どういうことですか? 先輩!
「ちゃお、なおなお。あーし、これからこのオカルト研究会に入ることにしたから、よろしくねー」
昨日の点崎との会話から、一夜明けた放課後。いつも通りにオカルト研究会の部室を訪れると、なぜか玲が俺を待ち受けていて、そんなことを言ってのけた。
「……いや、意味が分からん。何でお前が、ここに居るんだよ。今まで一度も、来たことなんてなかったろ?」
「だからあーしは、このオカルト研究会に入ることにしたんよ。あーしと居ると、なおなおが嫌なこと思い出すと思ってずっと我慢してたけど、昨日の感じだともう大丈夫そうだし、ならいいかなーっと思ってなおなおに会いに来たんだ」
「いや、『会いに来たんだ』じゃなくて……。俺は今更、お前と……」
「いいっていいって、そういうのは。あーしはもう決めたし。……というか、なおなおだって正式に許可を取って、ここを使ってるわけじゃないんしょ?」
「まあ、それはそうだけど……」
オカルト研究会は、学校に認められた正式な部活動というわけでは無い。部室棟の一番端の誰も使っていない教室を、勝手に使わせてもらっているだけだ。
だから現状、部員は俺1人しか居ない。……まあ去年はもう1人先輩が居たんだけど、その人はもう卒業してしまった。
「なら、あーしがここに居ても、文句を言われる筋合いはないっしょ? 何より、昨日の点崎ちゃんは毎日ここに来てるんだし、ならあーしだけが来ちゃダメなんて、そんな理屈は通らないっしょ?」
「いやまあ、そうだけど……。つーか、昨日はバタバタしてて聞けなかったけど、お前はなんで点崎を家に入れたんだよ?」
あのバカでかい屋敷には厳しい家令さんが居るから、チャイム鳴らして『玲さんの友達なんですけどー』と言っても、入れてもらえるとは思えない。
「なんか面白そうだったから、あーしが家に入れてあげたんよ」
「……本音は?」
「あの子が最近なおなおと仲良くしてるのは知ってたから、あの子を家に入れれば……なおなおが会いに来てくれるかなーと思ったの」
「お前は相変わらず……いや、いいや。それより今日も点崎がここに来ると思うけど、あんまり……からかったりするなよ?」
「ふふっ、なおなおは相変わらず優しいねー。……でも、いいの? 来週からは7月だよ? つまり、なおなおの大好きな、ささなが──」
「いいよ、ささなの話は。少なくともまだ、時間はあるんだし……」
「でも、なおなおがらしくも無くオカルト研究会なんかに入ってこそこそと調べたりしてるのは、全部あの子の為なんでしょ?」
「……さあな」
俺は玲との会話をそこで打ち切って、いつもの椅子に座って大きく息を吐く。
「…………」
……玲の奴も俺と同じで……いや、なんだかんだで玲の奴が1番、あの事件で傷ついた筈だ。
だから俺は、あのささなとのことがあってから、玲と関わるのは辞めた。きっと玲も、それを望んでいると思ったから。
……しかし、久しぶりに話した玲は、思った以上に昔と何も変わらなくて、だから俺は少し戸惑ってしまう。
こいつは本当にもう、あのことを乗り越えたのだろうか?
