9.
カルゴーネとはひどく貧しい村だ。小さな川の畔、水源を求めた人々が寄り合い作られた村は特産品も無ければ交通の便も悪く、どれほど働いたとて日々の暮らしを続けるので精一杯だ。トナは生まれた時からそんな村と一生を共にし続けた。
貧しいのは辛い、多くの人々はそれを知ってはいるが実感してはいない。しかしカルゴーネにおいては然程珍しくもない話だ。トナが子供の頃は農業が今ほど軌道に乗っておらず不作の年は命懸けで獣を狩りに行き飢えを凌いだ。その際に獣に襲われ深手を負い亡くなった者も見て来た。経験が積まれ作物が採れる量が増えて来た今でもそう大きく生活が変わる事は無い。子供が生まれればより多くの食料が求められ、土地を開墾し、新たに作物を植える。毎日がその繰り返しだ。
村長になって、彼女には責任が生まれた。しかしやはり生活は苦しいままだ。雨が長引けば洪水を恐れ、日差しが続けば干ばつを恐れ、人々の悩みは尽きず誰も彼もが彼女を頼りに来る。気が付けば長年連れ添った旦那さえ居なくなり、この先が、恐ろしい。
辛く苦しい日々が延々と続く。彼女は、この苦痛から逃れたかった。
「聞いてくれ村長、石炭が出たんだ!」
だから、その言葉を聞いた時、彼女はとうとう自分にも救いの神が訪れた、そう思った。どうにかしてその石炭を自分の物にしたいと、炭鉱の利益を全て得たいと考えた。彼女はとうに苦痛に耐えられなくなっていたのだ。人は痛みに弱い生き物だから。
計画を立てる、本来ならば綿密な計画の元で内々に全てを処理したかったところだが、既に様々な想定外が起こっていた。発生する幾つもの異常、隣町への情報の流出、炭鉱を自身の物にするには些か邪魔が多い。
特に面倒だったのは異常の方だ。ここは元々異常のある場所だったが、最近は特に多い。隣町へ炭鉱の話が漏れたようにいずれその話も外へ漏れるだろう。オルディア教の聖騎士が来ればその結果がどうなるかはわからない。
故に彼女は一芝居打つ事にしたのだ。
「サンクトとか言ったね。どうだい? 手を結ばないか?」
炭鉱の利益を餌にサンクトと手を組み。
「ランド、炭鉱を守りたいなら良い方法がある」
ランド達に異常を偽り人々を脅かすよう誘導し。
「丁度いい所に来たねヤムク。あんたも手伝いな」
運の悪い行商人を手下に引き入れた。
彼女の中ではこれは上手く行くはずだった。自分の存在にまで彼らの調査が及ばなければ石炭をサンクトに売って利益を得る事で幸せな暮らしを得られると思っていたのだ。予定外だったのはヤムクのあまりの演技の下手さと、ヒカリゴケの存在を知っている者がいた事だろう。
ともかく、彼女はそうして今、聖騎士たちの前に立っている。
「大人しく投降する事をお勧めしますが」
クレアはひとまず目の前に立つトナとサンクトに剣を向けてそう言った。しかし二人共鼻で笑うばかりでそうするつもりは無いようだ。
「お、おい! 村長をどうする気だ?」
後方にいるランドは慌てた様子で声を上げる。何やら騙されていたようだとわかってもこれまで良くしてもらった恩があるのだろう。
「……殺しはしませんよ。しかし炭鉱周辺で頻発していた以上の一因である以上は何らかの罰を受けてもらう事になるでしょうが」
言いながらクレアは二人をどう制圧すべきか考えていた。と言っても片方は単なる老婆だ、多少元気とはいえ警戒には値しない。サンクトの方はまだ若く先の扉の爆発を考えれば火薬を隠し持っている可能性は高い。至近距離での爆破を喰らえば命すら危ういが、それは彼らも同じだ。
つまり、距離さえ詰めれば何の問題も無い、そう判断しクレアが一歩を踏み出す。
「待て!」
