第53章 呼び出しの理由
とある日、俺は自宅で千楓と二人、並んで読書をしていた。
「ねえ、雄平くんはさ…あたしのことをどう思ってる?」
「は?おい何言ってるんだよ」
千楓はそういって俺の上に覆い被さってくる
唐突な千楓の質問に驚いた俺の隙をつくかのようにソファへ押し倒してきた
女の子特有の柔らかな感触と甘い香りが、容赦なく俺の理性を揺さぶる。
何故か抵抗が全く出来ず…そのまま倒れ込んでしまった
千楓のプルンとした唇が俺の顔にぶつかりそうになった時
「にゃー」
「またまたお前かCB…このやろう良いところで」
飼い猫に何度も邪魔されるとはなんという…
「藤堂ー!」
CBが喋ってる!?
「藤堂ー!!!」
「うおい!!」
慌てて起き上がると目の前には教室と教科書を持った柊夏海先生がいた
「あれ…?」
「おい藤堂!!」
「へあ!すんません!」
怒鳴りながら俺に顔を近づけてきた
クスクスと周りから笑い声が聞こえる
どうやら授業中に居眠りをしてしまったらしい
「どうやらじゃねえ!お前、私の授業中に寝るとは良い度胸だな!」
そんな地の文につっこまんでも…
「あとで昼休みに私んとこに来い!弁当も持ってな!長い説教してやる!」
「は、はい」
長い説教って…
キーンコーンカーンコーン
「だっははは!やっちまったな、雄平よ」
「拓也…笑いごっちゃねぇよ」
授業が終わると真っ先にバスケ部の超長身男子の和田嶋拓也が話しかけて来た
「あんな大声で呼ばれるとは」
「くくっ!マジで面白かったよ、最初は普通に呼んでたけどあまりにも雄平が起きねぇから、夏海先生もだんだんムキになっていったんだよ。」
「この昼休みに行かなきゃいけねぇのかー…だりぃなぁ」
「ていうかどんな夢見てたんだ?」
「え?いや」
(ねえ、雄平くんはさ…)
「……………なんでもねえ」
「なんだよ、今の間は。あんだけ寝入ってたんだからなんか見てたんだろ」
「うるせえ!しつけえ!黙れ!」
「ひどい!」
ーーー
そして昼休み…気が進まない身体を無理矢理動かして教室を出る
モテない男子生徒諸君からは美人の先生と昼ごはんを食べるとは羨ましいと妬みの声が聞こえきたが、お説教もセットで付いてくるのでだいぶ複雑である
廊下に出ると高校生にしては大人びてて長い茶色の髪型で制服越しでも分かるほどスタイルが良い女の子が隣の教室から出て来た
生徒会長でもあり野球部主将の別当梓だ
彼女は俺が押忍と声をかけようとした瞬間、俺の顔を見るなりブフッと吹き出した
口元とお腹を押さえながら身体を震わせて笑っていた
「人の顔を見て笑うんじゃねえよ」
「す、すまない。くっくっくっ!キミ、さっきの授業中におもいっきり夏海先生に名前を呼ばれてただろ」
「そうだけど…え?梓のクラスまで聞こえてたのか」
「あ、ああ。あまりにも呼ばれるから少し授業が中断されてみんなで笑ってたんだ、ブフッ!」
「まだ笑いやがって。そうだったのかよ、悪かったな」
「いやこちらこそ…クッ!」
梓は笑いそうになった口を強く抑える
「俺は呼び出しされてるから行くぞ」
「なんの呼び出しなんだ?弁当まで持って」
やっと笑いがおさまったみたいで普通に聞いてきた
「授業中に居眠りをしたからお説教だと…梓のクラスまで聞こえたのは俺を起こす声だったんだよ」
「なるほど…ブフッ!あははは、そうだったのか」
「このやろう…」
思い出し笑いしながら梓は吹き出す
乙女の顔じゃねえな
「ていうか、前に比べて顔色というのかずいぶんと良くなったな」
「そ、そうか?」
梓は自分の赤くなった頬を両手で挟むようにプニプニしている……今のは可愛いな
「最近は生徒会の仕事もあってあまり寝れなかったのだが…」
「いい顔してるよ。部活が楽しいんじゃないか?」
「そうかもしれないな、やはり皆と一緒に目標に向かって頑張れるのが楽しいな」
「そりゃよかったな」
梓は女子野球部で充実した活動が出来てるみたいだ。ちょっとだが協力できた身としてはすごく安心する
「おっとすまない、時間を取らせてしまったな。」
「おう、じゃあな」
「ああ」
梓とお互いに笑顔で手を軽く振りながらすれ違いながら俺は職員室へ向かう
梓と話して少し説教される気の重みから解放されたような気がした
「つーか、飯食いながら説教ってどこでやんだ?まさか職員室でやろうてんじゃないだろうな」
その光景を思い浮かべると相当マヌケな感じだな
そうこう考えているうちに職員室に着いた俺は扉を開けて入ろうとすると
ガラッ
「おお、藤堂!ちょうどよかった、さあ行くぞ!」
「え、どこか行くんですか?」
「ああ、職員室だとお前が気まずいだろ」
「いやまあそうですけど…」
そのままスタスタと歩く柊先生に俺は慌てて後ろを着いていくと見覚えのある扉の前で止まる
生徒会室だ
「ここで食べるんすか?」
「ああそうだ!だめだったか?」
「いや俺生徒会じゃないし良いんですか?」
「一応、梓には許可貰ってるぞ?」
そうなんだ…あいつ笑うばかりでそのことに関しては何にも言わなかったな
「それにあたしは生徒会顧問だしな」
「え、そうなんですか?」
「だから安心して入れ!」
「イテッ!」
バシッと俺の背中を叩くように押して入室させる
「よし!食べるか!特別に茶を入れてやろう!」
「あ、あざす」
柊先生は備え付けてあったポットが沸いたら慣れた手つきでお湯を注いでいく
