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葛城エース ―追放されたエース、女子だらけの野球部で再起します  作者: CIMAGIROW


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第51章 依頼


「失礼、僕はこの度葛城学園女子野球部の監督に就任することになった芦屋姫子です。よろしく」


そう言いながら芦屋さんは手を差し出してきた


「あ、どうも」


というか、監督?女子野球部に?初耳なんですけど…それよりも驚いているのがさっきまで俺の講義を受けていた三人だ


「ええ!か、監督!」


「うちの野球部に…ですか!」


「お姉様、本当なのでしょうか?」


「本当よ、こちらの芦屋姫子さんに初代監督になっていただくわ」


そちらもまだ聞いてなかったのね


「キミたちは女子野球部の子たちだな?月曜日の部活の時間にきちんと挨拶させてもらうが一足先に監督就任予定の芦屋姫子です。よろしく」


「よ、よろしくお願いします」

桜田さんの声に合わせて3人とも頭を下げるが福嶋さんが頭を上げるなり目を細める


「んー?どこかで見たような…それに芦屋って」


「晴佳さん…お会いしたことあるんですか?」


「いや、わかんない」


うーんと福嶋さんが唸っていると


「キミたちが見たことあるのは当たり前だ。僕はこの前の試合でレッドアイアンズのベンチにいたからな」


「え、あのときに!?」


「僕はマネージャーとして帯同していたんだ。キミたちのプレーはあの試合もそうだが動画でも見させてもらった。3人とも重要な戦力として期待している」


それを聞いて3人ともワァァと嬉しそうにしていた


「藤堂くんはこのあとお時間よろしいかしら?」


「へ?オレですか?」


「芦屋姫子さんがキミにお話があるらしいの。どうかしら?」


理事長にそう言われて空を見るともう赤い夕焼けが広がっていた

これからかよ


ダメではないし帰っても1人、じゃないネコがいたな…あ、ネコ!


