47話:まだいる
判決が出た。
一部違法認定だった。
優越的地位の濫用について、一部の案件で不当な取引条件の強制があったと認定された。複数の店舗との取引において、契約条件を一方的に不利に変更し、それを断ることが困難な状況下で受け入れさせた、という認定だった。損害賠償が命じられた。金額は大きくなかった。しかし違法と認定されたという事実は残った。「合法の範囲で動いてきた」という鷹宮の主張に、初めて穴が開いた。
組織的な炎上マーケティングについての違法認定はなされなかった。
証拠として認定できた範囲が限定的だったためだった。状況証拠は揃っていた。しかし直接の因果関係を示す証拠として裁判所が認定できたものは、一部にとどまった。榊はその結果を聞いて、しばらく何も言わなかった。それから静かに言った。「次に活かす」
鷹宮は控訴した。
判決から三日後に発表された。「一審の認定には事実誤認がある。引き続き法廷で争う」という声明だった。声は文書の中でも平坦だった。
しかしその判決の前後から、連鎖が起きた。
判決を境に、それまで動きを見守っていた人間たちが動き始めた。
IPOが完全に取り下げられた。申請を撤回した。正式な発表だった。理由は「市場環境の変化および社内体制の見直し」とされたが、誰もがその理由の中身を知っていた。
株価がさらに下落した。底が見えなかった。売りが売りを呼ぶ状態だった。
鷹宮の会社の社員の退職が続出した。
中核メンバーから辞めていった。経営企画部長、マーケティング部長、営業責任者。要の人間が次々と出ていった。組織の骨格を作っていた人間たちが出ていけば、残った人間も出ていく。
AI無人居酒屋の閉鎖が発表された。「採算性の見直しのため」という理由だった。「外食の未来形」と謳われた合理性の象徴が、開業から数ヶ月で閉まった。
その夜、全員が集まった。
真鍋がモニターを閉じながら言った。「終わりが見えてきた」
榊が頷いた。それから続けた。「ただし鷹宮はまだいる。控訴した。組織は空洞化しているが、鷹宮自身は動いている。弁護士を変えた。新しい戦略を立てている。最後まで戦ってくる男だ。逃げない」
「なぜわかる」黒崎が聞いた。
「あの男の目を見ていればわかる。まだ計算している。計算している限り、戦っている」
全員が黙った。長くない沈黙だった。受け止める時間だった。
梶が酒を注ぎながら言った。「最後まで見届けよう」
それだけだった。宣言でもなく、決意でもなかった。ただ、続けるということだった。
全員が頷いた。




