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葛城エース ―追放されたエース、女子だらけの野球部で再起します  作者: CIMAGIROW


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第49章 店主のいない陽だまり



日が変わって土曜日の学校は休日、校門前で


「んん!ん〜〜!んはぁ〜疲れた〜」


大きく空をつかむように千楓が全身を伸ばす


「今日も練習後に悪かったな千楓」


「ううん、疲れたは疲れたけど楽しかったよ。ちょっとした会社みたいだった」


「まさか一年生も含めてみんな手伝ってくれるとは思わなかった…」


「そりゃあそうだよ、梓は一回倒れてるしこれからの野球部のためにもね」


「ありがとう助かったよ。それで今日はどうするか、喫茶[陽だまり]にいくか?」


「う〜んどうしようかな」


「というか、今日は付き合ってくれ。脳とお腹が限界なんだ」


梓は頭とお腹を片手ずつでおさえながら辛そうにうったえてきた


「はいはい、わかったよ」


2人で歩きながらまだ見ぬ飲み物や食べ物にあたしたちは思いを馳せる


香ばしくて深ーい苦味のコーヒーに何層にもわたって美味しいものが重なるサンドイッチ


何回も思い出してはヨダレが出そうになる


ーーーけれど


店の前に着いて中に入ると少し違和感を感じた


「?…ここって[陽だまり]だよね?」


「そうだな」


店名は[陽だまり]と書いてあるし外装も内装も全くと言っていいほど、変わっていない


唯一、変わっているのが…


「あら、いらっしゃいませ。空いてるお席にどうぞ。お父さんお冷や二つお願い」


「あいよー」


カウンターに知らない老夫婦がいることだった


「と、とりあえず座ろうか」


「そ、そうだな」


戸惑いながらも奥の席の方に座ると奥さんがお冷やを持ってきてくれた


コトッ


「ご注文がお決まりの頃お伺いいたしますね」


「は、はい」


「ありがとうございます」


あたしたちは、いつもとはどこか違う空気に包まれた状況の中で、並んだメニューを眺めながら、何を選べばいいのかも分からず、どこか落ち着かない気持ちで戸惑っていた。


「よし!」


梓が勢いよくメニューを閉じた


「何かわかった?」


「うむ、やはりナポリタンとミルクセーキにしよう!」


「そっちの話!?」


「いやもう限界なんだ、本当にしばらく忙しすぎてメニュー以外は何も考えたくない…」


「あ、そう」


梓がそう来るならあたしもメニューに集中しよう


この前はアイスコーヒーだったし…


悩んでいるとあたしも頭が疲れていることに気がついた…それならば


「今日はあたしも甘いものにしようかな、梓と同じものでナポリタンも一緒に」


「よし!では…」


「はいはい、お決まりかしら?」


梓が呼ぼうと手を挙げると同時に奥さんのほうから来てくれた


「ナポリタンとミルクセーキを二つずつください」


「はいかしこまりました。少々お待ち下さい」


奥さんはカウンターの方へ向かい、奥にいた旦那さんにあたしたちの注文を伝えにいった


「今日凛さんはどうしたんだろうね」


「あぁそうだなぁ。雄平くんは何か言っていたか」


「ううん、最近、あの噂のせいで、あんま話せてないし、顔合わせてないからさぁ」


「そうか…どうしたんだろうなぁ」


二人でどこか落ち着かないままメニューを眺めていると、奥さんはそんな空気を察したように、何も聞かずミルクセーキを二つ運んできてくれた。冷えたグラスをそっとテーブルに置きながら