「そんなに時間が掛からなければ…ネコに夜ご飯あげなきゃいけないので」


「ありがたい、では、よろしく頼む」


「じゃ、じゃあわたしたちはおいとましようか」


桜田さんがそういうと福嶋さんも


「そうだね。理事長、リオン、藤堂先輩ありがとうございました!」


「門までお送りしますわ」


「また皆さんいらしてくださいね」


「「はーい」」


わいわい話しながら3人は廊下を出て玄関に向かっていった

「では、お茶でも飲みながらお話ししましょう。この時間だから本当のアフタヌーンティーをね」


「?」


「そ、そうすね」


…初対面の時のことをまだ根に持ってやがった


しばらくするとメイドさんたちがやってきて本当にアフタヌーンティーの準備がされていく


お茶はもちろんのことスタンドみたいなのが三つほど用意されそれぞれに置かれる


本格的なのに比べるとかなり小さいがきちんと下からサンドイッチ、スコーン、ケーキ?が乗せられていた


この状況に俺は少し戸惑いを見せる


「あなたの講義を聞いていておやつが食べれなかったのよ、2人とも付き合ってくださる?」


「は、はあ」


「ありがたくいただきます」


芦屋さんはお腹が空いてたようだ

俺は喉が通らない


「芦屋姫子さんは昔からお父様の野球を見続けてきたらしいの」


「あの監督さんの?」


「ご本人も大学まで女子野球部に所属して結果を出されてきたわ。日本の女子野球の期待の星だった方よ」


「いえ、そこまででは…モグモグ」


期待の星というより、食欲の星じゃないか……。さっきから驚くほどよく食べている。


「それでお話というのはなんでしょうか?」


そこそこ食べて飲んだり雑談などをして頃合いがいい時に俺は質問した


三人に対しての講義のあとに監督がいて理事長がいてーのだからだいたいなんとなくわかるけど


いやーな予感がプンプンする


「実は…」


「理事長、この話は僕からお話させてください」


「わかりましたわ」


「藤堂くん…キミに葛城学園女子野球部のアシスタントコーチを依頼したい」


「お断りします」


「即答だな」


「というかこういう話は俺に持ってこないように理事長にお願いしたはずですよ」


「……」


「そういう条件で千楓たち…女子野球部の試合に俺は出たんですよ。」


「その話は僕も聞いている」


「この際だから言いますけど、もう俺の左肩は投げれなくなるし、指導なら監督の芦屋さんがいる。もうここまで来たら俺の道ではない、千楓たちの戦いです。そこに俺が…」


「それでも」


芦屋姫子さんが早口で喋る俺の言葉を遮る


「失礼、それでもキミのチカラが彼女たちには必要だ」


「俺のチカラ?」


「キミは勝利を知っている…そんな人間は貴重だ。甲子園を制覇したその手腕もそうだが、何よりキミは野球を知っている。それが欲しい」


「あれは全員野球で勝ち取っただけですよ」


「僕はそうは思わない。」


「……」


「キミが所属していた橘川咲春高校は甲子園優勝どころか甲子園になんてとても無理だった。それを可能にしたのは誰のおかげか…わかる人間にはわかる」


俺は両膝に置いていた手のひらを軽く握る


「貴女にはわかると?」


「ああ、あのチームはキミというエンジンへの依存度が高すぎた。見ていて、いつ壊れてもおかしくないと思っていたよ。よく空中分解しなかったと見ててヒヤヒヤした…これには僕の父も同意見だ」


確かにそうだったが…俺におんぶに抱っこだけではなく余計な荷物まで積み込んできた


「だからキミの肩と肘は悲鳴を上げた。だが葛城学園では違う。僕たちはキミ一人に何も背負わせるつもりはない」


多分…千楓や梓もそう言うだろう


千楓たちの顔が頭をよぎる。もし俺が力になれば、あいつらはもっと強くなれるのかもしれない。


……いや、駄目だ。


一歩踏み出せば、また昔と同じ場所へ戻ってしまう気がした。


「……そうは言われても無理なものは無理です。」


俺はそのまま立ち上がって上着を着てカバンをもって外に出ようと取っ手に手をかけた。


「待ってくれ」


芦屋さんの声がふたたび俺を立ち止まらせる


「なんすか」


わざと嫌な言い方で返事をする


「キミが残したスコーンとケーキもらってもいいか?」


食いしん坊か!


「別にどうぞ。俺は失礼します」


扉を開けて閉まる音が講堂に広がった


「やはり断られましたね…モグモグ」


「そうですわね。これでも彼が欲しいですか?」


「これは父も言ってましたけど彼はもったいないですから。」


2人の咀嚼音と紅茶を飲む音がさらに響く


俺は理事長の屋敷を出たあと、


屋敷を出ると、茜色に染まった夕空が広がっていた。俺は行き先も決めないまま、ただ足の向くままに歩き続けた。


気づけば無意識のうちに奥歯を強く噛み締めていた。顎に力が入り、ガチッという嫌な音が頭の中まで響く。


奥歯がきしむ不快な感覚だけが、頭の中でいつまでも鳴り続けていた。


もう二度と投げられないわけじゃない


投げられない…わけじゃないけど


投げたくない


別に投げろとは言われてはいない


あの時とは違う…使い捨てされるわけじゃない


あの女性監督はそういう人じゃないし千楓たちもそういう奴らじゃない


『僕たちはキミ一人に何も背負わせるつもりはない』


その言葉だけが、耳の奥にいつまでも残っていた。


あそこまで真正面から評価されたのは久しぶりだった。嬉しくないと言えば嘘になる。


だから信じたい気持ちはあった。


けれど、一度壊れた心はそう簡単には前を向いてくれない。


それでも…もう"使われる"のはもう嫌だ


そう思えば思うほど、嫌な記憶が頭をよぎる。


「くっ…!」


また嫌な記憶が頭をめぐってきて、頭の中が暗い感情で押しつぶされそうになる


手足の全てに力が強く入ってしまう


目頭を押さえて目を強く瞑る


すぅーはー、すぅーはー


落ち着け。もう終わったことだ。そう自分に言い聞かせても、胸の奥の傷は少しも薄くならなかった。


「雄平くん?」


後ろから聞いたことのある声が聞こえた


その瞬間、頭の中の黒くて嫌なモヤモヤがスゥーっと晴れてゆく


振り返ると、夕焼けを背にした浦河千楓が立っていた。


皆さま、第51章を読んでいただきありがとうございます!


今回は新キャラクター・芦屋姫子が本格的に登場し、物語も少しずつ新しい局面へと動き始めました。


一方で、雄平は過去を簡単には乗り越えられません。周囲からどれだけ認められても、心の傷というものはそう簡単に消えてくれないものです。


それでも、ほんの小さなきっかけが人の心を動かすこともあります。



次回も日曜21時に更新しますのでよろしくお願いします!

引き続き読んでいただけると嬉しいです!


ここまでお付き合いいただきありがとうございます!

初挑戦の作品で至らない点もあると思いますが、感想や☆評価をいただけると本当に励みになります。

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