13話 魔術大祭1 王取り合戦
大魔術結界の中に入った僕は、結界内の有様に圧倒されていた。
今まさにあらゆるものが作り替えられ、スタジアムが形成されていく。辺りに満ちる魔力はこれまで見たどれとも比較にならないほどだ。
辺りを見渡すと学生だけでない、独立した魔術師も大勢集まっていた。
少し移動し、Dクラスが集まっているところに向かった。
「お、やっと来たな」
クラスの中で1番仲が良い友達、岩崎陸が話しかけてきた。そんなに遅かったかな。
「時間的には問題ありません。ただあなた方が最後に来ましたね」
不知火火影もいて、よく見ると確かに僕らが最後らしい。
と、全員集まったことを確認した紅炎先生が声をかける。
「全員揃ったところで、さっさと移動するぞ」
先導されて、着いたのは現在作られている最中のスタジアムの中だった。
周りを見渡すと、観戦に来た人たちがたくさんこちらを見ている。
そして周りには別クラスの人たちがいた。
「あれ?一年生だけ?他の学年は」
「他の学年は別の場所でやってますよ。最終競技を除いて、大祭は基本クラス間の戦いですから」
へー、そうなんだ。と思っていたら周りにはアナウンスが鳴り響いた。
『さあさあ、時間が来ました!今年の魔術大祭もまもなく始まります!実況は私、囁 紫音がお送りします』
空を見上げると、夜の闇は晴れかけていて、日の光が見えてきている。
『新入生の皆さん、初めての魔術大祭で緊張もあるでしょうが、正々堂々、楽しんでいきましょう!』
確かにこの数の人に見られてる状況では少し緊張するな。
見渡せば1年生と、観客席にいる魔術師たち。1年の親もいれば、かなり上位の魔術師、魔探協会から派生した派閥などなど。
実況席を見ると、実況者と、千歳、そして聖魔教会の教皇とあの時の神父もいた。
『早速ですが、大祭に前置きなど無し!第一回戦、王取り合戦を始めたいと思います!選手の皆さん、準備はいいですか?』
第一回戦、王取り合戦に出る四人は、まず王の役には火影が、騎士には、僕と岩崎陸、鉄穴森守の3人である。
陸と守は土属性に適性があり、護りにおいてはクラスでもトップだ。
攻撃は僕が、残りの二人は地属性の魔術を駆使して火影の護衛をする、護衛戦用の編成だ。
『さあ、全クラス位置につきましたね。では早速始めようと思います。魔術大祭並びに王取り合戦、スタート!』
僕たちDクラスの先方は基本守り、てかそもそもこの戦いはあんまり攻めるのは得策じゃない。
そう、守りこそこの戦いの要、なのだが、Bクラスから猛スピードでAクラスへと突っ込んでいく人がいた。
『おっとこれはぁ!Bクラス、風切 刃が突進!Aクラスのエリアへ突入する!その速さはまさに風を切るが如く!』
実況につられて全ての視線が集中する。刃は距離にして五百メートルを実況が終わるまでの数秒で走り切っていた。
刃は刀を持っており、目の前で武器を構えるAクラスの騎士に対してその刀身を抜いた。
3人の騎士のうち一人は前に出るが、刃の迫るスピードはあまりに速い。相手の動きの全てを置き去りにして、刃は通り過ぎ様に相手を斬る。
その一撃は深く、その騎士は光と共にその場から消える。
『速い速い刃選手!早くもAクラスの騎士が一人脱落してしまう!だが状況はどんどん進み、実況が追いつきません!』
その実況のうちに、残りの二人も制圧され、道を譲ってしまう。
急激な猛攻になす術もなく踏破されてしまうAクラス。そして刃はAクラスの王の前に立つ。
Aクラスの王は、自分を睨みつける刃を見て、薄く笑みを浮かべた。
「ほう、我が騎士をあっさりと討つとは。この戦、俺が出るまでもないと思っていたのだが、少しはできる奴がいるようだな。良い、貴様には俺自らその首を落としてやろう」
Aクラスの王の振る舞いは、本物の王のようだ。役に入り込んでいるという雰囲気でもなく、王の覇気のようなものを感じる。
あれが獅子王とかいう奴か。
刃は無言で刀を相手に向けて走り出す。
それに対して獅子王は魔術を発動させる。獅子王の周りには、突如三本の槍が出現する。
「さあ、我が力の一端、見切れるものなら見切って見せよ!」
言葉と共に、それらの槍は物凄いスピードで刃の元へ飛んでいく。
刃はその全てを弾こうとする。だが、刀と槍がぶつかろうとする瞬間、刃の姿が光と共に消えた。
『全員の目がAクラス陣地に目を奪われていた!その隙を突いたのはCクラス!防御も間に合わず、Bクラスの王の首が取られてしまった!』
その実況で全員の目がBクラス陣地へと向けられる。そこにはナイフを一本握っている人がいた。
刃を狙っていた槍たちは空を切って地面へ刺さる。
刃の退場に、獅子王の表情が暗くなる。
戦う前に退場してしまったことに興味を削がれた獅子王は、立ち直した騎士の3人に向かって声をかけた。
「おい!後のことは貴様らに任せる。存分に戦うがいい」
「はっ!」
獅子王は指示を出すだけ出して、椅子にふんぞり返った。
その会話は試合の設定としての王と騎士の関係とは思えないほど、主従がはっきりした会話だった。
そう、これこそAクラスが国と例えられる理由である。
Aクラスには明確な主従関係が築き上げられていた。
王として獅子王が頂点に立ち、残りの9人は王国の民。王を慕い、働き、守護する絶対王政が行われているのだ。
* * *
