16話 魔術大祭③ 召喚《サモン》
御子が脱落する少し前、守は御子の流れ弾で意識が彼方へ向いていた。
その一瞬の隙を紫音は逃さなかった。
雷属性の身体強化によるスピードは、通常の強化の3倍である。守が気づいた時には、すでにほぼ目の前まで来ていた。
「しまっ•••••!」
「油断したな!チェックメイトだ」
その槍はものすごいスピードで迫ってくる。だが、守もタダではやられない。
咄嗟に、先が尖った石柱を作り、紫音の横から刺そうとする。
「ッ!?」
間一髪、攻撃を諦め防御に転ずることで、その一撃を回避した。
吹き飛ばされて姿勢を崩した紫音は、即座にその姿勢を立て直す。だが、目線を守に向けると、そこに守の姿はなかった。
気づけば守は、紫音の至近距離へと走っていた。
「自ら近づくとは、愚か!」
何か作戦があってのことと知りつつ、それでも紫音は何かされる前に串刺しにすればいい。そう思った。
その一撃は雷を纏い、凄まじい速度で迫ってくる。
だが、守は臆することなくその一撃に正面から迎え撃った。
その槍が顔面を突き刺さんとする刹那、紫音の真下が隆起する。
そして盛り上がった石柱が、紫音のアゴを強打した。
「がっ!?」
目がぐわんぐわんする。紫音の体は空中へと吹き飛んでいく。
アゴへの鋭い一撃に、視界は回り、判断力が著しく低下する。
その隙を、守は逃さない。
紫音を囲むように、周りから尖った石柱が伸びる。その石柱は、防御すらしない紫音の体を容易に貫いた。
『守選手の凄まじい一撃!紫音選手なす術なくその一撃を食らってしまう。御子選手に続き、Bクラス、早三紫音選手脱落です』
守は勝利を噛み締めるように体から力を抜く。
だが休息は訪れない。
「油断は禁物ですよ!」
「!?」
横から声をかけられ、体をこわばらせる。その隙をついた鋭い一刺しは、守の体を一撃で貫き•••••。
「なっ!?」
目の前には誰もいない。その奇怪な状況にパーシヴァルと守の2人が困惑する。
そこでようやく気づく。辺りに謎の気体が充満していることに。
『さあ、C、Bクラスの1番手の脱落により、2番手の出場だ!•••••?なんでしょう、入場と同時にフィールドに何かが充満しています』
『そして向かい合っていたパーシヴァル選手と守選手が互いに別の方向に攻撃をしましたね。意識撹乱系の魔術でしょうか』
充満する気体は次第に薄れていき、視界が明瞭になる。完全に気体が消えると、新しい人影が2つあった。
『新しくCクラスからは蜂莱恵選手、Bクラスからは疾風疾風選手が入場です』
「私の錯乱毒はいかがでしたか、お三方?」
「さっきのはお前の仕業か。一体何をした?」
守は臆さず警戒しながら会話する。
他の2人も動くことはせず、警戒を強めながら相手の話を聞く。
「私の名前は蜂莱恵と申します。私、薬の調合が得意でして、さっき使ったのは相手の方向感覚を奪い、かつ幻覚を見せる毒を使わせていただきました」
「毒、ですか。そのような悪質な不意打ちにかかってしまったのは不覚でしたが、あの程度の撹乱はもう通じませんよ」
パーシヴァルが挑発気味に言葉をかける。
その言葉に恵は乗ることなく余裕綽々としている。
「ええ。先ほどの薬はもう使いませんよ。まあ、それ以外はどんどん使わせていただきますが」
「ならば、使わせる前に仕留めるまで!」
パーシヴァルは先ほどの幻覚から、相手の厄介さを見抜き、即座に仕留める決断をする。
「聖槍、魔力解放」
パーシヴァルの言葉をトリガーに、手に持つ槍は、白く輝く神秘的な魔力と、紅の血の如き魔力を纏う。
「聖杯の奇跡を此処に、貫け!ロンギヌス!」
純白と紅の魔力を帯びた槍は、恵の心臓目掛けて一直線に飛んでいく。
