第47章 なんか違う
第47章 なんか違う
――重い。
まぶたを開けるより先に、胸にのしかかるその感覚で、朝が来たことを知る。
息を吸おうとすると、少しだけ詰まる。
原因はわかっている。
「CB……お前、またか」
かすれた声で呟くと、視界の端で黒い影がゆっくりと動いた。
のそり、と。
まるで自分がこの部屋の主であるかのような態度で、そいつ――黒猫のCBは、当たり前みたいに俺の胸の上に陣取っている。
金色の瞳が、じっとこちらを見下ろしていた。
「……重いって」
抗議してみるが、効果はない。
「にゃ」
「つーか、お前どうやって部屋まで入って来たんだよ」
ドアのほうをみると少しだけ開いていた
昨夜トイレに起きた時にちゃんと閉めなかったか…悪いくせだ
「にゃ」
「そんでお前は俺を起こしにきたのか?」
俺が質問するとCBはベッドから降りて自分で持ってきたのか…部屋の床に置いてあった猫皿を差し出してきた
「なんだ飯が足んねえってか?」
朝のCBのごはんは朝早く出てしまう姉貴の担当だ
もう食べているならあげないほうがいいだろう
「にゃー!」
「そう鳴かれても、もう食べてんだろ」
俺は立ち上がりながらスマホをいじるとメッセージが来ていた
内容は
CBちゃんのご飯よろしく!てへぺろ!
「……姉貴のやろう忘れやがったな」
「にゃ!」
「悪かったって」
俺はCBと書かれた猫皿にキャットフードを入れるとよほど腹が減ってたのか、ガツガツと食べ始めた
「うめえか?」
「にゃー」
口の周りを舐めながら俺に向かって鳴いた
「そりゃ良かった」
俺は軽く顔を洗って眠さを取ってから自分のご飯を用意する
連休明けの朝というのはどうも苦手だ
まだ若いし身体も鍛えてはいるからそんなに不健康ではないはずだが…精神的にダルい
そんなことを考えながら朝の番組を見たりして身支度を整えるとちょうどいい時間になる
家を出る前にCBのご飯をまた用意する
と言っても猫皿に置いておくと食べてしまう可能性があるので、とある機械にキャットフードを入れる
一食分をセットしておくと時間になったら出てくる優れ物だ。
「今度は忘れてないからな、安心しろよ」
「にゃ!」
いろいろと準備を終えて玄関まで行くとトテテテと着いてきた
「帰ったらまた遊んでやっからな。良い子にしてろよCB」
「にゃあ!」
がちゃっ!バタン!
扉を閉めると少し寂しそうな顔をしたCBがいたような気がする
後ろ髪を引かれるってこう言うこというんかな
早く帰ってやるか
ーーー
学校の近くまで来ると他の生徒たちがチラホラと見かけるようになる
まだ俺の知り合いやクラスメイトはいないみたいだ…転校して1か月でまだ覚えられてないけど
「おはよー」
「あ、おはよー」
周りの生徒の挨拶を聞きながら俺は軽く欠伸をして重い足を引き摺るように歩いてしまう
誰か会わないかなぁ〜と思って校門を抜けると
両側が少しハネてるけど綺麗な長い茶髪のスラっとした腰回りの女の子がいた
あの後ろ姿は…!
俺は少し歩くのを早める
ダルそうにしていた足が軽やかに動く
その女の子に追いついてから肩をポンと叩くと彼女は首だけこっちをみて
「よぉ、千楓!」
「あ、雄平くんおはよー」
「休み明けの登校はだりぃよなぁ」
「そうだね」
「千楓は今日も投げてきたのか?」
「ううん、きょうはちょっとやめた」
「調子でも悪いのか?」
「まあ、そんなとこ」
「ふーん」
少し塩っぽいかんじだな
返事は返ってくる。
でも、いつもの千楓より少し遠い。
「おはよー千楓ちゃん!」
「お、今日は朝練ないの?」
「んー、今日はお休み〜」
通り過ぎるだけで、何人もの生徒が千楓に声をかけていく。
……人気者だな
いやまあ、分かるけど。
他のやつには普通の対応か…
俺がなんかやっちまったか?
千楓の様子を気にしていると視線が集まっているのを感じた
なんか周りがざわざわしているような
「…?」
昇降口に入ると掲示板の周りに人が集まっていた
「なんだろうね」
その人だかりの中に一際、背の高い同級生がいた
同じクラスでバスケ部所属の和田島拓也だった
向こうもこちらに気づいたみたいで
「よう、ウワサのご両人!」
「なんだそりゃ?」
「あの記事みてみろよ」
「記事ぃ〜?」
和田島に促されて記事とやらをみようとするけど、人混みがすごくて見えない…
「ちょっと見てくるね」
「おう」
千楓はスルスルっと人混みの中に入っていた
本当に猫みたいなやつだな
「いいのか?彼女を先に行かせて」
「なんの話だよ」
キーンコーンカーンコーン!
