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敵対的な環境における偽装の鉄則は、周囲の背景への完全なる同化にある。練達の捕食者は自らの脅威度を誇示したりはしない。ただ徹底して「無害」を装うのだ。


青森達也が新たな電脳の仮面を仕立てる際、準拠したのもまさにその原理だった。『D.A.R.N』のデータは一時的に「レベル32の駆け出し戦士」へと偽装され、頭上にはセンスのかけらもない文字列――『DaikiCool』が掲げられていた。どこからどう見ても、絵に描いたような典型的な初心者(ヌーブ)そのもの。


日曜日の夜、『潜行プレイ(ディープ・ダイブ)』の実験場として選ばれたのは、グリムウッド・ダンジョンの三十五層だった。崩壊した要塞の遺構を模した無機質な灰色の石造建築で、オークの略奪者(マローダー)の群れが高密度に徘徊する、極めて原始的な構造のフロアだ。


グリムウッド・タウンの街頭募集でかき集めた即席パーティは、いわゆる「やってはいけない構成の典型例」だった。だが幸いにも、SROは序盤の浅層においてのみ、そうした稚拙な編成ミスを寛容に許容してくれる。


ヘイト管理を担うのは、耐久値が尽きかけて頻繁に修理スクロールを浪費する、動作の鈍いタワーシールド持ちのナイト。


魔法火力を担当するレベル28のソーサレス『LilyMage』は、セット効果を完全に無視して「物理防御力が高いから」という理由だけで重鎧を不揃いに着込んでおり、詠唱速度に壊滅的なデバフを背負っていた。


落ち着きなくHPバーを凝視して無駄なヒールを連打するプリーストと、安物の片手剣を振り回す前衛戦士。そして二人目の戦士として滑り込んだ達也は、いつものように「弱った敵のトドメ役」に徹していた。


オーク狩りは、単調で平穏なリズムで進行していた。


達也の立ち回りは慎重だった。完璧なパリィのタイミングをあえて見送り、擦り傷程度の被弾をボロ革のジャケットでわざと受け、インベントリ内で最大HP補正リングを着脱することで、リアルな被ダメージや回復エフェクトを演出する。経験値は順調にパーティメンバーのゲージを満たし、オークの死骸からはガラクタのような低級素材が転がり落ちる。メンバーたちは一様に満足げだった。


広大な石造りの大広間には、彼らの他にも二組の野良パーティが適度な間隔を空けて狩りを行っていた。


エリアの設計自体は極めて優秀だった。湧き場が広く、モンスターのリポップ時間も短いため、獲物が枯渇することはない。三つのグループは互いに暗黙のパーソナルスペースを守り、干渉し合うこともなかった。エンドコンテンツ特有のギスギスした利権争いなど微塵もない、平和で牧歌的な初心者狩り場。


だが、その均衡は狩りの開始からわずか二十分で破られた。


広間の重厚な石扉が開き、この薄暗い空間の空気感と絶望的な不協和音を奏でる一体のアバターが足を踏み入れたのだ。


その姿は、黄金の象嵌と脈動するルーン文字で埋め尽くされた眩いばかりの課金鎧に包まれていた。身に纏う装備のすべてが、莫大なリアルマネーの投下を物語っている。しかし、達也の網膜が捉えたのは、テクスチャの派手さではなく、男の頭上に掲げられた二つの識別情報だった。


第一に、プレイヤーネーム――『VanguardSmurf02』。


第二に、ギルドのエンブレム――交差する二振りの刃に貫かれた太陽の意匠。


サーバー最強の覇権ギルド、『Solar Vanguard(ソーラー・ヴァンガード)』の紋章。あのゼフィリオン率いる絶対的王国の軍旗だった。


ネーム末尾の数字、そして『Smurf(サブキャラ)』の単語。それが意味するものは明白だった。本隊に所属する主力メンバーが、低層ダンジョンを力任せに無双してソロ育成するために仕立て上げた、重課金のサブアバター。要求レベル帯における最強の装備を札束で買い揃え、格下を蹂躙するために誂えられた暴力の塊。


男は足を止め、ゆっくりと広間を見渡した。三組のパーティの陣形を冷徹に値踏みする視線。群れの中からもっとも脆弱な個体を狙い定める肉食獣の思考回路は、あまりに短絡的で予測通りだった。男の視線が止まったのは、明らかに他よりも装備がみすぼらしい達也たちのパーティだった。


黄金の甲冑が、無造作に広間を横切ってくる。途中で絡んできた数体のオークの打撃など、課金装甲のパッシブ防御で完封して歯牙にもかけない。男はナイトの正面に仁王立ちした。


