第二十七話
本番前の練習は全員熱が入っていた。
たった一週間の出来事だったとはいえ、剣道のことに足を取られず握れるギターは、いつも以上に軽く感じた。
趣味で曲を聴いている時は、歌詞を見ながら思いを馳せるのに、いざ自分が歌う番になると文字の羅列に見えていた。歌にもテクニックがある。歌詞や曲の進行に合わせて使い分ける必要があるのに、俺はあと一押し足りていなかった。
「絆侍、それ何?今更歌詞カードなくても歌えるじゃん」
依織が俺のメモを指さした。
「あぁ。俺の歌い方を整理したくてメモしたんだ。依織と歌詞を考えた日の夜、この曲と改めて向き合ってみようと思って」
「へ……」
間の抜けた声に思わず眉間に皺を寄せた。
「何か変なことでも言ったか」
「いや、今までそんなこと言わなかったから、びっくりしちゃって」
「悪かったな俺の解釈が浅くて」
「誰もそこまで言ってないってば!!」
後輩たちも俺を見て目を丸くしていた。昨日のやり取りを知らないのだから仕方がない。それでも、誰も余計なことは聞かなかった。音を出せばわかるとでも言うように、それぞれが楽器を構えた。
「ほら、聞きたいんだろ。俺の声」
声出しも終わり、ちょうど喉が温まってきた頃だ。
俺の熱を、音に乗せてやる。
煽るように手招きすると、依織は好戦的な笑みを浮かべてベースを構えた。
「勿論。心が震えるような音を聞かせてよ」
依織がドラマーの後輩に視線を送る。スティックのカウントに合わせて曲が始まり、俺は大きく息を吸い込んだ。
もっと早くに考えればわかる話だったんだ。
依織の感性を俺は汲み取れない。だからこそ、依織は俺が心を乗せやすいような歌詞をずっと書いていた。
……気づかなかったのは俺の怠慢だ。
俺たちバンド全員の色を乗せた言葉とメロディーを依織は作り続けていたのに。
練習で何度も躓いた箇所は、すっかり直っていた。以前よりも音が揃っている。俺が感情を込めて歌うたびに、演奏のボルテージが上がっていくようだった。
「……ははっ、すごい、すごいよ絆侍!!俺が思い描いていた通りの歌い方だ。いや、それ以上かも」
依織は顔をくしゃくしゃにして笑っていた。
いつもの茶化す笑い方ではなく、堪えきれないものが溢れたような笑い方だった。
「歌も良くなってるのに、ちゃっかりギターまで上達してる。相変わらず嫌な奴だなぁ」
「そこも素直に褒めろよ」
ようやく俺が切望していた音楽に手が届いた気がした。
あとは会場で伝えるのみ。
俺たちのことを何も知らない人たちの、心を動かしてみせる。