「なおなお、なにぼーっとしてんの? ……あ、もしかして、あーしの制服姿に興奮しちゃったとか? あーしすげースカート短いし、なおなお的には気になっちゃう感じ? なおなおは何だかんだで、エロい男の子だからねー」
玲はニヤニヤとした笑みを浮かべながら、俺の方にゆっくりとにじり寄ってくる。
「……その笑みで、にじり寄ってくるなよ」
「いいじゃん別に。あーしは鏡花ほどじゃ無いけど胸もでかいし、なおなおになら……好きに触らせてあげるよ?」
玲は制服をはだけさせながら俺の肩に手を置いて、妖艶な笑みを浮かべる。……正直、俺はエロい男の子なので、惜しげも無く晒された太ももと、大きい胸が作り出す胸の谷間に、視線が奪われてしまう。
……が、昨日点崎の前であれだけかっこつけたんだ。なら、今更おっぱいの誘惑に屈するわけにはいかない。
なので俺は──。
「先輩! なにやってるんですか!」
しかし、俺の覚悟は1テンポ遅く、先に点崎が部室にやって来てしまった。
「いや点崎、ちょっと待て。今からちょっとかっこいいことを言おうとしてたから、もう少しだけ待ってくれ!」
「知りません! そんなこと! ……先輩、昨日は私の前であんなにかっこつけてたのに、もう別の女にデレデレして……最悪です。直哉先輩なんて、もう知りません!」
点崎はそれだけ叫んで、部室から走り去ってしまう。
……けど、数秒でこちらに引き返してきて、顔を真っ赤にして、俺から玲を引き剥がす。
「いいから貴女は、直哉先輩から離れてください! ……貴女と先輩に昔なにがあったかなんて知りませんけど、そんな風に制服をはだけさせて先輩を誘惑していいのは、私だけなんです!」
「分かった。分かった。だから服を引っ張るのは辞めるし。あーしの制服が伸びちゃう。……あ、でも、伸びたら伸びたで、なおなおがチラチラとあーしの胸を見てくれるかも……」
「知りません! いいから貴女は、先輩から離れてください!」
「つーか、点崎。お前なんで一回、出て行ったんだ?」
「……! ……い、いいでしょ? なんでも! ……それより、先輩こそなにやってるんですか! 昨日の今日で、部室にこんな女を連れ込んだりして!」
「いや、連れ込んだんじゃなくて、こいつが勝手に来ただけだよ」
俺は軽くため息を吐いて、玲に視線を向ける。
「もう、なおなおは照れたりしてー。あんなに激しく、あーしを求めてたくせにさー」
「だからお前は、余計なことを言うな」
「あはははっ、なおなおが怒った。……って、これはちょっと本気で怒ってる感じのやつじゃん。なら、これ以上言うのはやめとこー。……それより、点崎ちゃん」
「……なんですか?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべる玲を、点崎はまだ赤い顔で睨みつける。
「ふふっ、そう固くなんないでよ。あーしは別に、点崎ちゃんに嫌がらせする為に、ここに来たわけじゃないし。あーしはただ、前々からオカルト方面に興味があったから、このオカルト研究会に入れてもらおうと思っただけ。だから……って、そういや点崎ちゃんは確か部員じゃ無いんだし、関係ないのか」
「か、関係なくないです! 私と先輩は……その、あれですから……! だからここは、私たち2人の居場所なんです!」
「そんなの知らんし。点崎ちゃんがどう思ってようと、あーしはもう決めたから」
点崎は鋭い目つきで睨みつけるが、玲は特に気にした風も無く、ただ笑い続ける。
「というわけで、これからよろしくね? なおなお。一緒に心霊スポットとか行って、きゃーって言いながら抱き合ったりしようねー!」
「…………」
点崎が無言で抗議の視線を向けてくるが、しかし俺が何を言っても玲は聞いたりしないだろう。こいつは昔から、やると決めればどんなことでも、やり通してしまう奴だ。
「まあ、そういうわけだから、とりあえずしばらくは頼むよ、点崎。こいつも見た目ほど、悪い奴じゃ無いしさ」
「……分かりました。やっぱり先輩は、その女の味方をするんですね。……そんなに、初めての相手が大切ですか」
「いや、そういうのじゃなくて……」
「知りません。もう先輩なんて……。……うー、もうっ! 分かった! 分かりました! じゃあ私もこのオカルト研究会に──」
「邪魔するわよ」
しかしそこでふと、声が響いた。まるで点崎の言葉を遮るように部室の外からそんな声が響いて、力強く部室の扉が開かれる。
「…………」
そして部室に足を踏み入れたのは、昨日俺に『……もう2度と、話すことは無いかもね』そんなことを言った、幼馴染の朱波 鏡花だった。
「いや、なんでお前も来るんだよ。……鏡花」
だから俺はもう呆れるように、そんな呟きをこぼすので精一杯だった。




