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居場所を守れ~AI外食コンサルに潰されなかった居酒屋〜  作者: いわん


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46話:昔の私が

 法廷での手続きが始まった。

 鷹宮側が提起したのは、不正競争防止法に基づく損害賠償請求だった。内部告発者と、一部のメディアを相手取った訴訟だった。全面的に戦うという宣言だった。行政調査が続く中で、訴訟を起こす。守りながら攻める。それが鷹宮のやり方だった。

 同時に、行政調査も続いていた。調査と訴訟が並行して進んだ。二つの戦場が同時に動いていた。

 榊は内部告発者の弁護団に加わった。正式な依頼ではなく、情報提供と法的助言という形だった。報酬は取らなかった。取ると言われても断った。これは仕事ではなかった。

 法廷の初日、傍聴席は記者で埋まっていた。藤堂と黒崎は、一般傍聴席で並んで座った。二人が法廷に来ることを、誰も知らなかった。ただ来た。

 法廷では、炎上マーケティングの詳細が審理された。

 鷹宮側は一貫した主張を続けた。「合法的な広告宣伝活動であり、特定の店舗を狙ったものではない」。ぶれなかった。どの質問にも同じ角度から答えた。感情を持ち込まなかった。

 弁護団は「特定の店舗の炎上と、その後の格安買収の時系列的な一致」を証拠として提出した。五件の案件、全ての時系列を並べた。炎上の日付、鷹宮の会社が接触した日付、買収が成立した日付。一件一件が、同じパターンを示していた。

 裁判長が鷹宮に質問した。「この時系列の一致についてはどう説明されますか」

 鷹宮は答えた。「市場の動きを分析した結果、同じ判断に至っただけです。私どもは市場データに基づいて行動しています。市場が弱った店舗に、再生の機会を提供することが、私どもの事業です」

 声は今日も平坦だった。

 裁判長は次の質問をしなかった。ただ、記録を続けた。ペンが動く音だけがした。

 傍聴席で、藤堂は目を閉じた。

 長い時間、目を閉じていた。鷹宮の主張を聞きながら、何かを思っているようだった。思い出しているようだった。あるいは、重ねているようだった。

 鷹宮の言葉は、かつて自分が使っていた言葉と同じだった。「市場データに基づいて行動する」「再生の機会を提供する」「合法的な事業活動」。法廷ではなく、交渉の場で。しかし使っていた。

「昔の私が、あそこに立っていたかもしれない」

 藤堂は口に出さなかった。しかし隣の黒崎に届いた。声にならない何かが届いた。

 黒崎は低い声で言った。「でも今は違う」

 藤堂は目を開けなかった。ただ頷いた。その頷きは小さかったが、確かだった。否定しなかった。「違う」という黒崎の言葉を、そのまま受け取った。

 違う。今の自分は、あそこに立っていない。傍聴席にいる。守る側にいる。それだけが、三十年前と違う。黒崎がそう言うから、そう受け取った。

 法廷を出た後、二人はしばらく無言で歩いた。

 夕暮れの街だった。人が仕事帰りに歩いていた。どこかへ向かっている人間たちの中を、二人は歩いた。行き先を決めずに歩いた。しかし足は自然と同じ方向へ向いた。

 路地の入り口が見えてきた。赤ちょうちんの暖簾が、夕暮れの光の中にあった。

 二人は無言で暖簾をくぐった。それだけだった。


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