第八話
人もまばらになってきた会場を後にしようとした時、駐車場から僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「あれ……」
こちらに駆け寄ってきたのは、中学時代の顧問だった。三年近く会っていないが、全く変わっていなかった。強いて言えば、私服姿なので少し違和感があった。
「お久しぶりです。観に来てくれたんですね」
「あぁ、知り合いの先生に誘われてね。萩野が出場すると聞いていたから、応援もかねてな」
「じゃあ、今日の勝利は先生のお陰ですね」
「滅多なことを言うんじゃない。あれは君の実力だ。……全く、その癖は治ってないな」
「あはは……」
先生は僕の額を軽く小突くと、溜息を吐きながら笑った。
「萩野はタンポポみたいだな」
中学の卒業式前日。
先生は卒業アルバムに小さなタンポポを描いてくれた。
『アスファルトを破るところまで来たんだよ、萩野』
あの言葉は今でも覚えている。
「タンポポ根性で頑張ってきましたから」
「そうだそうだ、アルバムに描いたなぁ。もうアスファルトじゃ狭いな、植え替えしたほうがいい。あぁ、でも萩野は根が深そうだからなぁ……」
「ちょっと、どういう意味ですか」
先生も報告したい人のうちの一人だった。こうして目の前で喜んでくれると、頑張って良かったなと思える。僕は中学時代、そんなに活躍できなかったから。
先生は僕の追及をのらりくらり躱しながら、この後は?と聞いてきた。
「絆侍に、報告しようと思って」
「あー……そうか……」
先生は眉間を押さえてしばらく考え込んだ後に、「よろしくって伝えておいてくれ」と言って、その場を去っていった。
先生の苦い顔が少し引っ掛かったけど、僕は気にせず部員たちと共に駅へ向かった。
今年は近場で本当に良かった。これなら、新幹線で2時間くらいで帰れるかもしれない。
……早く、伝えないと。




