58話:名前のない変化
日常が続いた。
戦いが終わってから、それぞれが日常に戻っていた。劇的な変化はなかった。ただ日常が続いた。
それでも、少しずつ何かが違っていた。
真鍋は、仕事をした。
新しい案件に取りかかった。忙しさは変わらなかった。ふと赤ちょうちんを思い出すことがあった。
黒崎は、昔の知人に会いに行った。
かつて一緒に地上げ屋として働いていた人間に、久しぶりに連絡を取った。会って飲んだ。帰り道が軽かった。
蓮は、毎日、厨房に立った。
今はそれが面白かった。赤ちょうちんで見ていたことが、少しずつ形になっていた。
榊は、法廷に出た。
正しければいい。その感覚が続いていた。今は、判決の後のことを考えるようになっていた。
藤堂は、市場を見た。
数字が動くのを見ていた。以前と同じことをしていた。ただ、数字の向こうに、人間を意識するようになっていた。
全員が夜になると赤ちょうちんに来た。
ただ足が向いた。いつの間にかそういう場所になっていた。
鷹宮の話は、誰もしなかった。戦いが終わったからではなかった。ただ、もうその必要がなかった。話す必要がない話は、しない。それだけだった。
梶はいつも通りに仕込みをして、いつも通りに酒を出した。何も変わっていないように見えた。しかし全員が少しずつ変わっていた。どこが変わったのかは、言葉にできなかった。
その変化に、特別な名前はなかった。




