41話:バラバラに動く
常連たちは、その日それぞれバラバラに動いた。
打ち合わせはなかった。事前に話し合ったわけでもなかった。誰かが誰かに「こうしろ」と言ったわけでもなかった。ただ、それぞれが自分のやることをやっていた。
真鍋は自分のオフィスに座っていた。三台のモニターの前で、SNSの動きを見ていた。見ながら、何も発信しなかった。タイミングではなかった。ただ見ていた。
黒崎は電話に出なかった。何件か着信があった。見て、切った。外を歩いていた。行き先を決めずに歩いた。路地を歩いて、赤ちょうちんの前を通った時、少し立ち止まった。貼り紙を見た。白い紙に黒い字だけがあった。しばらく見て、また歩き始めた。
蓮はどこかにいた。誰も知らなかった。朝のうちに「厨房を借りる」と言い残して、それきり連絡が取れなかった。どこの厨房で、何を作っているのか、誰にもわからなかった。
榊は自分のオフィスで書類を整理していた。行政調査への対応、次のステップで必要になる法的な書類の準備。やるべきことを、順番に片付けていた。
藤堂は市場のデータを見ていた。四半期決算後の市場の動きを確認しながら、次の動きを計算していた。
梶はその日も店の中にいた。貼り紙の内側で、出汁の準備をしていた。閉めていても、仕込みを止めなかった。
誰かに指示されるわけでも、作戦を立てるわけでもなく、それぞれが自分の動き方で動いていた。
藤堂がモニターを見ながら、静かに呟いた。「AIは、感情の連鎖を予測できない」
その夜遅く、真鍋のスマートフォンに通知が届いた。フォローしているアカウントが、赤ちょうちんについての投稿をしていた。知らない人間の投稿だった。見たことのない名前だった。しかしその投稿の言葉に、真鍋は少し止まった。読み返した。
そして、自分のアカウントを開いた。




