第29話:描画未完了区域と漏れ出た言葉
Chapter Soundtrack:
The Rolling Stones - "Jumpin' Jack Flash"
(BGM: ローリング・ストーンズのロックな名曲に乗せてお送りする第29話! 描画未完了区域(レンダリング未完了ゾーン)で遭遇するテクスチャ無しの狼! 崩壊する現実、削られていく世界、そして籠12から漏れ出た「ある言葉」……! 緊張感溢れるバトルと衝撃の展開をお楽しみください)
北の街道での最初の一日は、決して悪くは始まらなかった。ただ単に、刻一刻と灰色に染まっていったのだ。
嵐のような灰色でもなければ、詩的な灰色でもない。いじってはいけないスライダーを誰かが下げてしまったかのような、彩度の欠落した灰色。草は相変わらず草であったが、その緑は薄れつつあった。鳥たちは変わらずさえずっていたものの、クチバシが開いてから声が届くまでに、ほんのわずかな、目に見えないほどのタイムラグが生じていた。
「誰か他に気づいてる? それとも私だけ?」
数秒ごとに「生きている」と「枯れている」の間で点滅し、自らの状態を決めかねているかのような低木を見つめながら、ウンバが尋ねた。
「全員気づいてるわよ」歩調を緩めることなくタラが言った。「ただ声に出して言ったのがアンタだけってだけよ」
トリクシーはここしばらくの間、湯気を立てるコーヒーカップに手を触れていなかった。Kimはそれを、妖精におけるサイレントアラームの同等物として解釈することを覚えていた。
「未安定レンダリング区域に入ったわ」いつもの軽快さを欠いたトーンで、彼女が報告した。「クレーターに近づけば近づくほど、世界が完成するまでの時間が足りなくなっている。ここでは予算云々の話じゃない。純粋な未完成工事現場よ」
「危険なのか?」職業上の純粋な直感から、すでにナイフに手を伸ばしながらアイレフが聞いた。
「技術的には、ここはまだ存在すらしていないはずの場所よ」トリクシーが言った。「だから、ええ。未完成なものは自らの独自の論理をでっち上げる傾向があるわ」
それを最初に感じ取ったのはロサリンドだった。四本足を踏みしめてピタリと立ち止まり、これまでのどれとも違う低い嘶きを漏らした。いら立ちからではなく、目の前にあるものがそこ存在する権利を有していないのだと、完全な真面目さで認識したロバの嘶きだった。
前方、道は踏み固められた土の開けた場所へと出ていた。そしてその中央で、食卓ほどの大きさの地面の一角が、純粋に「何もない」状態になっていた。穴ではない。暗闇でもない。誰かが描く時間を取れなかった時に生じる「無」の正確な色——まるで読み込まれることのなかったテクスチャの背景のような、点滅するマゼンタがかった灰色。
「踏むんじゃないわよ」無駄な制止をタラが口にした。誰一人として踏む気など毛頭なかったからだ。
その時、何かがその内側から現れた。
彼らに向かって歩いてきたわけではない。それはまるで、テクスチャの穴が「狼」のシルエットをとることを決めたかのように広がった。「狼」の手元に一番近かったシルエットがそれだったからだという理由だけで。毛はなかった。目はなかった。捕食者の正しい輪郭だけを持ち、その輪郭の内側には、地面と同じ点滅する空洞が、純粋な幾何学的意志によって保持されていた。
【 未分類エンティティ 】
【 出元:描画未完了区域 】
【 予想行動:記録なし 】
【 警告:システムはこの相互作用を予測できません。自己責任で行動してください。 】
「トリクシー」胸の籠12が緊迫していくのを感じながら、Kimが言った。「この画面、他のどれよりも笑えないんだけど」
「笑えないからよ」
テクスチャ無しの狼が跳躍した。タラはすでに抜刀した剣で割り込んだが、その一撃は肉に金属が喰い込む音を立てなかった——何の音もしなかった。手応えがあるべき場所にぽっかりと空いた空虚な沈黙があり、刃は生き物の側腹部を、まるで相手がそれに気づきもしないかのように通り抜けた。
「傷をつける場所がないわ!」旅のなかで初めて、タラが一歩後退しながら叫んだ。
ウンバが光の鎖を放った。今度は手応えがあった——表面など存在しない体内ではなく、その境界線、生き物が終わり、読み込まれた世界が再び始まる目に見えない縫い目の部分に固着したのだ。狼は遠吠えを上げた。それが遠吠えと呼べるものならば、であったが。その音は限度まで引き伸ばされたモデムのきしみ音に近く、歪み、聞くのが苦痛な音だった。
その混乱のさなか、数日間の旅ですでに擦り切れていた籠12のロープの一本が、ぷつりと切れた。
何が起きたのか理解する前に、Kimは腕から重みが消えるのを感じた。籠が開けた場所の縁——テクスチャの穴に向かって転がっていき、彼は考えるより早く、誰の命令を待つこともなく、その後を追って身を投げ出した。
「KIM、ダメよ!」タラの叫びは遅かった。
穴の縁まであと一握りのところで籠に追いつき、それを持ち上げた。そしてその一瞬、ほんのコンマ数秒の間、彼の右腕全体——籠を支え、最も「無」に近い位置にあった腕が、完全にはそこに存在しなくなった。消えたわけではない。ただピントがぼやけた写真のように輪郭を失い、彼自身の皮膚の境界線が、穴と同じ点滅するマゼンタがかった灰色へと溶けていった。