早々にBクラスが退場したのを見て、僕らは最下位にならないことへの安心感と、Aクラスへの警戒が強まった。
「Aクラス、騎士の3人はともかく、獅子王の魔術•••••」
「ええ、魔術の質がとても高い。そして魔力の量、学生一人が出せる魔力量にしては大きいように思えました」
あの槍は創造魔術だろうか、たった三本だけだったが、それに込められる魔力は僕が作る三本分の数倍はあったと思う。
けど、どこか違和感があった気がする。魔力が混ざってたというか、複数属性?いや、そういうのじゃなくて•••••。
「光祐さん、考えるのは後です。Aの騎士がこちらに走ってきます」
言われて見てみると、こちらへ走ってくる影があった。
『Aクラス騎士、えーっと、え、これ本名です?でも登録者名簿には、はい、はい、OKです。Aクラス騎士、ガウェイン選手、剣を片手に特攻だ!』
さっきの刃ほどではないが、すごい加速でこちらに向かってくる。そしてこの名前は•••••。
「ガウェインって確か、アーサー王物語に出てくる円卓の騎士だっけ」
「はい。物語では武勇と礼節を兼ね備える名高い騎士です。正午に向けて力が増すとされ、その力はケルトの太陽神や自然信仰に由来するとか」
「ずいぶん詳しいな。アーサー王物語好きなの?」
「まあ程々には。さっきのアナウンスから本名ではないのでしょう。わざわざガウェインを名乗るところ、警戒はしておくべきでしょう」
正午か。今の時間は4、5時ぐらいか。じゃあそんなに警戒する必要は無いかな。
僕は近づいてくる奴の前に立ち、剣を創造して初撃を防ぐ。
———っ!加速が付いていたとはいえ、なんて重い一撃だ。
「我が一撃を防ぐとは、なかなかの使い手とお見受けする。だが、私には太陽の加護がある。勝つのは私だ!」
「加護?でも太陽はまだ上りきってないぞ」
「それで十分と言っているのですッ!」
ガウェインは一撃一撃が重たく、剣技も凄まじい。まずいな。このままじゃ押し切られちまう。
初戦で出すつもりはなかったんだがな。出し惜しみできる相手じゃなさそうだ。
「その加護とやら、確かにすごいな」
「ええ。なんせ王から賜った力ですのでね」
「王から?どう言うことかは知らんが、お前の加護、太陽そのものの力には勝てるかな?」
「なに———ッ!!」
空気中に強い熱と光を帯びた魔力が湧き出す。
僕はその魔力を剣に集中させ、ガウェインの剣を弾いて、さらに剣を振るう。
急に強くなった光祐に一瞬遅れをとるが、ガウェインはすぐに立て直す。だが光祐の猛攻は止まらず、防戦に回ってしまう。
「その力、貴様、何をした!」
「お前を認めたのさ。そういえばお前の名前、なんで偽名なんだ?」
「くっ、話すほど余裕ですか。———名前については、王の趣味のようなものです。自分がアーサーなのなら、騎士は円卓でなくては、とのことです」
自分がアーサー?ああ、そいえば獅子王もアーサーって名乗ってたんだっけ。
「その力も王からもらったとか言ってたな。獅子王の魔術は趣味を具現化するのか?円卓オタク?」
「王への侮辱なら許しませんよ。ですが、そうですね。あの魔術はそれに近いものかもしれませんが、その実、私もよく知りません」
細かくは違うのだろうが、この情報は実にありがたい。獅子王の情報は少ないからな。
話をするうちに剣戟は30を超えていた。ただしその全ては相殺され合っている。
「時間をかけ過ぎましたね。そろそろ終わりにして、あなたの王を取るとしましょう」
「させるかよ。お前はここで退場だ!」
「王のため、その首、いただきます!」
ガウェインの持つ剣に魔力が集中する。
強大な一撃が来ると悟り、僕も剣に魔力を込める。
二人の魔力は高まり、ガウェインが動いた。
「太陽よ、我が王よ!力を分け与え賜え!」
剣に纏われる魔力が最高潮に達する。そしてその魔力はただ一点、光祐に向かって放たれる。
「聖剣、“ガラティン”!」
その魔力は炎へと変換され、一直線に光線となって迫ってくる。その一撃に普通の防御では防ぎきれないと悟り、光祐は2週間で編み出した、剣の崩壊を制約に繰り出す一撃で応戦する。
「太陽の光!!」
高出力の魔術同士がぶつかり合う。周りは熱が包み、燃やし尽くす。そして次の瞬間、勝負が決した。
「はああぁぁぁぁぁぁぁ!」
「なッ!?」
光祐の剣から放たれた光がガラティンの熱線を切り裂き、その中を突き進む。
魔力を剣に集中させていたガウェインは、完全な無防備、その一撃はガウェインの剣を両断し、その剣は体にまで届いた。
「———我が剣が、斬られるとは。申し訳ありません。我が王よ」
ガウェインは膝をつき、手から剣を落とす。そのまま光を放ち、その場から消える。
『ガウェイン選手退場!光祐選強い!凄まじい熱気に石造りのステージが溶けてしまった!』
僕は勝負の終わりに息をつく。
なかなかの剣技だった。しかも正午になるとさらに強くなるのか、次戦ったら勝てるか怪しいな。
「おーい!一人倒したぞ、火影———」
火影に目を向けた瞬間、その目には火影の背後に迫る人影が映り、瞬間走り出す。
「後ろだ、火影!」
「!?」
火影は、声に釣られて後ろを振り返る。後ろには一人の暗殺者がナイフを振りかぶっている。
陸と守の地属性魔術は間に合わず、そのナイフは火影の首へ一直線に突き刺さった。