その瞬間、ロサが声を上げた。機先を制されたクレアは不機嫌そうに目を細めながら口を開く。
「何ですか?」
「……サンクト、なぜお前は従っている?」
その問いにサンクトは僅かに視線を横に向けた、それはまるで隣に立つトナの機嫌を窺うように。
考えてみれば尤もな問いだ、クレアは思う。そもそもサンクトは炭鉱の利権を狙っており間に誰かを挟む必要はまるで無い。にもかかわらず何らかの理由で手を結び、しかもサンクトは偽の異常を作る為に表立って行動していた。明らかに彼が不利な条件で従うのはなぜなのか。
「お、おい、は、早く!」
不意に床に転がっていたヤムクが声を上げた。
「早くあのババアを殺してくれ!」
「っ、馬鹿が!」
その時、最も反応が早かったのはサンクトだ。彼はヤムクが声を上げると同時にその場から逃げるように走り出した。クレアやロサはこちらへ襲い掛かるのではなく、ただどこか遠くに行こうとするようなその行動に疑問符を浮かべ、ランドはなぜこの行商人は村長を殺そうとしているのか怪訝な顔を浮かべる。
そんな中でミリィはふと、昔聞いた話を思い出した。村長の亡くなった夫が言っていた子供たちを叱りつける常套句。
『そんなことをしていたら、ジョウド様がやって来るぞ!?』
『ジョウド様?』
『ああ、ジョウド様はこの土地の守り神でな。ジョウド様は村の皆を見守り、苦しい日々を送る儂らを見てその心を痛めておる。しかし見守るばかりではないぞ? 悪い子にはお仕置きをしに来ることもある。そのお姿を見る事があればわかるじゃろうが』
そこまで思い出したところで彼女はトナの後ろに何かがいるのを見た。そして。
「あっ」
それをどう表現すべきかは難しい。例えるならば自分の全身を覆う肉、その奥底に鋭い針が無数に生成されて段々と成長していく、後にそう表現されるような痛みが全身を襲った。
「あっ、ぐぅっ、つぅっ!」
「~~~~っ! が、な、何がぁ、起こって……」
「うっ、ぐぅっ……、うぅ」
「ううううあああああああ! て、な、あああっ、なんで!!」
「やめろ、やめろクソがああああ!」
「痛い痛い痛い、何なんだよこれぇ!」
同時に叫び声を上げて倒れて行く人々。ミリィも、クレアも、ロサも、サンクトも、ヤムクも、ランドも、突然の全身を襲う痛みに耐え切れずその場に崩れ落ちて行く。
「こ、これが、サンクトを従えた、方法か?」
ロサが痛みを堪えながらトナに尋ねる。彼女は鼻を鳴らしてすぐ傍で倒れるサンクトの足を踏み潰した。
「ああああああっ! や、やめっ」
何か訴えようとしたサンクトの足が力強く蹴飛ばされると名状しがたい甲高い悲鳴を上げてサンクトが意識を失う。しかしその身は未だ痛みを感じているのか叫ぶことは無くなっても身体がびくんびくんと跳ねているのが見えた。
「あたしゃこの村でたくさんの痛みを受けて来たよ。そのせいかねぇ、この村の守り神が見えるようになったのさ」
「……ジョ、ジョウド様?」
「……よく覚えてたねぇミリィ。うちの旦那はこんな伝承にばっかり詳しくて、あんたによく聞かせてやってたっけね。そうだよ、これがジョウド様だ」
誰もがその姿を見る。トナの後ろに鎮座する奇妙なその存在を。無数の腕で祈りを捧げながら慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、そしてそれを見つめる人々に痛みを強要する。それはまるでこの痛みの中では誰も争う事など出来ないと言っているかのように。