【 警告:ユニット12の致命的分離を検知 】
【 登録不安定性:40%……上昇中 】
痛みはなかった。それが、ある意味で最悪だった。何も痛まず、読み込まれなくなる感覚とはまさにこういうものなのだと、Kimの冷ややかな思考の一部が理解していた。
籠の中のニワトリは、彼に向かって首を傾げた。片方の目を固定し、もう片方は見えない。
そしてハト小屋を出て以来、初めて彼女は喋った。
接続音ではなかった。鳴き声でもなかった。十一話分の羽毛と鳥の骨を突き抜けて絞り出されたような、掠れた、人間の一音節だった。
「……動くな」
Kimは動かずにいた。
腕が戻ってきた。何の前触れもなく、いつもと同じ鮮明さで、まるで世界が出し抜けに、犯しきってもいないエラーに対して遅まきながら謝罪でもしたかのように。
【 登録不安定性:0% 】
【 システム注記:エラーを修復した要因を特定できません。保留案件として処理します。 】
後方では、アイレフが唯一正気な解決策を見出していた。傷つける場所すらないものに攻撃するのをやめ、代わりにロサリンドの背中に残りの籠を固定していたロープを鮮やかに切り払い、十一羽の普通のニワトリを開けた場所から遠ざけたのだ。その間、ランロットは——自分自身を含む全員の驚きを余所に——盾を掲げて狼とグループの間に立ちはだかった。何の宣言も叫ばず、ただ耐え忍んでいた。
最も近い獲物を奪われ、ウンバの光の縫い目に未だ引っ張られていたテクスチャ無しの狼は、一歩後退した。そしてもう一歩。そして現れた時と同じく何の前触れもなく、それ自体の中に折りたたまれ、再びただの地面の穴へと戻った。静かに、そこに何が入るべきかを誰かが決定し終えるのを待つかのように。
数秒間、誰も動かなかった。
「……いま、『動くな』って言ったの?」
再び息ができるようになる前に確認を必要とする者の声で、ウンバがようやく尋ねた。
Kimは籠を見た。ニワトリはすでに見た目上、ただのニワトリに戻っていた——静かに、尊大に、羽毛をかすかに逆立てて、その言葉を繰り返す気など毛頭ない様子で。
「ああ」誰に頼まれるでもなく、再び籠を胸にぴったりと抱きしめながらKimが言った。「『動くな』って言った」
タラはゆっくりと剣を鞘に納めた。もうただの踏み固められた土に過ぎず、まるで一度も変わったことがなかったかのような地面の穴から目を離さずに。
「結構」いつもの確信に満ちたものより、ほんの少しだけ声のトーンを落としてタラが言った。「こんな日が、あと十日続くわけね」
背中にまだ半分の籠を載せたロサリンドは、愚痴とは聞こえない鼻鳴らしを上げた。
それは、自分にあと正確に何日が残されているのかを、静かに数えている者の音に聞こえた。
第29話をお読みいただきありがとうございます!
描画未完了区域(レンダリング未完了ゾーン)で遭遇するテクスチャ無しの狼!
そして絶体絶命の瞬間、右腕の存在が薄れゆくキムを引き留めたのは……籠12のニワトリが放った「動くな」というかすれた一言でした。
システムエラーを無理やりねじ伏せるほどの意志と、深まる「ユニット12」の謎。
『Persona 4』から続く不条理で熱い展開に、今回は The Rolling Stones の "Jumpin' Jack Flash" が爆走感たっぷりに寄り添います!
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【新章 Soundtrack List】
・第二十八話: Robert Johnson / The Blues Brothers - "Sweet Home Chicago"
・第二十九話: The Rolling Stones - "Jumpin' Jack Flash"
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残された日数はあと十日。黒い隕石のクレーターへ向かう旅路は、ますます過酷でパーソナルなものへとなっていきます……!
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Thank you for reading Chapter 29!
The party encounters a textureless glitched wolf in the incomplete rendering zone, and Unit 12 speaks her very first word to save Kim from fading out!
Today's soundtrack features "Jumpin' Jack Flash" by The Rolling Stones!
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