↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/27

18話 魔術大祭⑤ 竜殺し《ドラゴンスレイ》

「爆ぜろ、“フェイルノート”!」


 5本の矢は竜の体へ飛んでゆく。

 矢は全て竜へ直撃する。そしてそのすべてが瞬間に爆破した。


「直撃!これなら•••••」

「いえ、ダメです。なんて硬い鱗、矢が弾かれただけでなく、爆発もまるで効いていない。多少傷ついたぐらいですか」


 竜は爆発をものともせず、もう一度風刃(ふうじん)を放つ。


「切り裂け、“フェイルノート”!」


 フェイルノートの攻撃によって、またしても風を切り裂く。

 だがキリがない。このままでは防戦一方、倒すことが出来ない。

 そこで、またしても大きな魔力を感じる。


「!?またあの魔力砲が来ます。水守さん!」

「まっかせて!水属性魔術、“水鏡(みずかがみ)”!」


 2度目のぶつかり合い。その魔力砲はまたしても水鏡によって弾かれた。

 トリスタンは観察していた。1度目の魔力砲と今回の魔力砲を見て、気付いた。


「撃ち終えた瞬間、少しだけ硬直する。この弱点は付け入る隙がある」

「でも、その隙を狙ってエレクトロを撃つのは正直難しいです。まず私のエレクトロは溜めに少し時間がかかる。それに弾いた瞬間じゃ、水鏡がまだ残ってるし」

「ええ、ですからその一瞬の隙を突いて私がより大きな隙を作ります。そのうちにエレクトロで攻撃する」

「でもそれじゃチャンスはあと3回だよ?倒し切れる?」


 水鏡はあと3回しか使えない。あと3回で竜を倒し切れるかは不明だ。


「まずは一度、試してみましょうか」


 その話の瞬間、次の魔力砲が準備される。


「じゃあ作戦通りに、“水鏡”!」


 3度目のぶつかり合いが始まる。このぶつかり合いも、これまでと同じようにすぐ弾けると思っていたが•••••。


「さっきよりも強くなってる!?」


 魔力砲は先ほどまでよりも威力が増している。その一撃にこれまで通りの防御力じゃ通用しない。

 込める魔力を更に増やす。

 なんとか今回の一撃を相殺することには成功した。


「今です。縫い止めろ、“フェイルノート”!」


 放たれた6本の矢は、3本ずつ竜の片翼に突き刺さる。

 刺された瞬間、竜の大きな体は地面に縫い止められる。


「フェイルノートの矢で竜を地面に縫い止めました!長くは持ちません、速く!」

「はい!雷属性魔術•••••」


 もみじが持つ杖の先に紫電の如き魔力が集中する。

 狙いは翼、まずは機動力と風魔術を封じる。


「“エレクトロ”!!」


 閃光を放ちながら撃たれるエレクトロは見事に竜の片翼を撃ち抜いた。

 竜が甲高い悲鳴を上げる。

 片翼を無くしたことでバランスが取れなくなり、飛行することが出来なくなった竜は、四足歩行で全員から距離を取る。


「まずは片翼!次はもう片方です!全員、立て直して!」

「•••••ごめん、さっきの魔力砲。これまでよりも威力が増してて、多分防げるのはあと一回が限度だと思う」

「•••••そうですか、わかりました。作戦を切り替えます!もう片方の翼を狙うのはやめて、このまま倒し切る方針で行きます」


 竜は既に飛ぶことが出来ない。片翼を無くしたことで風属性魔術の精度と威力も落ちている。倒せる可能性は十分にある。


「音鳴さんはもう一度エレクトロの準備を、水守さんは次の魔力砲に備えて、風属性魔術は私が相殺します!」


 竜は片翼を強く羽ばたかせ、風属性魔術を放つ。


「切り裂け、“フェイルノート”!」


 飛んでくる風の刃は全て矢に切り裂かれ、相殺される。

 間髪入れず、トリスタンは牽制も兼ねて追加で矢を放つ。


「貫け、“フェイルノート”!」


 全ての風を避け、龍の体へ矢が到達する。

 『貫け』と命令された矢は硬い鱗を貫通し、竜にダメージを与える。

 その痛みに耐えかねた竜は、考えなしに魔力を溜めだす。


「水守さん、水鏡を!」

「あいあいさー!」


 魔力を込める。

 その魔力は大きく広がり、大きな盾となる。

 竜は溜めた魔力を更に圧縮し、勢いよく前方へ放つ。

 その一撃を水鏡が防いだ、が。


「更に威力が増してる!?」

「任せてください!貫け、“フェイルノート”!」


 放たれた4本の矢が竜へ突き刺さる。その矢により、魔力砲の威力が下がる。

 そのおかげで天守は魔力砲を弾いた。


「今だよ!」


 天守が振り返った先、もみじの周りには魔力が漲っていた。

 天守とトリスタンが時間を稼いでくれているうちに、もみじはエレクトロ2回分の魔力を溜めていた。


「雷属性魔術、“エレクトロ”!」