「痛いだろう? 苦しいだろう? ジョウド様が与える痛みは凄まじいものだ。でもね、あたしは日々の暮らしの中でこんな痛みや苦しみをずっと耐えて来たんだ。貧しくて、苦しくて、しかし頼るべき者も無く人々に道を示さないといけなかった! ……それがどうして少しぐらい幸せになる事も許されないんだい?」
八つ当たりでもするかのように彼女は怒りをぶちまける。日々の暮らしは辛く苦しい。共に生きようと誓った者も先に旅立ってしまった。失うばかりの日々の中で力と機会を手にしたならば、誰がそれに飛び付くことなく暮らせるというのだ。
「みんなそうして這いずって私に従えばいい! 初めからこうしてた方が早かったじゃないか!」
笑い声を上げるトナを見て、そしてその後ろで穏やかな笑みを浮かべるジョウド様を見て、クレアは自身の心に怒りと憎しみを燃え上がるのを感じた。しかし、彼は、どうしても立つことが出来ずにいる。全身を襲うあまりの痛みに身体が言うことを聞かないのだ。もしもこの状態で触れられでもしたらサンクトのように耐える事の出来ない痛みを与えられるのかと思うとどうしても立ち向かう勇気が出なかった。痛みを前に怒りや憎しみは余りに呆気なく萎んでいく。或いは、ロサの言っていた本物の異常とは、人間では立ち向かう事も出来ない本物の異常とはこのことを言うのだろう、そんな風にさえ思っていた。
ロサは自らの身体を襲う痛みを確かに感じていたが、心の内には歓喜すら走っていた。あまりに理不尽に襲い来る痛みを前にはどんな人間も何も出来ずただその場に蹲り耐えることしか出来ない。誰があんなものに太刀打ちできるというのか、理屈も何も無く襲い来るその痛みは正しく彼女が求めていた異常そのものだ。故に彼女はその異常をこの目に収めようと、自らを救ってくれたそれを脳裏に焼き付けようと顔を上げ、そして気付く。
「しかしまあ、聖騎士ってのは因果な商売だねぇ。これだけの痛みを受けてもまだ倒れないのかい?」
ただ一人、ゼノが剣を手にしたまま立っている。その姿は正に異常を征し人々の盾となる聖騎士だ。誰もが思っただろう、あれほどの痛みを受けて倒れる事無く立ち続ける彼こそが騎士の鑑なのだと。
そんなゼノは剣を手にしながら自分の後ろを、倒れる人々を見た。そして兜の中で一人、自虐的な笑みを浮かべる。
「痛いのはあんたも嫌だろう? どうして立ち続ける? 別にいいじゃないか。あたしがあんたらに望むのはただ一つだよ。帰って異常は全て無くなった、そう言ってくれればいいんだ。どうだい簡単な事だろう?」
聖騎士が異常は解決したと言えばそれでオルディア教からの追及は無くなるだろう。そうすればサンクト達の協力を得てトナは炭鉱にまつわる利益の大部分を得る事になる。
「金を得ればその幾らかはカルゴーネに還元するさ。こんな田舎でもあたしが育った町だ、故郷に栄えて欲しいと思うのは当然だろう? そこで寝てる奴に炭鉱を整備させればいいし、あんたらが仕事が欲しいなら炭鉱で働けばいい。何も悪い事は無いだろう?」
ここまでの全てを無為にする提案だが、もはや彼女にとってはどうでも良くなったのだろう。自らの手を汚す事を厭わなくなった今となっては何もかもどうでもいい。ただ、一刻も早く自らの望みを叶えたいだけだ。
「オルディア教には迷惑はかけないさ。なんなら幾らか寄進してやってもいい。炭鉱は儲かるらしいからねぇ。これだけ言ってるんだ、この件について見て見ぬふりをするという提案に首を振ってくれれば全て丸く収まる。そうだろう?」
痛みに耐えながらその提案についてクレアは考える。確かに悪くない提案だと彼は思った。異常は残ってしまうかもしれないが、一方で誰もが損をしない提案だ。この老婆は異常が残っているだなどと言いふらす事は無い、オルディア教は実害を被る事は無い。
