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居場所を守れ~AI外食コンサルに潰されなかった居酒屋〜  作者: いわん


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40/60

40話:臨時休業

 翌日、赤ちょうちんに「臨時休業」の貼り紙が出た。

 手書きだった。梶の字だった。期間は書かれていなかった。理由も書かれていなかった。ただ「臨時休業」という四文字だけだった。紙は白くて、字は黒かった。余白が多い紙だった。何も書かれていない余白が、何かを言っているようにも見えた。

 その写真がSNSに上がったのは、夜の九時頃だった。

 閉まっているのを見た常連の一人が撮ったものだった。「赤ちょうちん、閉まってる」というコメントだけがついていた。深夜になっても、翌朝になっても、その写真は広がり続けた。

「閉店か」という憶測が、翌朝には複数のアカウントで出ていた。知っている人間と、知らない人間が、同じ写真に反応していた。

 鷹宮の会社の内部会議では、この情報が「撤退カウントダウン」として報告された。分析担当が資料を作って報告した。「閉店の可能性が高い」「買収の好機が近い」という評価だった。計画通りに動いているという認識だった。


 梶は仕込みをしていた。

 店を閉めていても、仕込みは続けた。暖簾を下ろしたまま、厨房に立っていた。明日開けるための仕込みだった。開けるつもりで仕込む。仕込むから、開けられる。それだけのことだった。


 その日の夕方、鷹宮の会社から四半期決算が発表された。下方修正だった。AI無人居酒屋の減価償却と広告費が重くのしかかり、営業利益が計画を大きく下回った。リピーター率の低さが、数字として出た。蓮が最初から示していたデータが、現実になった。

 株価が七パーセント落ちた。これまでで最大の下落だった。

 夜、鷹宮は会見を開いた。「短期的な数字の変動は想定の範囲内です」と言った。しかし声のわずかな震えが、あった。テレビの画面を通しても、それがわかった。汗が滲んでいた。計算している目が、初めて、疲れて見えた。

 赤ちょうちんの貼り紙は、三日間そのままだった。


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