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居場所を守れ~AI外食コンサルに潰されなかった居酒屋〜  作者: いわん


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51/60

51話:怖いのとやらないのは別の話

 ある夜、蓮が梶に言った。

 カウンターに二人だけだった。他の客は帰っていた。閉店まで少し時間があった。蓮は酒を飲みながら、しばらくカウンターの木目を見ていた。それから、口を開いた。

「俺、また店を出そうと思う」

 梶は「そうか」とだけ言った。

 手を止めなかった。グラスを拭きながら答えた。うれしいとも、心配だとも言わなかった。「そうか」だけだった。

 続きを待った。

 蓮が続けた。「怖くないのか、と聞きたいか」

「怖いかどうかは俺が聞く話じゃない。お前が決めることだ」

 蓮はしばらく黙って酒を飲んだ。

「怖い」

「そうか」

「また潰したらどうしようと思う。あの時より怖い。あの時は失敗を知らなかった。今は知ってる。失敗がどういうものか、身体で知ってる。知ってるから怖い」

 梶は少し考えてから言った。

「怖いのと、やらないのは別の話だ」

 蓮はその言葉を聞いた。

 言葉が届いた瞬間と、意味がわかった瞬間が、少しずれた。聞こえてから、少し経ってから、その言葉の意味が開いた。

 怖いのと、やらないのは別の話。怖いからやらない。やらないのは怖いから。その二つが一つになっていた。それが当たり前だと思っていた。

 しかし別の話だ、と梶は言った。

「怖いまま、やるということか」

「そうじゃないのか」梶は言った。

 それだけだった。余分なことは言わなかった。梶は必要なことだけを言う。言い過ぎれば、言葉が薄くなる。必要なことだけ言えば、残る。

 蓮は酒を飲み干した。

 翌朝、蓮は物件を探し始めた。

 黒崎から教えてもらった場所を見に行った。路地から一本入ったところにある物件だった。小さかった。厨房が狭かった。それでいいと思った。最初から大きくする必要はない。小さく始めて、続けることの方が大事だ。それはかつての失敗から学んだことだった。

 その夜遅く、真鍋に連絡した。「資金の計算を手伝ってほしい。時間があれば」

 真鍋は短い返事を寄越した。「明日の夜はどうですか」

 翌日、黒崎から連絡が来た。「場所に心当たりがある、と言ったやつ、もう一度一緒に見に行くか」

 その次の日、榊から連絡が来た。「契約書を見る。持ってきてくれ。今回は問題のない契約書を用意させる」

 藤堂には言っていなかった。しかし藤堂から連絡が来た。「何かあれば言え」と、それだけだった。それだけで十分だった。藤堂の「何かあれば」は、どんな何かにでも応じるという意味だと、蓮にはわかっていた。

 蓮は一人でやろうとしていたわけではなかった。

 しかし、こうして連絡が来るまでは、一人でやるつもりでいた。一人でやらなければならないと、どこかで思っていた。失敗したのは自分で、次に挑戦するのも自分だから、助けを借りることは甘えだと思っていた。

 それが違った、ということを改めて知った。


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