 2回分の高威力のエレクトロ。

 次の狙いは竜の頭を狙った一撃。

 それは狙い通り竜の頭に直撃する、ように見えたが、それは竜が生み出した風に阻まれた。


「なっ!?」


 防がれたわけではない。直撃ギリギリの風の防御により、エレクトロの威力が減少してしまった。

 威力が減少したことにより、頭を打ち抜きはしたが倒すには至らなかった。


「仕留めきれなかったか、まずいですね。水守さん、魔力の方は•••••」

「正直限界、次の一撃は2、3秒防げても突破されちゃう」

「私も、さっき2回分の魔力を使っちゃったから、あと1回。でも2回分でさえ防がれちゃったから、たった1回でどうにかなるか•••••」


 先ほどのエレクトロ、防がれはしたが、それは竜に大きなダメージを与えていた。

 その一撃により、ドラゴンの体力が3割減少した。

 これまでの攻防、失った片翼により、現在の竜のHP(ヒットポイント)は、残り5割だ。

 残り5割、削り切るにはエレクトロ一回だけではまず足りないだろう。


「•••••念には念を、ですね。音鳴さん」

「?」

「あなたはこの戦いに、命を賭ける覚悟は、ありますか?」


 このフィールド、大魔術結界では、寿命を除き、死が存在しない。

 死んでも生き返るし、死ぬことがないが故に、通常よりも痛みが感じにくくなっている。


「そんな結界の中で命を賭ける?」

「はい。正確には痛みに耐える覚悟があるか、ですが」

「痛みに耐える?それって•••••」

「魔術の威力を上げる方法は複数あります。一つは普通に修行すること。そして歴史の流れとともに省略され続けてきた詠唱を完全に唱えること。最後に、誓約を結ぶこと」


 誓約。

 魔術において、何かを得る代わりに何かを差し出すという誰しもが使える誓いの魔術。

 詠唱の短縮だってそうだ。

 詠唱を短縮する代わり、少し威力が下がる。

 

「誓約に賭けるもの、命とはかけられるものの中で最も大きなものです。死んだら魔術は使えませんしね。ただ、この世界では死ぬということがない。なので、賭けるのは痛み、本物の死と同等の痛みです」

「でも、死とそれと同等の痛みは=(イコール)じゃないですよね?本当に大丈夫ですか?」

「完全に=ではありませんが、この痛みが遠くなっている結界内では、命と同価値の誓約にもなりうるでしょう。さあ、答えを聞きましょう。覚悟は?」

「•••••あります」

「よろしい。では、まずは私がこの命を持って奴を削ります!その内に音鳴さんは詠唱を、水守さんは何が何でも音鳴さんを守ってください」

「OK」

「わかりました。では、開始します。———雷、それは古き神々の怒り———」


 危険を察知した竜は、翼を大きく羽ばたかせる。

 またしても大きな風が巻き起こる。そして鋭く、速く、吹き荒れる。


「ここは私が。切り裂け、“フェイルノート”!」


 何度目かの撃ち合い、トリスタンは今回、更に矢の量を増やした。

 その数は10本。その全てが飛来する風の刃を切り裂いていく。


「王よ」


 トリスタンは囁いた。

 王、つまり獅子王(ししおう)のことだろう。

 聞こえるはずのない声量、しかし王は、騎士の声をしっかり聞き取っていた。


「この私に、命を賭ける許可をいただきたい」


「••••••••••」


「我が命は、この名を貰うと同時にあなたのものとなった。ですが、どうか一度だけ、私に返してはいただけないでしょうか」


「•••••••••••••••許す」


「ありがたき幸せ」


「しかし心せよ。この戦いが終わった後、この程度のトカゲなど1人で倒せるようになれ」


 トリスタンは言葉は発さず、ただ小さく頷いた。


「•••••この命、円卓に、王に捧げます。

           『殺せ』“フェイルノート”!」


 放たれた一矢は、風を切りながら、竜の心臓、魔核(まかく)へと一直線に飛んでいく。

 魔獣には、魔核という心臓が存在する。

 それは常に魔力を作り続けていて、その魔力のおかげで肉体の維持、魔術の使用が可能となっている。

 逆に、魔核を破壊されれば肉体を維持できなくなり、消滅してしまう。

 『殺せ』。これは呪言において最も強く、最も使えない言葉だ。

 自分より格下の相手ならば、一撃で仕留めることができる。だが、自分と互角以上の相手には、通じないどころか、自分に跳ね返る可能性もある。

 だが今回は違う。

 命をかけた誓約により、呪言はより強力なものになっている。

 呪言とは、基本的言い手と聞き手の2人以外対象にはなり得ない。矢を放った瞬間、言い手は命を落とすため、呪言が跳ね返る対象を失う。結果、聞き手以外に対象者がいなくなる。


