再会
秋良が出した答え?それが映画を見れば分かるって?
番組の司会者もスタッフも観客も、そして今この番組を見たであろう視聴者も全て番宣だと思い込んだであろうさっきの秋良の発言は、俺だけは全く別の意味に聞こえた。
頭の中で回想が駆け巡る。
<これ以上の気持ちがあるって?大和を好きだって思う俺の今の気持ち以上の人に出会えるって?>
<俺が広い世界に出て…それでもお前だけだって思ったら、どうする?>
<俺は大和にしかしない。喉にキスするのは大和だけだよ>
<喉にするキスに意味を持たせたいから…かな?>
<もし大和以上に好きな相手を見つけられなかったその時は、ちゃんと責任取ってもらう。>
<広い世界に出てみたよ。映画見てくれてるといいな。見てくれたらきっと分かると思う。これが…僕の出した答えだよ>
嘘だ。
だってそんなはずないだろ。
あれは映画の演出で、秋良本人が行動したわけじゃない。台本だってある。それを無視してあんな事できるはずがない。
焦点が合わなくなった視界で耳だけが周りの音を拾ってきた。
「ねーマジ映画良かったぁ~」
「やばかったよねぇ!秋良めっちゃカッコよかったぁ~!」
その名前にビクリと肩が震える。
そりゃそうだろ、だってここは映画館にも近い場所だ。秋良が出演していた映画だって見て来たファンだって通る道だ。
聞く気はないのに嫌でも会話は俺の耳へと届いてしまう。
「てかさぁ、この前出た雑誌読んだ?」
「あー秋良が専属モデルしてるメンズのやつ?」
「そうそう!それ!でさ、今回の”恋あら”について秋良のインタビュー載ってたんだけどねぇ、この映画の中でキスシーンだけ唯一アドリブ入れたんだってぇ~」
「えっマジ?」
「台本よりいいって監督に気に入られてあのシーンが採用になったらしいよ」
「ヤバッ!えー相手の子羨ましすぎ」
「ねー?あんなの急にされたら役だとしても惚れるしかないじゃん。いいなぁ~あたしも秋良にあんなキスされたーい!」
「あたしらには一生無理じゃん」
「そういう現実的な事いうなし…つらっ」
遠ざかっていく彼女たちの会話が耳に残る。
今の俺には知りたくなかった事実がまた一つ増えた。
アドリブ?アドリブだって?あのキスシーンが?
台本じゃなかった。あれは秋良自身で行動した結果らしい。
じゃあつまりなんだよ?
さっきの番組で秋良が言っていた事、映画のキスシーンの事、俺がキスシーンを見て感じた事。
全てが一本の線となって繋がっていく。
「広い世界に出て…出たのに、なんでだよ…なんで、まだ…」
気付きたくなかった事実に気付きそうになった俺は、現実逃避をするかのように未だにその場に蹲っていた。
グルグルと思考が巡り、そんなわけがないと他の道筋を辿ろうとしてもやはり結論は同じ所に辿り着いてしまう。
信じたくなかった。
だってそれに気付いてしまったら、もう引き返せない所にまで引きずり込まれたようなものじゃないか。
と、そんな俺の腕を突然誰かの手によって引っ張り上げれた。
視界が一気に急浮上して地面が遠くなる。
道端で蹲っていたからきっと邪魔だったのだろうか?それとも俺の体調を気遣って…いや、体調が悪い奴に対してこんな急に立ち上がらせる事は普通の人はしない。
そう、普通ならしない。
こうやって背後から抱き締められることも、普通ならあり得ないことだ。
普通、なら。
「久しぶり、大和」
耳に吹き込まれる馴染んだ声に対して俺は目を大きく見開いた。
今はもう画面越しでしか聞かなくなってしまった声。さっき巨大スクリーンで聞いた声と同じ声が耳元から聞こえきた。
なぜ?どうしてここに居るんだ?
それよりもなんで俺だって分かった?
髪も服装も当時とは全然違うのに。
「外見変わったな?でも俺はすぐに気付くよ。だってお前は大和だから。俺がずっと好きな相手でずっと片思いをしている相手。天真爛漫ですぐに俺以外の奴に気を持ってかれて、下半身はゆるゆるで、口を開けば口八丁手八丁で相手を誑し込む。でも本当は優しい。俺を…お前から解放しようとした。広い世界に俺を逃がした。なぁ大和、それを俺が気付かないとでも思ったか?」
俺の思考を読んだのかように大和はそう答えた。
「…秋良、なんでここに…」
抱き締められる腕の力がゆっくりと強くなっていく。
まるで今まで会っていなかった隙間を埋めるかのように。
「大和だ。…大和の匂いだ。ずっと、ずっとずっと会いたかった。4年間、片時も忘れたことなんてなかった」
きしりと背骨が鳴った。
息が苦しくなってくる。
なんで?どうして?なんで秋良がこんな所にいるんだよ?
仕事は?マネージャーは何してんだよ?
有名人が繁華街をフラフラ出歩いてあまつさえ人に抱き付いてるなんて
こんなの気付かれた時どうすんだよ?
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