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居場所を守れ~AI外食コンサルに潰されなかった居酒屋〜  作者: いわん


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24/60

24話:参加を断った理由

 ブラインドテストを提案したのは、赤ちょうちんに戻ってから三日後だった。

 蓮は常連会議でアイデアを話した。「赤ちょうちんの料理と、鷹宮の再生店舗の料理を、客が知らない状態で比較する。どちらが美味いか、どちらにまた来たいか、それを数字で出す。感覚の話を数字にする。鷹宮が数字で話すなら、こちらも数字で返す」

「公平性が担保できるか」榊が聞いた。

「外部の食品研究者を立てる。大学で食品科学を教えている知人がいる。第三者として関わってもらう。私が関わっているということが見えないようにする。データの出所を隠すことで、客観性を担保する」

「費用は」真鍋が聞いた。

「自分で出す」蓮は言った。「会場費、参加者への謝礼、研究者への依頼料。全部自分で出す。誰かに頼む気はない」

「鷹宮側に参加を打診するか」真鍋が続けた。

「する」蓮は言った。「断られることを前提で打診する」

 全員が蓮を見た。

「参加を断った事実そのものが、メッセージになる。比較を嫌がる理由があるということを、向こうが証明することになる。自分たちの料理に自信があるなら、比較を断る理由がない。断れば、なぜ断ったのかという問いが残る。その問いが広がれば、それだけで十分だ」

「断らない可能性は」

「ない」蓮は言い切った。「向こうは比較に応じない。比較すれば、不利なことがわかっている。勝ち目のない比較には乗らない。それが鷹宮のやり方だ」

 準備に一週間かかった。食品研究者との調整、試食の参加者の募集、会場の設営。蓮は自分で全てを手配した。身銭を切った。久しぶりに、何かのために動いている感覚があった。店を潰してから、こういう感覚がなかった。何かのために動いている、という実感が。

 鷹宮の会社への打診は、文書で行った。「消費者向けの食品比較テストへの参加を依頼します」という内容だった。丁寧な文章だった。攻撃的な言葉を一つも使わなかった。

 三日後、回答が来た。

「比較に意味はありません。食品の価値は数値で判断すべきであり、主観的な比較テストには参加しません。このような形式での比較は科学的根拠に欠けます」

 蓮はその回答を見て、静かに言った。「来た」

 予測通りだった。しかし予測通りだったからといって、何か特別な感情が出るわけではなかった。ただ、次の手順に進めるというだけだった。

 その回答文を、食品担当の記者が拾った。蓮に接触してきた。食品の話を長く書いている記者で、業界の事情に詳しい。「参加を断った理由を、どう思いますか」という質問だった。

 蓮は少し考えてから答えた。「参加を断った理由を考えれば、答えは出ます」

 それだけだった。多くは言わなかった。余計なことを言えば、余計な問題を呼ぶ。言いたいことを一言にまとめる。あとは受け取る側が考える。

 しかし翌日、その一文が記事になった。「比較テスト拒否が示すもの」という見出しで、小さな記事だったが、SNSで拡散した。「なぜ拒否したのか」という問いが、様々な場所で語られた。飲食業界の人間が反応した。消費者が反応した。鷹宮の名前が、また広がった。

 後日、鷹宮の会社から、

「比較テストに参加します。日時と場所、テスト品目をあらためてご連絡ください」

 と連絡が来た。

 蓮は、その返信から、鷹宮の「焦り」を感じていた。


 ブラインドテストの当日が来た。

 その日の朝、蓮は一人で赤ちょうちんの前を通った。開店前だった。暖簾が出ていなかった。それでも、路地の奥にある店の存在を、蓮は感じた。今日やることの意味を、改めて確認するように、しばらく立っていた。


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