ロサもまた同じように考える。彼女は全くの部外者であるが、部外者であるが故に損得勘定だけで話を考え、誰もが損をしない計算だと褒め称える。
後ろにいたヤムクやランドもそうだ。少なくともこの提案に乗ればこの村は栄えるし秘密を守り続ければ多少は甘い汁を吸わせてもらえるだろう。
そしてその全員が思う。何よりも、この提案を承諾するだけで解放されるのだ。このあまりにも激しい痛みから。誰もが思う、頼むから早く首を縦に振ってくれ、と。
しかしゼノは動かなかった。いや、動けなかった。なぜなら彼の瞳に映っていたのは。
「そ、そんなのは、違う」
ただ一人、この状況の中で抗う事を諦めない者の姿だ。痛みを堪え、掌を床に付き、ゆっくりと立ち上がる。
「……ミリィ」
ただの村娘の姿だ。
「トナ村長、私は、それは、違う、と思うよ」
「ミリィ……、やめな」
彼女は一歩、前に歩み出る。それと同時に全身を襲う痛みが強くなるのを感じ思わず足を止めた。
「痛いだろう。ジョウド様に近付けばそれだけ痛みが強くなるんだよ」
それは決して嘘では無いのだろう。ミリィは今実感としてそれを受けたし、今思えばサンクトが即座に逃げ出そうとしたのは近くにいればより強い痛みを受けてしまうからだったのだろう。
しかしそれを理解した上でミリィは、再び一歩前へ足を進める。
「ミリィ……」
トナはそれをただ悲しそうに見つめ視線を逸らす。人が痛みに耐える姿というのは恐ろしいものだ。その姿を見ているだけで自分の何かが痛む気がする。脂汗を流し、口から涎が出るのも構わず、立っているだけで息も絶え絶えのその姿は視界に収めるだけでその苦しみが伝わってくるようだ。だが、それでも、その姿にはどこか眩しさすら感じられる。
「……私は、何が正しいのか、わからない」
ミリィは必死に言葉を紡ぎ始めた。誰もが息を呑んで彼女の一言一句を聞き逃すまいと耳を傾ける。「私は、村を出たことが無くて、みんなに育ててもらって、今までの生活が一番だと思ってた。……でも、今は、何が一番なのか、全然わからないんだ」
それは彼女がこの数日の中で抱いた悩みだ。
「聖騎士様たちが来て、色々な話を聞いて、もしかしたら私はみんなの邪魔をしているだけなのかもしれないって思った。幸せの為に頑張っているだけなのに、私はそれが気に入らないからって、邪魔をしているのかもって」
今までの暮らしに満足していた彼女にとってそれ以上を求める気持ちは分からなかった。それなのに外から来た人々の話を聞いて、様々な価値観に触れて、自分の中にあった理想が自分の為だけのものだったのかもしれないと初めて疑念を抱いたのだ。
「もしかしたら、トナ村長の言う通りにすれば、みんなが幸せになるのかもしれない、けど……」
「……けど、何だい?」
「私は……、トナ村長が誰かを傷付けるところは見たくないよ」
その言葉はあまりにも幼い結論だ、誰もがそう思った。人が生きている限り誰も傷付けずに生きる事など出来はしない。力があるものはそれを上手く振りかざし、そうでない者は彼らに尻尾を振って生きると言うのが理に適っている。寧ろトナはこの提案に乗れば必要以上に力を振りかざす事は無いだろう、随分と理性的だ。
だが彼女の言葉はこの場にいる皆の胸を打った。なぜならば、この弱弱しい村娘はたったそれだけの事を言う為だけに、他の村人は愚か訓練を積んだ従騎士ですら耐えられぬ痛みを乗り越えて立ち上がったのだから。
トナはミリィが幼い頃の事を思い返す。まだ夫が生きていた頃、夫婦で幼い彼女と共に食事をした時の事を。夫の話す嘘か本当かもわからないような村の伝承に耳を傾ける小さな少女の事を。すくすくと健康に育ち、今尚優しさを忘れぬ、目の前の彼女を。
