表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居場所を守れ~AI外食コンサルに潰されなかった居酒屋〜  作者: いわん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/60

28話:また来い

 三週間かかった。

 真鍋のSNS分析データと、蓮の食品評価データを組み合わせる作業は、細かかった。データの定義を合わせる作業から始めた。真鍋が使っている「リピーター」の定義と、蓮が使っている「リピーター」の定義が、微妙に違っていた。どちらかに合わせるか、あるいは新しい定義を作るか。その議論だけで二日かかった。

 比較可能な形に整え、第三者が見てもわかる構造にする。どちらかが先走れば、全体の信頼性が落ちる。細かい確認を怠れば、後で穴を突かれる。丁寧にやるしかなかった。

 三週間の最後の夜、二人は赤ちょうちんのカウンターで並んで座り、完成した資料を確認した。

「これで行けます」真鍋が言った。

「行けます」蓮も言った。

 完成したのは、一枚のレポートだった。

 中心にあるのは一つの問いだった。「短期の集客効率を最大化した店舗は、長期的に持続可能か」

 答えは、データが示していた。

 鷹宮の再生店舗は、開業から六ヶ月後にリピーター率が急落する。最初の半年は話題性で客が来る。しかし話題性が薄れると、リピーターのいない店には客が来なくなる。その後、広告費を増やすことで来客数を維持しているが、広告費が収益を圧迫する。収益率は下がり続けている。広告費を削ると売上が落ちる構造になっている。自走できない体質だった。

 一方、赤ちょうちんのようなリピーター型の店舗は、成長は遅いが収益の安定性が高い。広告費がなくても客が来る。来るたびに、また来る。その積み重ねが、長期の収益を作る。

「短期で稼いで売り抜ける」という鷹宮のモデルは、売った後の買い手側のリスクが高いということを、データは示していた。鷹宮は利益を出して次に渡す。しかし渡された側は、自走できない店舗を抱えることになる。買い手が損をすれば、市場でのモデルの評判が落ちる。

 業界メディアに送った。翌日、大きく取り上げられた。

「外食チェーン買収モデルに長期的リスク、データが示す」

 関連会社の株価が五パーセント落ちた。鷹宮の会社だけでなく、同様のモデルを採用している複数の会社が影響を受けた。業界全体の問題として報じられたことで、鷹宮個人への批判にはなりにくい形になった。鷹宮一人を標的にするより、業界全体の問題として出した方が、反論しにくい。それが真鍋の判断だった。

 しかし影響は確実に出た。

 その夜、全員が集まった。

 榊がゆっくりと言った。「次は俺の番だ」

 口調に迷いがなかった。ここまで法的な助言役に徹してきた榊が、自分が前に出ると言った。それだけで、全員が少し表情を変えた。

 蓮は頷いた。立ち上がり、コートを着た。自分の役割は終わった。データを作り、出し、蓮にできることはやった。あとは次の人間が動く。バトンを渡す時だった。

 梶が厨房から声をかけた。

「また来い」

 蓮は振り向かなかった。振り向かずに手を挙げた。暖簾をくぐって、路地に出た。

 夜の路地を少し歩いてから、蓮は気づいた。顔が笑っていた。誰にも見えない場所で、一人で笑っていた。理由を言葉にしなかった。しかし、その笑いは確かにそこにあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