前の狂戦士に剣を向ける。
モードレッドは一直線にこちらへ突っ込んでくる。避けるのは簡単だ。あとはどう動きを止めるか•••••。
僕は剣を捨て、新たな武器を創造する。
「ガアアアアァァァァァァァア!」
雄叫びと共に剣を振り回しながら突進してくるモードレッドを見つめる。
———ここだッ!
紙一重でその攻撃を回避し、手にする武器を放つ。
それは鎖。
魔術大祭が始まる前に作れるようになったアイテムの一つ。
技術というものを捨てたモードレッドは、避けることができず、鎖が体に絡みつく。
「やれ!」
僕が合図を出した刹那、モードレッドは無理やり鎖を引きちぎった。
「やばっ———」
「十分だ」
氷織の狙いは、自動で追尾するかのように、一点、モードレッドの頭に集中していた。
そして、その引き金が引かれる。
放たれた弾丸は、真っ直ぐモードレッドの脳天へと飛んでいく。
暴れる体を僕は必死に押さえつけようとする。
氷でできた弾丸は、暴れる的を意に介さず、先を鋭く尖らせ、モードレッドの頭を撃ち抜き、辺りを赤く染め上げた。