「あらあら、若いお二人がそんなに悩んでとりあえず、これでも飲んで落ち着きなさいな」


と優しく微笑んでいた。


「あ、あの…」


ミルクセーキがきて少し落ち着いたのか、二人は悩んでいた理由を静かに話し始めた


「あら!悩みの原因はワタシたちだったなんてごめんなさいねえ」


「い、いえ…それで凛さんは?」


「凛ちゃんはね、今日はお休みしているの」


「お休み…ですか」


「体調不良とか?」


「ううん、違うみたい。確か弟さんと2人で里帰りするとか言ってたわね」


「そうだったんですね」


「だから、お二人が代わりに」


「そう、このお店は今、凛ちゃん1人でやってるでしょ。それだと大変だからってうちのお父さんがたまに代わりをしようって…」


「へえー」


あたしは、ひんやりと甘いミルクセーキを口に運びながら、なるほどと小さく納得していた。


「これ美味しいですね」


「うふふ、お父さん良かったですねー!」


奥さんの声に応えるようにキッチンでご主人のジャージャーとフライパンを振る音が聞こえた


そのあとも奥さんと話が弾んでいく


「なるほど、それで凛さんがお二人のあとを継いだんですね」


「そうなのよー、凛ちゃんは二代目でうちのお父さんが初代なの」


「凛さんすごいなー」


「本当にすごいのよ。凛ちゃんたらワタシたちが2人で頑張ってたのに1人でなんでもこなせちゃうから」


「確かに凛さんの手捌き、客捌きは驚愕します」


「でしょー?コーヒーも淹れるのも上手だし常連どころか、こうして新しく可愛いお客さんまでゲットしちゃって…」


話に夢中になっていると奥から野太い声が聞こえてくる


「おい! ナポリタンできたぞう!」


「あ、はいはい」


奥さんが慣れた様子で返事をして、カウンターの奥へ向かう。


少しして、ふわりと甘酸っぱい香りが店内に広がった。


ケチャップの焼けた匂い。

バターのようなまろやかな香り。

それに、炒められた玉ねぎとピーマンの香ばしさ。


思わず、あたしと梓は同時に顔を上げた。


「……来た」


「うむ、これは当たりだな」


奥さんが運んできた皿の上には、湯気を立てるナポリタンがたっぷり盛られていた。


太めの麺に、真っ赤なソースがよく絡んでいる。

輪切りのウインナー、しんなりした玉ねぎ、鮮やかなピーマン。

その上には、粉チーズが雪みたいにふりかけられていて、横には小さなフォークが添えられていた。


「はい、お待たせしました。うちのお父さん特製のナポリタンよ」


コトリ、と皿がテーブルに置かれる。


その瞬間、湯気と一緒に立ちのぼる懐かしい匂いに、空っぽだったお腹がきゅうっと鳴りそうになった。


梓は目を輝かせながら、静かにフォークを握る。


「……これは、書類仕事を乗り越えた者へのご褒美だな」


「あはは、大げさだなぁ」


そう笑いながらも、あたしももう我慢できなくなっていた。



「いただきます」


「いただきます」


二人で手を合わせると、梓は待ちきれないように早速フォークでナポリタンを巻き取った。


湯気を立てる麺を口へ運ぶ。


そして――


「……っ!」


梓の表情が、一瞬でほどけた。


「美味い……!」


「ほんと?」


あたしも慌ててフォークを伸ばす。


もちもちした太麺に、甘酸っぱいケチャップソースがしっかり絡んでいた。


噛むたびにウインナーの旨味が広がって、玉ねぎの甘さとピーマンのほろ苦さがあとから追いかけてくる。


どこか懐かしい味なのに、ちゃんと“喫茶店の味”だった。


「わぁ……これすごい」


「だろう……」


梓は感動した顔のまま、すでに二口目に突入している。


「疲れた身体に染み渡る……」


「さっきまで死にそうだった人とは思えない食べっぷりだね」


「今の私は最強だ」


「単純だなぁ」


思わず笑ってしまう。


けれど、不思議だった。


さっきまで感じていた“いつもと違う空気”への戸惑いが、ナポリタンを食べ始めてから少しずつ薄れていく。


カチャカチャとフォークの当たる音。

フライパンを振る音。

優しそうに笑う奥さん。

そして、どこか懐かしい店の匂い。


変わっていない。


凛さんがいなくても、この場所はちゃんと“陽だまり”だった。


「あらあら、そんなに綺麗に食べてもらえると嬉しいわぁ」


奥さんが嬉しそうに笑う。


すると梓は、フォークを持ったまま真面目な顔で頷いた。


「ええ、本当に美味しいです。これはまた食べたくなります」


すると奥の方から、


「……そりゃどうも」


と、ぶっきらぼうな声が返ってきた。


その直後、照れ隠しみたいに新聞を大袈裟にめくる音が店内に響く。


思わず、あたしと梓は顔を見合わせて笑ってしまった。


ーーー



夕暮れ色が差し込む理事長室。


重厚なソファに向かい合って座る二人の女性の間には、静かな紅茶の香りが漂っていた。


「そういうわけで芦屋姫子さんには来週からお願い致しますわ」


1人の妖艶な女性は葛城学園の理事長兼校長の天城レオーヌ


「かしこまりました。誠心誠意、務めさせていただきます。」


もう1人の小柄で中性的な女性は元レッドアイアンズマネージャー兼マッスルジムレッドアイアンの社長秘書だった芦屋姫子だ


「本日は御足労いただきありがとうございました、何か要望があればなんでも仰ってください。出来得る限り対応させていただきます」



「でしたら、一つお願いがあります」


姫子はティーカップを静かに置いた。


「葛城学園女子野球部に、アシスタントコーチを置いていただきたいんです」


レオーヌが細く目を細める。

「……理由を伺っても?」


「今のあの子たちには、“勝ち方を知っている人間”が必要です」


姫子は少しだけ笑った。

「特に――藤堂雄平くんには、現場へ戻ってもらうべきです」


その瞬間。

レオーヌの口元が、ゆっくりと吊り上がった。

ここから少しずつ、また物語が動き始めます。


ちなみに作者はナポリタンを書くたびに、「今すぐ喫茶店で食べたい……」という気持ちになります。ケチャップの香りって反則ですよね。


もし少しでも「続きが気になる」「陽だまり行きたい」と思っていただけたら、フォローや感想などいただけると励みになります!

次回も日曜21時に更新しますのでよろしくお願いします!

引き続き読んでいただけると嬉しいです!


ここまでお付き合いいただきありがとうございます!

初挑戦の作品で至らない点もあると思いますが、感想や☆評価をいただけると本当に励みになります。

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