第二話
前述の通り、俺がどれだけ夏を嫌っているか十分に伝わったかと思う。両親は何故か家に工事を施すことを極端に嫌っている。母親がドラマの見逃し配信を観たいからとインターネットの光回線は開通させたのに、エアコンの工事は嫌いらしい。どれだけ速くとも涼しさは運んでくれないというのに。もはや意地と屁理屈だ。
仮にも受験生がいる家庭だ。兄貴が乗り越えたからといって、俺にも同じ環境を強いないでほしい。こちらは観測史上過去最高なのだから。今時の夏はオリンピック選手さながらの記録更新速度だ。舐めないでほしい。
お陰様で桶の水はあっという間にぬるま湯だ。そろそろ風呂の温度を超える。
俺がこのクソ暑い家に留まっているのは、図書館へ行くのも面倒だからだ。
ファッキンホット夏。
こんなことで体力を消耗している場合ではない。エアコンの有無で負けて堪るか。世の中の馬鹿どもが遊んでいる間に、差をつけてやる。
気持ちを切り替えて勉強を再開した俺を妨げようと、一人の足音が迫っていた。長年この家に住んでいれば、渡り廊下の軋み具合で歩き方の癖がわかる。全くもって望んでいない来訪者に、内心うんざりしながら顔を上げた。
「絆侍、ちょっといいか」
その確認は何のためなのか。俺の意思など関係なしにずかずかと部屋に入りこんできたのは、四つ歳の離れた兄だった。
両親の期待に応え続け、何でもそつなくこなす。俺にとって目の上のタンコブそのもの。俺の反抗的な態度を気にも留めない。それどころか扇風機の前に腰を下ろして、風を独占し始めた。流石に腹が立ったので、元に戻した。
「今日の試合結果、もう聞いたか?」
「……何が」
わかっていても言葉にしたくないものがある。
俺の家は剣道場だ。夏、大会、と言えば一つしかない。
誰の結果かなんて、聞くまでもない。
「別に興味ないし。俺と関係ある?ソレ」
「……」
兄貴は苦虫を噛み潰したような顔をした。そんな顔を俺に向けるなら、話題を振らないでほしい。最初から俺が嫌がるとわかっていたはずだ。
「直史の、決勝だったんだぞ」
直史。
俺のことを憎んでいる、かつての相棒。