少し和田島と話していると始業のチャイムが鳴る
それに合わせて人混みが蜘蛛の子を散らすようにいなくなると掲示板の前に千楓が突っ立っているだけになった
「まあ、彼女と仲良くな!」
和田島はポンポンと俺の背中を叩きながら教室へ向かう
「あ、拓也!…なんなんだアイツ」
「……」
「おーい、千楓。なにが書いてあるんだ?」
「……」
黙って掲示板を見ていた千楓はクルリと俺の方へ向くと
ドンっ!
「痛っ!なにすんだよ」
俺の胸に一発入れやがった!
「キミのせいだからね」
「ハァ?どう言うことだ」
千楓は俺の質問には答えずに小走りで教室に向かって行ってしまった…
俺は掲示板の前でポツンと1人になってしまった
「ホントになんなんだ今日は…?」
千楓に殴られた胸を抑えながらやっと見れるようになった掲示板を凝視すると話題になってたのはどうやら学校新聞だったらしい
そこの見出しには
[発覚!!女子野球部の救世主は謎の転校生だった!?]
[先発エースとリリーフエースのダブルエースによる熱愛疑惑!]
そして千楓を抱き上げながら歩く俺の写真がデカデカと載せてあった
「新聞部のやろ〜来てやがったのか!」
もしかして周囲の視線とか千楓の様子がおかしいのってこれのせいか?
掲示板の前でふと考えていると後ろから強い圧のようなものを感じた
「とーうーどーうー!!」
恐る恐る振り向くと怖い顔した柊夏海先生がいた
「お、おはようございます」
「おはようございますじゃねえ!始業のチャイムが鳴ってるだろうが!とっとと教室に行け!」
「さーせんしたー!」
「廊下は走るな!走らず急げえー!」
「はいー!」
俺は怒鳴られながら廊下を急ぐ。
朝から散々だ。
……なんだか嫌な予感がする。
その予感は、見事なくらい当たった。
休み時間のたんびにクラスメイトに俺は詰められていた
「ねえねえ、千楓と藤堂くんてどんな関係なの?」
「なんであんな速い球投げられるの?」
「おい!浦河さんと付き合ってんのかコラァ!」
最後のは、ほぼ脅しだよなぁ
昼休みには弁当を食う暇すらなかった。
席を立とうとするたびに誰かに捕まる。
野球部のこと。
千楓のこと。
あの記事のこと。
……勘弁してくれ。
千楓のほうも質問攻めになっているかというと休み時間のたんびにいつのまにか教室から出ていって予鈴の時間ギリギリに席についていた
あいつは毎回どこへ行っているのか
上手く逃げられているようだ
他にはクラスにいる千楓以外の野球部の奴らはチラチラとこちらを見るだけで特に話しかけてこない
あいつらも何か言いたげだったな…
あっという間に下校時間になり俺はクタクタになりながら1人帰っていた
俺は新聞部にいろいろ文句を言いたかったがそんな元気はない…早く帰りたい
「早く帰ってCBと遊んでやらねばな」
独り言を発していると新生女子野球部の練習場の声が聞こえてきた
「いーち!」「「「そーれ!」」」
「にー!」「「「そーれ!」」」
「さん!」「「「そーれ!」」」
「しー!」「「「そーれ!」」」
「いち!に!さん!しー!」
「「「いちにさんし!にいにさんし!」」」
そういえばあいつらの練習をアップから見るのは初めてだったな
こんな感じだったのか…ちょっと楽しそうだな
ズキッ!
俺もあの中に加わりたい、そんな気持ちを左肩の痛みが邪魔をする
「わかってる、わかってる。俺が仲間に入れてもらうのはこの間の試合だけだよ」
左肩を撫でながら俺は緑の並木道を1人歩いていく…
背中越しに聞こえる声が、やけに眩しく感じた。
今回は少ししんみりした日常回でした。
CBとの朝から始まり、学校新聞で妙な噂まで立ってしまった雄平ですが、最後の練習風景のシーンは個人的にもかなり気に入っています。
楽しそうな声を“眩しい”と感じてしまう雄平の気持ちは、たぶんこの作品の根っこにあるものなんだろうなと思いながら書いていました。
次回はまた少し空気が動きます
引き続き『葛城エース』をよろしくお願いします!
次回も日曜21時に更新しますのでよろしくお願いします!
引き続き読んでいただけると嬉しいです!
ここまでお付き合いいただきありがとうございます!
初挑戦の作品で至らない点もあると思いますが、感想や☆評価をいただけると本当に励みになります。




