第十話
表彰台の景色は見慣れていた。幾度となく立った場所。
別に誇らしくもなかった。俺のことを見上げる奴らの視線なんかどうでもよかった。俺が勝つたびに、天才だなんだと周囲は持て囃した。
……天才?お前らの怠惰を俺に押し付けるな。
一回で何でも出来るほど器用じゃない。それに見合うだけの努力があった。俺だって積み重ねた時間と労力の上に立っているんだ。特別な人間じゃない。
それも今日で終わりだ。この目を焼きそうな白熱灯から解放される。
表彰式が終わると、直史は誰よりも先に俺のもとへ走ってきた。
「やったね!絆侍、お疲れ様!」
裏表のない性格がつくづく羨ましかった。俺が優勝するたびにお前は比較されるのに、労い、喜んでくれた。
……俺も、こんな風に喜べたらよかったのに。
はしゃぐ姿が犬みたいだった。
「ハハッ、はしゃぎすぎだって」
閉会式が終わった後のホテルでも、直史は俺より喜んでいた。
これを見るのも最後だと思うと、ほんの寂しかった。
……寂しい?ようやく終わったのに。
翌日、家路につくと、細い廊下で揉みくちゃになっている弟と妹が出迎えた。
弟は小学六年生で、妹は小学一年生だった。
「お兄ちゃんおめでとう!!」
「今日はごちそーだって!!」
「ありがとう。もうみんな待ってんの?」
「ううん。紡お兄ちゃんはケーキ買いに行ってる」
「大袈裟だな……」
二人に背中を押されながらリビングへ辿り着くと、母のお手製の手料理が大量に並べられていた。俺が優勝してくると信じて、前日から仕込んでいたらしい。とても一人で準備した量とは思えなかった。心なしか、いつもぶっきらぼうな父も機嫌が良さそうに見える。
「ねえお母さん!もうお腹空いたよ~。お兄ちゃん帰ってきたから食べよう?」
「私も食べたーい!!ぺこぺこ!!」
もはや誰のためのご馳走かわからない。母が俺を困ったように見るから、夕飯にしようと促した。
「お兄ちゃん、俺の唐揚げあげる」
「何でお前の皿の唐揚げ食べるんだよ。自分で取るからいい」
「せっかくあげようと思ったのにー」
「いいから。気にしないで食べろって」
「わかった!」
弟は兄貴ではなく俺によく懐いている。歳が近いからか、俺の真似事ばかりしていた。俺の背中を追うように、厳しい父に扱かれながら稽古に励んでいる。残念ながら、勉強の出来は良くないらしい。
明日から部活のない日々が訪れる実感がなかった。もう勝ち続ける必要もない。それだけで息がしやすかった。
両親から、ぽつりぽつりと試合の感想を聞かれ、答えると父は満足そうに笑っていた。父は珍しく機嫌が良かった。試合内容を聞かれたのも久しぶりだ。普段なら、「勝ったのか」それだけで終わる。今日は違った。あぁ、全中だからか。
俺にとって最後の試合。最後の剣道。
……そう思っていた。




