第21話
「あの約束、ホンマに大丈夫なんやろな?」
今は無人となっている工場跡地。冷たい湿気の立ち込める暗がりで、スモーキーズのボス、“幻煙の魔女”ことジェディーが、青い制服を纏った生徒と対峙していた。
「私を信用しないの?」
「信用できんのも当然やろ。アンタら水の学園が一番毛嫌いしてる、ウチらみたいな非五大魔法の連中を手助けするなんて、誰が聞いても信じられんわ」
ジェディーの疑り深い視線を、女性は涼しげな微笑で受け流す。
「それはもう過去の話よ。今の生徒会長は、古い因習を捨て、新しい時代を作りたいと考えているの。そこに必要なのは、貴方たちのような人よ」
「そりゃどうも」
ジェディーは鼻で笑い、咥えていたキャンディーの棒を足元に吐き捨てた。
「例の魔獣は私たちのメンバーが厳重に見張っているわ。貴方は安心して、明日の抗争に集中しなさい」
「その件はよろしゅう頼むで。なんせウチらの"奥の手"やからな」
ジェディーはニヤリと不敵に笑った。
「そうそう、これも渡しておくわ」
後方に待機していた女生徒が差し出したのは、無機質な輝きを放つ、一つの白いカプセルだった。
「なんやこれ?」
「そうね……元気が出るお菓子、とでも言っておこうかしら。万が一、ピンチに陥ったら使うといいわ。貴方の望みを叶える一助になるでしょう」
「なんか怪しさ満点のモンやけど……。まあえぇわ。ありがたくもろうとくわ」
疑念を感じながらもポケットに放り込んだ。
「ほんなら秘密の会議はこのへんでええかあ?」
「そうね。期待してるわよ」
ジェディーたちに背を向け、悠然と手を振りながら去っていく。
こうして、決して表には出せない、毒を孕んだ密会が終わった。
青の学園の女生徒たちが闇に消えていくのを確認すると、控えていた部下がジェディーに歩み寄った。
「姐さん。あんな奴ら、本気で信じるんすか?」
「アホ。あんな胡散臭い連中、信じられるか。協力しとるフリをして、こっちが利用したるんや。テッペンさえ取れればこっちのもんやからな。学園を統一したら、水の連中どころか五大魔法の学園全部、根こそぎぶっ潰したるわ」
ジェディーの瞳に、昏い野心が宿る。
「それまでは大人しゅう従うフリして、手助けだけしてもろたらええ。まずはアーシェントレギオンや。あそこを叩き落として、三極に食い込む。そうすれば傘下の夜会も増えて、いろいろとやりやすくなる。その次はあの“ふわふわ野郎”と“男女”やな」
アーシェントレギオン戦の勝利を確信し、次の道筋を考えながら仲間たちとともに工場を後にした。
一方、その場を離れた青い制服の主、ウインディー学園の使者もまた、冷ややかな笑みを浮かべていた。
「あんなクズ連中、本当に使えるんですか?」
付き従う同行者が、嫌悪感を隠さずに問う。
「バカね。あてになんてしてないわよ。適当に踊らせて、使い終わったらポイ捨てすればいいの。あんな掃き溜めの連中、その程度の価値しかないわ」
「……ですが、アーシェントレギオンに勝てるとは思えません。それに、あの魔獣には本当に『人質』としての価値があるのでしょうか?」
素朴な疑問をぶつける部下に、女性は立ち止まり、月を見上げて嘲笑した。
「勝敗なんてどうでもいいのよ。あの夜会の戦力を少しでも削ってくれればそれで。……そもそも、"磁界の魔女"が魔獣を取ろうがチームを取ろうが、どちらでも構わないわ」
「と、言いますと?」
「もし彼女が魔獣よりチームを選んだとしても、魔獣を密かに飼育していたという『規律違反』をミランダに突きつけてやればいいのよ。あの堅物が、自ら掲げた規律を破った者を側に置いておくはずがないわ」
「なるほど。どちらに転んでも、“磁界の魔女”が抜けたアーシェントレギオンは大幅な戦力ダウンを免れない、というわけですね」
納得した様子でうなずく部下に、女性は満足げに目を細めた。
「均衡さえ崩れれば、他の夜会が黙っていないでしょ? 学園が今以上に荒れれば、私たちが動きやすくなる。……ふふ、まさに理想的な展開ね」
手元に残ったカプセルの予備を見つめ、残酷に目を細めた。
「それに、保険もかけたしね」
「最後に渡した“アレ”ですか?」
「ええ。使ってくれればいいのだけれど……まあ、あの程度の頭なら、追い詰められたら後先考えずに飲んじゃうでしょうね。そうなれば……」
女性は、自らの完璧なプロットに酔いしれるように声を弾ませた。
「どちらに転んでも、私たちの“清浄なる粛清”は完遂される。……ああ、本当に楽しみだわ。あの不愉快な生ゴミどもが、絶望に歪んだ顔を晒す瞬間が……!」
決戦前夜。各陣営の思惑が渦巻き、物語は最終局面を迎える。