回避は不能、その槍は一度投げられた途端、そう判断した恵は、心臓を貫かれるコンマ数秒のうちに、複数のフラスコを取り出した。
「風魔術、“薬風霧散”」
フィールドに風が吹く。
それと同時に、ロンギヌスの槍はその心臓を抉り貫いた。
恵は、その場に倒れ伏し、手にするフラスコを落として割ってしまう。
「•••••薬風霧散は、風魔術で、薬を広範囲に巻く」
「•••••••••?」
そこでパーシヴァル含め、恵を除いた3人は、フィールドに吹く風の異質さに気がついた。
「さっき割れたフラスコの中に入っていた薬物は、摂取すると、体が毒に侵され、必ず死に至る」
「!?」
反則級の毒じゃねぇか。
摂取、風に混ぜてるってことは、まずい。
守たちは状況に気付き、呼吸を止める。しかし、もう手遅れだった。
全員が同時に口から血を吐く。
「この毒、私にも効果があるんですよ。だから普通は使えない。いやぁ、いい実験ができました•••••」
それだけ言って、恵は光となって消えていく。
飛んだ置き土産していきやがった。
現在このフィールドに立つ3人は退場が確定だ。心配なのは、その毒がいつまで空気中にあるかだ。
もし長期間残留する毒なら、その後の選手にも少なからず影響が出る。
守が考えていると、突如足元に大量の魔術陣が出てくる。
「光属性魔術、”真光弾“」
言葉と共に全ての魔術陣から一斉に光線が放たれる。
「どんなエイムしてるんだよ、あれ」
放たれる真光弾の全てがフィールドを囲む結界の一点に集中的に当てられる。
真光弾を撃ち終えると結界にはヒビが入っていた。
ヒビを入れた張本人である疾風はその場に倒れる。
「••••••••••あとまか」
そう言って疾風は退場していった。
あとまかってなんだ?あとまか•••あとは•••まかせた、あとは任せたか。
「OK!やってやるよ!」
今残ってる魔力を全てぶつける。
魔力を込め始めると、地面を変形させて、一点に集め出す。
「地属性魔術、“ストーンキャノン”!」
変形させて固めた地面をヒビの辺りへ高速で放つ。
その岩石は風に乗りながら結界に衝突した。
魔力を使い果たし、守もその場に膝をつく。
「まだ、壊れないのかよ•••••」
結界はあと少しで壊れそうなのにあと一歩足りなかった。
「いえ、よくやってくれました」
純白の鎧に身を包んだ騎士が声を上げる。
「聖槍、魔力解放」
恵の心臓を貫いた一撃を、もう一度放つ。
「ロンギヌスッ!」
ロンギヌスは結界へ吸い込まれるように飛んでいく。
そして、強固な結界は遂に破壊した。
使命を全うした守とパーシヴァルの2人は、そのままフィールドを後にした。
『なんということだ!恵選手の死病の置き土産により、場にいた全員が退場してしまう!だが、3人の協力により結界に穴が空いた!』
『普通は壊せないはずなんですが、3人の残った魔力全てをぶつけられたことで、一部に穴が空いてしまいましたね。早急に修復しましょう』
『修復までに毒は霧散できるのか!?戦闘のバトンは次の選手に渡された!』
新たに場に出たのは、
Dクラスから岩崎陸。
Cクラスからサヴィ•サーモラル。
Bクラスから金剛拳。
Aクラスからガレス。
『さあ選手は総入れ替え、ここからどのような展開になるのか!」
陸は、フィールドに入った瞬間、呼吸を止めた。
先ほどの毒が残っている可能性があるため、気楽に呼吸できない。
『えー、やっと結界が塞がりました。ついでに結界の強度をかなり上げました』
もう破壊は不可能、もし毒が完全に消えていなければ、この先の戦闘は大きく不便なものになる。
そこで陸は、勇気を持って呼吸をすることにした。
さあ、吸うぞ、吸うぞ、1、2の、3!
