30.無世界劫河
少し前…
「(暗の戦力は確かだが、『アネモス教団』に及ぶ程なのか…?)」
世紀は部屋の隅で翠と少し話した後、暗のメンバー全員について一人で調べていた。
「(ルベリウス。彼女の刀【虚ノ眼】は代々受け継がれてきた妖刀だ。だが、『真紅眼』はまだ填められていない…)」
「(ローグ。彼は記憶を失ったのだろう。それも、他人によって。だが、もしかするとその犯人は善人かもしれない…)」
「(ムー。彼女の父、ヘリン・ヘヴンは既に死んだ偉人だ。彼女はどれだけ彼の死を悔いているのだろうか…)」
「(エンペラー。彼の王国、ギルウィストは突然発生した怪雨によって一瞬で灰と化した…ああ言う威厳ある者こそ、身近なものの喪失を悔やむのなのだろう…)」
世紀が解析を行った後、誰かが世紀の耳元で囁いた。
「ボクもいるよ…」
「(誰だ!?)」
その瞬間にはもう、世紀はその世界にいなかった。彼女はしばらく気を失い、目を覚ました時にはそこはどこまでも続く暗い川の川沿いだった。
「(ここは…)」
「ここは『無世界劫河』。亡霊のメトロポリスとも呼ばれてて、『潺災』で死んだ人たちがいるんだ」
そこには、さっきの声の少年がいた。その少年は顔が黒塗られており、全てが無彩色だった。
「お前は…この時代の者では無いな。お前は誰で、いつから、どうやって何しに来た?」
世紀は落ち着いて立ち上がり、少年に尋問を開始する。
「ボクはネロ・メスト。キミたちの時代からは遠く遠く遠い、ずっと先の未来から、同じく潺災に呑み込まれた友達を探しに来たんだ。メレート・ノクスって女の子、知らない?」
「そんな名前、聞いたことがない。他の時代を探しに行け」
「いや、メレートがこの時代にいることは確定してるの。キミなら強い力を持っているし、何か知ってるかと思って…そもそも、この話は今のキミたちには何の関係もないよね。巻き込んじゃってごめん。でももし彼女を見つけたら、またあの部屋の隅に来て教えてくれる…?」
世紀はその願いを渋々聞き入れ、早く戻してくれと言った。
「じゃあ、またね」
───暗の拠点にて。
「…あれ? 世紀、いつからいた?」
一同は必死で世紀を探そうとしていたようで、無謀だと思い部屋の隅に留まっていた翠が世紀を発見した。
「世紀が帰ってきた!」
翠がさっきのように叫び、一同は安堵の息を漏らしながら戻ってきた。
「世紀さん、何があったんですか?」
「実はだな…」
世紀はさっき起きたことを事細かに全て話した。するとルベリウスが、
「ネロ・メストって…暗の創設者じゃねぇか! あんた、彼に会ったのか!?」
ルベリウスは強気に世紀に詰め寄り、さすがの世紀も引いた。
「ああ…だが、彼はこの時代の者では無い。見たところ、800000桁世紀後辺りの人間だろう。体の構造がバイナリでは無かったしな」
「は? バイナリ?」
800000桁世紀後の部分はまだしも、セルヒは体の構造がバイナリという部分だけ理解できていなかった。
「説明していなかったな。簡潔に話そう。世界はすでに一度滅んでおり、『終焉』が世界をバイナリ、つまり0と1の数列で再構築し、擬似的に世界を創造した」
「はぁ…?」
しばらく経ってセルヒ達は状況を飲み込み、さっきの話題に話を戻した。
「つまり、この世界でメレート・ノクスっていうやつを探せばいいんだな! …で、特徴は?」
「知らない。システムの一部が周りの情報を読み取れずにオーバーヒートしたせいで訊くのを忘れた」
セルヒは疑いの眼差しで世紀を凝視した。
「とりあえず今は、メレートについてのことは忘れて戦争について考えろ」
そうして『調停』の作戦会議が始まった。
「まずはそれぞれの勢力の確認だ。今のところ、あんたらと暗とザルトニア、それと天梁の騎士団の団長と副団長を含む遠征軍が『調停』にあたってる」
「(そういえば妹がーって言ってたか?)」
「次に『赤霧の星』の勢力だ…まあ、実質『紅』しかいねぇが。でもあいつが乗っ取った傀儡の中には、ローグの記憶を奪った、『記憶』に関するであろう人物とか、エンペラーの側近だった戦闘員、それと…ザルトニアの妹、ココ・アブソリュートがいる」
そう言うとルベリウスはある一枚の大きな紙を広げた。
「これは霊化の目の一覧だ。優秀な諜報員が作って、裏社会に出回ってる…この中で、ココが持ってるのがこの【微睡む玄光】。周囲の光を奪う能力だ。影穿ちのルゼレネが味方してくれれば対処は簡単だが、光になったザルトニアが近くにいれば、光と共にザルトニアが消える。だから彼女にココを近づけてはならない」
セルヒはその表をざっくりと見回したが、その端にある【影の真理】に横線が引かれていることに気付いた。気になって訊いてみると、
「ルゼレネは【影の真理】を持っていたが、『影喰い』で右目が侵食されると同時に能力が上書きされ、【淵眸】となったのだ。能力自体はそこまで変わりないがな」
エンペラーが腕を組みながら答えた。
「よく知ってるんだな」
「王の見識は広いんだ」
そしてルベリウスはその表を仕舞い、『闇影の星』勢力の説明を始めた。
「『闇影の星』の勢力だが…ちょっと多すぎるな。強いとこだけ挙げてくか。まずはアネモス教団。夜と風、嘘と真を創造した主としてアネモス・ミッドナイトを信仰してる教団だ。ほとんどの幹部は動いてて戦闘にも参加してるが、その中には暗のスパイもいる。次に影穿ち。アネモス教団に次ぐ強力な組織だ。さっき言ったルゼレネに加え、刀使いの淵途、ウサギ仮面のゼロス、手無しのロモーク、そして盲目のルレイヴが所属してる」
「『闇影の星』だけくそ強いじゃねぇか! …え? 暗のスパイが?」
ルベリウスは軽く頷き、紹介した。
「ああ、言い忘れてたな。冷たいペテン師とも呼ばれる、ジュヴィアだ」
ルベリウスについて
【虚ノ眼】という赤黒い刀を持つ牙のマスクの女性。しかしまだその武器は本領を発揮していない模様。
ローグについて
ある者によって記憶を失い、暗に加入した男性。
ムー・ヘヴンについて
偉人である父ヘリン・ヘヴンを亡くし、暗に加入した少女。
エンペラー・アウグストゥスについて
突然の怪雨によって王国が一瞬で灰と化し、暗に加入した青年。
ネロ・メストについて
友達であるメレート・ノスタという女の子を探し今の時代までやってきた約800000桁世紀後の少年。潺災で亡くなった。
ジュヴィアについて
アネモス教団に幹部として潜入している暗所属のスパイ。冷たいペテン師と呼ばれ、数々の人を騙し、その度に姿を変えてきた。
無世界劫河…潺災で亡くなった人達の霊が集う川。亡霊のメトロポリスと呼ばれる。
潺災…ネロがいた時代の大災害。幾千万の人が亡くなり、無世界劫河へ送られた。