『トリスタン選手退場!命を賭けた誓約により放たれた一矢が、どんどん竜へと飛んでいく!』


 そのまま竜の魔核は貫かれて•••••。

 そう、うまくいかないのが世の常だ。

 鋭く飛んでくる矢に命の危機を感じた竜は、魔力砲を瞬時にため、放つ。

 矢と魔力砲がぶつかりあう。

 魔力砲の火力は高い。普通は矢一本なんてすぐ焼き切れてしまう。が、この矢は違う。

 大きな呪いと魔力を纏った矢は、魔力砲と押し合えるだけの強さを持っていた。

 やがて魔力砲を凌駕し、死の呪いを纏った矢は竜の魔核にしっかり届いた。


 キゥェェェェェエ!!!!


 確かに魔矢は竜の魔核へ届いた。が、

 魔力砲により矢の角度が少しズレてしまう。

 結果、矢は魔核に多少のヒビを入れるだけで、呪言の効果は消えてしまった。


「やっぱ殺しきれなかったかー」


 天守は竜を見ながら、冷静に状況を見定めていた。


「もみじちゃん、準備はどう?」

「あと、少しで•••••、世界を掌握する大災害、魔力は弾け、閃光を走らせる———」


 周りの魔力がバチバチと電気を帯びている。

 それらはもみじの周りに集まり、杖の先に集中していく。


「•••••まあ、撃ってくるよね〜」


 目の前の佇む竜は、魔力を集中させていく。

 何度も見てきた、竜の魔力砲。だが、今回は、今までほどの力を感じない。

 トリスタンの一撃は、しっかり竜の力を削っていた。


「これが最後だよ。水属性魔術、“水鏡”!」


 竜の魔力砲が放たれる。それを迎え撃つべく、展開される水鏡、威力が落ちた魔力砲は、不完全な水鏡でも防ぐことができた。


「もって10秒、そっちは!?」

「もう、少し———」


 だんだんと水鏡に亀裂が入っていく。

 あの魔術を喰らったらまずい。竜はそう、本能的に察した。

 あの防御を突破することよりも、後ろにいるモノを壊すのが最優先にした。


「———うっそ」


 竜は、ゆっくりとその翼を羽ばたかせようと動かす。

 あれを撃たれたら防ぐ術がない。一か八か、防御のリソースをあちらに割くべきか、一瞬迷ったその刹那、天から太陽が降り注いだ。

 衝撃。

 フィールドが凄まじい衝撃に揺れ、竜が羽ばたかせようとした翼には、一筋の光の如く剣が突き刺さった。


「あなたは防御に集中を、こちらは私が押さえつけます!」


『Aクラス、トリスタン選手の退場により、フィールドにはガウェイン選手が投入された!入るや否や、ガウェイン選手最速で竜の翼に剣を突き刺した!』


 翼への重く鋭い一撃は、竜を怯ませるには十分だった。

 その一瞬のおかげで、竜殺し、最後のピースが揃った。


「我が命を此処に、邪悪なる竜に雷帝の鉄槌を!」

「準備OK?じゃ、私はここで〜」


 水鏡が解除される。それと同時に天守は光と共にその場を後にした。

 それを合図に、紫電の魔力が爆発する。


「雷属性完全詠唱魔術、“エル•エレクトロ“!」


 もみじの最大火力、完全なる詠唱と、命を賭けた誓約により、放たれる”エル・エレクトロ“。

 その強大な魔力を前に、竜は最後の魔力砲を放つ。

 最後の魔力のぶつかり合い。竜は自分の肉体を維持できなくなるほど、魔力を大砲へと注ぎ続ける。


「聖剣、”ガラティン“!」


 翼に鋭い痛みが走る。

 竜にとって、敵は目の前の少女だけでなく、もう1人いたことに気づいたが、もう、遅かった。


「はあああぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 翼への一撃の一瞬の怯みを、もみじは逃さなかった。

 もみじの杖から放たれる閃光は、竜の大砲を凌駕し、遂に竜を包み込んだ。

 魔核の崩壊。肉体維持が不可能となり、その体が魔力の粒子となって消えていく。

 大きな魔力の波が晴れた時、その場から、竜の姿は消えていた。


『なんていうスーパーレイドバトル!竜との押し合い、勝利したのは、トリスタン、もみじ、天守選手です!』


 観客席の歓声がより一層大きくなる。

 入学一ヶ月の一年生には不可能とされてきた竜種の討伐。達成感に顔を緩ませながら、音鳴もみじはフィールドから消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。