「……ミリィ、近付くんじゃないよ。それ以上近付けばあたしゃ何をするか分からないよ」
「トナ村長!」
しかし彼女はミリィを、彼女への想いを捨てた。近くに置いてあった杖を手に取り、近付けば容赦なく打ち据えると言わんばかりに構える。あれを受けたならどうなるか、先のサンクトの事を思えば誰もが恐怖のあまりに身震いするだろう。
それでもミリィは前へ出ようとしたが、それを鎧を着た腕が遮る。
「……ゼノさん?」
その男が何を考えているのかは誰も分からなかった。トナは突如動いた聖騎士に不気味さを感じ杖を彼に向ける。
「ミリィ」
「は、はい」
「貴殿の覚悟は見届けた。後は任せるが良い」
「えっ?」
その言葉を告げた後、ゼノは動き出す。まるで何事もないかのようにトナの元へ、或いはその後ろに鎮座するジョウド様の方へと歩き出す。
「な、あ、あんた痛くないのかい!?」
この場の誰もが理解できなかった。或いは異常そのものであるジョウド様にすら理解が及ばなかっただろう。本来ならば足を進める事など出来はしない。床に這い蹲るだけですら己の体重の負荷が恐ろしい痛みを発しているのだ、あの一歩一歩は足を巨大な針でめった刺しにされるような、本来想像上でしかありえないような痛みのはずだ。
しかしゼノはまるでそれを感じていないかのように歩き続ける。
「な、あ、あ、あたしゃ容赦しないよ!」
トナが杖を振るう、が、ゼノは何の躊躇いもなくその杖を受け止めそのまま圧し折った。痛みを感じる素振りは、まるで無い。
「ど、どうなってる? あの鎧には、異常が効かなくなる効果でも?」
「そ、そんなものあれば、私だって着てますよ」
声を上げる事にすら苦痛を伴うのにゼノは杖を受け止める事にすらまるで何も感じていないようだ。鎧は衝撃までは吸収し切れない、勢いよく振り抜かれた杖を手で止めれば骨が折れたどころか砕けたかと錯覚するような痛みを覚える事だろう。
それがゼノにはまるで無い。
「な、何だいあんた、何でそんな!?」
そしてゼノはジョウド様に手をかける。先程までは慈愛に満ちた笑みを浮かべていたその異常は今になってようやく焦り出したのか目の前の聖騎士に怒りの表情を向けその無数の腕を振り下ろす。衝撃と共に兜が取れて床に落ち大きな音を立てた、が、まるで痛みなど無いかのようにゼノはその場に立ったままだ。
「い、痛くないんですか?」
呆けたようにミリィが尋ねる。ゼノは振り返りどこか寂しそうな笑みを浮かべた。
「ああ、自分には人の痛みが分からないのだ」
クレアは思った、その言葉を聞いたのは何度目だったか、と。ただこの時に初めてその言葉の意味を知る。
「まさか、それは、比喩的な意味じゃなく……、ただその言葉通りの?」
クレアの言う通り、聖騎士ゼノは少し特殊な人間だ。生まれつき痛覚というものが存在していない。それ故に、人の痛みがわからない。
「ジョウド様だったか、この異常でなら或いは痛みがどのようなものかを知れるかもしれないと思ったのだが」
言いながらゼノはその手をジョウド様に伸ばす。慈愛から怒りへと変わっていたその表情はその手が近付くほどに恐怖の色へ染まって行く。
「やはり、わからぬままだったな」
そしてその手がジョウド様に触れた時、まるでそれは霧が見せた幻だったかのようにふっ、と消えた。皆にもたらされていた痛みと共に、跡形もなく。
放心したようにその場に崩れ落ちるトナの姿を見てクレアは確信する。カルゴーネでの騒動は全て終わりを迎えたのだと。