「すぅっ!」
息を吸って何秒か待ってみる。
体に異変はナシ。毒は無くなっていると見ていいだろう。
「地属性魔術、“岩人形”」
陸は自分の周りに岩でできたゴーレムを作り出し、自分を守る陣形を取らせる。
「俺の役割も、守備をしながら様子を伺う。Aクラス以外はすでに3人目、今1番厄介なのはやっぱりAクラスか?」
他の選手を見てみる。全員毒がないことには気づいているが、無闇に動かない。
一色触発の睨み合い。最初の動きに全てがかかっている。
そして、最初に動いたのはCクラスだった。
「召喚、ブラックウルフ。敵を喰らえ!」
『サヴィ選手が扱うのは召喚術。今召喚されたのは低級魔獣のブラックウルフですね』
召喚術は、召喚者の魔力量に依存し、魔力量に応じて使役できる魔獣の質と数が変わる。
魔獣の等級は、低級、中級、上級、特級、王級の五種類である。
そのうち等級ごとに1〜10のレベルに分けられる。
低級のレベル2のブラックウルフは学校に入学できる人なら余裕で勝てる。
「おりゃぁぁぁぁぁ!」
召喚され続けるブラックウルフは、猛突進してくる女騎士によって早くも一網打尽にされてしまう。
名をガレス。Aクラスの4番手で、円卓の騎士ガレスの名を授かった魔術師。
「オオカミなんていくらでもどんとこいッス!私はまだまだ元気ッスよ!」
彼女は小柄な割に、片手に大きな盾を持ち、もう片手に剣を持っている。
ブラックウルフを何匹も倒す姿は勇敢な印象を抱かせる。
召喚されるブラックウルフは、どんどん倒されていくが、術者のサヴィは懲りずに召喚を続けている。
「なんで弱いブラックウルフを無駄と知りながら召喚し続けるんだろうか?」
あのウルフが何匹集まってもガレスを倒すことはできず、先に術者の魔力が枯渇してしまうだろう。
「余所見してんじゃ、ねぇッ!」
「チッ!」
陸の目の前には拳がゴーレムと殴り合っている。
陸は計3体のゴーレムを拳と戦わせている。
3体もいれば完封できると思っていたのに、拳は3体のゴーレム相手に圧倒していた。
「マジかよ、ゴーレムって普通人間よりも力強いんだぞ•••••」
「ハッ、こんな石人形何体いようが俺様の敵じゃぁねぇぜ!」
3体のゴーレムは1体また1体と破壊されていく。
やむを得ず新たなゴーレム3体作る。
倒すのではなく、あくまで防御、時間稼ぎとして。
その間に、ガレスとサヴィの戦いを眺める。
「やっぱ変だよな。どう見たってあんなに召喚しても意味がない。いや、意味がないと理解しながらブラックウルフだけを召喚してるようにも見える」
なぜブラックウルフにこだわる?低級でももう少し強いやつはいるのに•••••。
なにか別の目的があるのか?
「だから、無視してんじゃ、ッねぇ!!」
「ッ!」
気づけば周りは瓦礫だらけ、拳はこちらへ一直線に走ってくる。
マジかこいつ、俺のゴーレムを全部破壊したってのか!?
「覚悟しなぁッ!」
「地属性魔術、ウォール!」
「しゃらくせぇ!」
正面に作った壁は、バゴォッと音を立てて壊れた。
超近距離に近づかれ、その一撃が陸へ迫る。
防御は無意味、カウンター!
その時だった。
ズアァ!
大きな魔力の流れがフィールドを覆った。
「「「!?」」」
フィールドにいる全員の動きが止まる。
その全ての目線が一点、サヴィの元へ向けられる。
「大地に降り立ち、破壊せよ。その翼は空を制し、矮小なる生物を蹂躙せよ」
全員が見てる中、サヴィは詠唱を開始する。
それは召喚術の詠唱だ。
「我が命を捧げ、天を統べる竜を此処に」
この一節って、確か•••••!?おいおい、マジかよ。
「我が呼び声に応えよ、風を司る魔竜よ!!」
詠唱の終了と共に、フィールドには豪風が巻き起こった。
その風は刃の如く鋭く吹き荒れ、フィールドを蹂躙した。




