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居場所を守れ~AI外食コンサルに潰されなかった居酒屋〜  作者: いわん


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56/60

56話:一人じゃない

 蓮の店が開いた日、赤ちょうちんの常連たちが全員顔を出した。

 予約もなく、示し合わせたわけでもなかった。それぞれが、自分で来た。開店時間に合わせてくる人間と、少し遅れてくる人間がいた。でも全員が来た。

 客は少なかった。初日だから仕方がなかった。それでも全員が長く飲んだ。席を埋めたのは知っている顔だけだったが、誰も早く帰らなかった。追加の注文が続いた。蓮が出す料理を一つ一つ食べた。全員が食べた。

 蓮は最初、厨房からなかなか出てこなかった。

 料理を作り、皿を出し、また厨房に戻った。それを繰り返していた。厨房にいる方が落ち着くのだろうと、全員が思っていた。

 しばらくして、蓮は厨房から出てきた。皆の前に立った。エプロンを外していなかった。立ったまま、少しの間黙っていた。

「また負けたらどうしよう」

 それだけ言った。戦略の話でも、売上の話でも、目標の話でもなかった。ただその言葉が出た。

 真鍋が答えた。「負けたらまた考えればいい」

 声は静かだったが、迷いがなかった。答えを知っているのではなく、答えが出ない時にどうするかを知っている声だった。

 黒崎が言った。「今度は一人じゃない」

 その言葉は、黒崎が一番言いたかった言葉かもしれなかった。かつて黒崎は、誰かを一人にして追い出した。今度は一人にしない側にいる。

 榊が言った。「法的な問題は任せろ」

 藤堂が言った。「資金が必要なら言え」

 蓮は全員を見た。

 全員を順番に見た。真鍋を見て、黒崎を見て、榊を見て、藤堂を見た。

 それから笑った。

 久しぶりに見る、力のある笑顔だった。店を潰してから失っていた笑い方が、今夜戻ってきた。誰かに見せようとして笑っているのではなかった。自然に出てきた笑い方だった。

 梶はその様子を入口のところから見ていた。

 中に入らずに、外から見ていた。厨房に立つ蓮の背中を、何度も見てきた梶だったが、今夜の蓮の顔は違った。何かが戻っていた。

 蓮が梶に気づいて、こちらを見た。

 梶は何も言わなかった。ただ頷いた。小さく、しかしはっきりと頷いた。

 それだけだった。それだけで十分だった。言葉にする必要がなかった。

 その夜遅く、全員が赤ちょうちんに戻った。

 蓮の店から歩いて三分だった。路地を歩いて、もう一つの路地に入ると、赤ちょうちんの暖簾があった。梶がすでに先に来ていた。

 梶が酒を出した。いつも通りの酒だった。今夜特別な酒を出すわけではなかった。特別な言葉もなかった。ただいつも通りに出した。

 全員が受け取った。飲んだ。それだけだった。それで十分だった。


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