俺は初めて来たとき梓にお茶を淹れてもらったのを思い出す…あれからまだ一、二ヶ月か、なんか長いことのように感じるな
「さ、お待たせ!食べよう!」
「は、はい」
2人でそれぞれに両手を合わせて頂きますというと弁当を開けて食べ始める
「藤堂のは凛の手作りか?」
「あ、はい。」
「あいつ本当に料理上手だよなぁ。店を経営してるから当たり前だけど」
「そうすね、姉は昔から料理が好きだったんで」
「大学時代にはよくあいつにお世話になったよ」
「そうなんすか?」
「よく食べさせてもらったんだ。もちろん食費も払ってな」
「へーそうだったんすね」
「今もたまーに店に行くんだ。凛の淹れたコーヒーにサンドイッチがまた良く合って…ってその弟に言ってもしょうがないが」
「いえ、聞いていて嬉しいっす」
「そうか?」
「姉貴は俺にとっても自慢なんで」
「そうか…じゃあたくさん聞かせてやろうかな」
柊先生はそういうと姉貴の話を楽しそうにしてくれた
姉貴は大学時代は家から離れてたのであまりよく知らないからすごく新鮮だった
2人とも食べ終わり、お茶を啜っていると
「いやぁ我ながら美味しかった!」
「先生はご自分で用意されたんですか?」
「ああ、簡単にだけどな」
ちらっと先生の弁当をみたが簡単にというにはかなりしっかりした弁当だったような気がするが
「先生も料理上手なんですね」
「いやそんなことはないぞ?凛に比べたらな」
また姉貴の話…
「あたしが料理するようになったのは凛の影響が強いしな」
「え、そうなんですか」
「昔は酷かったんだぞ。何にも出来なかったけど、凛に特訓されてな」
「特訓すか…」
「ちょっと料理を頑張りたいことがあって…頼んだんだ」
「そうなんすね」
「あいつはすごかったからなー
学祭の屋台で伝説を残してたし」
「伝説?」
「一年生で大学でぶっちぎりの一位の売り上げを残したからな」
すげえな姉貴!
「そんなことしてたんすね」
「なんだ知らなかったのか…」
「そんときはちょっとやさぐれてたんで…」
「そ、そうか」
「それで先生…」
「ん?」
「あのお説教は?」
「ああ、あれは嘘だ」
「へ?」
「本当はお前に話したいことがあるんでちょっと説教の名を借りて呼んだんだ」
「話したいこと?」
「いや実はな、昨日レオーヌから連絡があってな」
「理事長からですか」
「一昨日、うちの新監督と話したんだろ?」
「まあ、はい」
「それでコーチをやって欲しいと頼まれたんだろ?」
「そうですけど…先生は知らなかったんですか?」
「あたしもまだ監督と顔を合わせられなくてな」
「そうなんですね」
「だから…な」
先生は急に箸を置いて立ち上がるとそのまま頭を下げる
「先生?」
「すまんかった!」
「いやいや、頭上げてください。」
「レオーヌも新しい監督さんもお前の才能がもったいないと思っただけなんだ」
「……」
「お前に嫌な思いをさせたくてしたわけじゃないんだ!許してくれ」
「似てますね」
「え?」
「あの時は土下座でしたけど…レッドアイアンズとの試合に出て千楓たちを助けてくれってウチまで来たじゃないですか」
「あ、ああ」
「あの状況に似てますね」
「そ、そうか」
「俺は怒ってないっすよ。まあ、嫌なことは思い出しましたけど…」
「本当にすまん!」
「だからやめてくださいって。ほら食べましょう」
「藤堂…」
「別に投げられなくはないですよ。なんなら千楓たちをあの時のように助けてやりたい…いや、一緒になって甲子園に行きたいと思いました」
俺はずずっとお茶をすする
「でも、怖いんす…また妬まれ邪魔されるのが」
「そんなことアイツらは…」
「アイツらはやらない…わかっています。投げててあんなに心地良いマウンドは初めてだった、捕手が俺を見て周りが声をかけてくれる」
「あんなに楽しい野球をしたのは久しぶりでした。先生ありがとうございます」
俺は椅子に座ったまま頭を下げた
「だったら!」
「無理なんす、もうここに刻まれちまったから。誰も助けてくれないマウンドの恐怖ってやつを…」
自分の胸を強く掴む
「だからすみません」
再度、俺は頭を下げる
自分の空になってる弁当を見た後、先生が酷い顔をして俺をみていた
「食べ終わったんで行きます。そんな顔しないでください、この前の試合のことは感謝してるんす…本当にありがとうございました」
俺は弁当を包んで茶碗を片付けて扉に向かおうとすると
「藤堂!」
「はい?」
「いつでもいいから!いつでもいいから野球部にこい!今日の居眠りの罰だ!来たくなったら来るんだ、わかったな」
先生は力強く俺に伝えてきた
「…あざす」
俺は軽く礼を言って、ガチャっと扉を開けた。
その瞬間、廊下の向こうで誰かが慌てて走り去る足音が聞こえた。
タッタッタッ――。
一瞬だけ見えたその背中は、かなり見覚えのある女子生徒のものだった。
今回も読んでいただきありがとうございます!
第53章では、雄平が抱えている「野球をしたい気持ち」と「マウンドへの恐怖」を少しだけ掘り下げてみました。
次回も日曜21時に更新しますのでよろしくお願いします!
引き続き読んでいただけると嬉しいです!
ここまでお付き合いいただきありがとうございます!
初挑戦の作品で至らない点もあると思いますが、感想や☆評価をいただけると本当に励みになります。




