50話:足が向く
鷹宮の会社が解散を発表したのは、三ヶ月後だった。
静かなニュースだった。一行の発表文だけだった。「諸般の事情により、事業を終了することとなりました」という内容だった。それ以上は何も書かれていなかった。謝罪もなく、説明もなく、ただ終了を告げる一文だった。控訴は取り下げられた。
鷹宮の名前が最後に出たのはその一行だった。
メディアはほとんど取り上げなかった。もう次の話題に移っていた。それが少し寂しいような、しかし当然のことのような、複雑な感覚があった。何ヶ月もかけて戦ってきたものが、一行で終わった。
常連たちはそれぞれの場所で、それぞれに知った。
しかし集まって話すことはなかった。知らせ合うこともしなかった。何かを確認する必要がなかった。それぞれの日常に戻っていた。
真鍋は次の仕事に取りかかっていた。新しいクライアントが来ていた。今度は依頼内容が違った。不正を追うのではなく、正しく動いている会社のデータをどう見せるか、という依頼だった。真鍋はそれが悪くないと思っていた。攻めるだけでなく、守る側にも使えるものを持っている。
黒崎は昔追い出した店主に手紙を書いた。二通目だった。一通目の返事が来ていたから、二通目を書いた。長くはなかった。しかし書いた。書いて送って、また返事を待った。どこへ向かうかはわからなかった。ただ続けることだけが今わかることだった。
蓮は物件を探し始めた。
小さな厨房でいい。多くのメニューはいらない。仕込みに時間をかけられる規模がいい。赤ちょうちんの近くがいいと思っていた。歩いて三分くらいの場所に、ちょうどいい物件があると黒崎から聞いた。見に行った。悪くなかった。もう一度見に行こうと思っていた。
榊は久しぶりに法廷に立った。小さな案件だった。しかし手応えがあった。久しぶりに法廷の床を歩いた時、自分の足の音が聞こえた。かつては毎日聞いていた音だった。その音が、今は久しぶりだった。悪くない音だと思った。
藤堂は市場を見ながら酒を飲んでいた。いつもと変わらない時間の過ごし方だった。市場の動きを見ながら、次の動きを考える。それがいつもの藤堂だった。ただ今は、どこへ向かうかよりも、どう動くかを考えるようになっていた。
全員に共通しているのは、夜になると赤ちょうちんに足が向くことだった。
特に理由はなかった。仕事が終わって、どこかへ行こうと思うと、足が路地の方向へ向く。意識してそうするわけではなかった。気づいたら向いていた。いつからそうなったのか、誰も覚えていなかった。あの夜から、という答えも正確ではなかった。気づいたらそうなっていた。
梶はいつも通りに店を開け、いつも通りに仕込みをして、いつも通りに酒を出した。
何も変わっていなかった。変える必要がなかった。変える理由も見つからなかった。三十年前もそうだった。