「失せろ。ここは俺の狩り場だ」


クレジットカードの限度額が保証する「強者の権利」を振りかざし、男は問答無用で言い放った。


パーティの動きが凍りついた。ナイトは狼狽して盾を降ろし、言葉を返すことすらできない。『ソーラー・ヴァンガード』の看板を背負う相手に逆らえば、ギルド全体の報復を招く――その恐怖が彼らを縛り上げていた。だが達也は、初心者のロールプレイを崩さぬまま、静かに口を開いた。


「悪いけど、僕たちずっと前からここで狩ってたんだ。スペースなら全員分あるだろ?」


完璧な返答だった。攻撃性は皆無だが、先占権を冷静に主張する論理。


VanguardSmurf02は兜の奥で嘲笑を漏らした。ボイスチェンジャー越しに響くその嗤いには、虫唾が走るような優越感が滲んでいた。


「失せろっつってんだよ」男はドスの利いた声で威嚇した。「痛い目見たくねえならな」


劇的な口論の余地などなかった。最上位ギルドの選民思想に染まった男にとって、有象無象の雑魚と対話する時間など無駄でしかなかったのだ。男は即座に行動に移った。


標的に選ばれたのは――LilyMage。


男の身体がブレた。盗賊(ローグ)系の基本突進スキルによる、コンマ数秒の急接近。閃光を放つ短剣が突き出される。SROの物理エンジンが衝突を計算した――青文字の安物布ローブの脆弱な物理装甲に、ギルドバフと課金強化で限界突破した凶悪なダメージ値が激突する。


LilyMageのHPバーは、減少のアニメーションを描くことすら許されなかった。刃が触れたその瞬間に消滅したのだ。


少女の身体が崩れ落ち、視界が死亡画面へとブラックアウトする。


そして次の瞬間、VanguardSmurf02の頭上に燦然と、毒々しい深紅の光が点灯した。


――PK執行。『赤ネーム』化。


現場は阿鼻叫喚のパニックに包まれた。


「に、逃げろぉぉッ!」


ナイトが悲鳴を上げ、無意味に構えた盾の陰で後ずさる。完全にパニックを起こしたプリーストは、少女が消滅した虚空へ向けて反射的に回復魔法の詠唱を開始し、死体に向かって無駄にマナを垂れ流した。もう一人の戦士はデスペナルティの恐怖で足が竦み、その場にガタガタと震えて直立不動の案山子と化している。広間の向こうにいた他の二組のパーティも武器を降ろし、戦慄の面持ちで虐殺を凝視しながら、誰一人として助太刀に入ろうとはしなかった。


ただ一人――DaikiCoolを除いて。


達也は一ミリたりとも動かなかった。味方の錯乱を完全に無視し、戦況を冷徹に因数分解する。『ソーラー・ヴァンガード』の威光を傘に着たこの男は、取り返しのつかない致命的エラーを犯した。自ら『赤ネーム』を被ったのだ。


VanguardSmurf02が、生き残ったメンバーへとゆっくり首を巡らせた。


「目障りだから消えろって言ったろ」嘲笑混じりの吐息。「……次はどいつだ?」


男の視線が、狼狽するプリーストを捉えた。PvPにおける定石通り、後方支援から確実に間引く構え。男は光る短剣を構え、次なる必殺スキルの予備動作に入った。モーションの硬直時間は、正確に一・二秒。


達也にとって、それは数分にも匹敵する広大な時間猶予だった。


男が前傾姿勢を取り、重心を前足へ移動させたその刹那――DaikiCoolが、無造作に一歩を踏み出した。


オークションで二束三文で買い叩いた、粗悪な鉄のクレイモアが下段から跳ね上がる。


華美なスキルエフェクトも、洗練された構えもない。ただ無骨に、下から上へと刃を振り上げるだけの、機械的な斬り上げ。狙いは男の腰帯の装甲の継ぎ目。


物理世界の常識なら、そんな錆びた鉄屑の一撃など、最高級の甲冑に弾かれて火花を散らすのが関の山だ。だがSROの物理エンジンは、常識ではなく「計算式」で動いていた。初心者のガワの下に眠るレベル999の素手ステータス。バランス崩壊などという言葉すら生ぬるい天文学的な運動エネルギーが、安物クレイモアのポリゴンへと凝縮され、解き放たれる。


鈍い金属音が響いた。


次の瞬間――VanguardSmurf02の黄金の巨躯は、寸分の狂いもなく上下二つの肉片へと両断され、赤ネームの光を失って石畳の上に転がっていた。


パーティの呼吸が止まった。広間の全プレイヤーが、思考を凍結させた。


死寂を破ったのは、皮肉にも遅れて響いた鈴の音のような詠唱完了のSEだった。錯乱したプリーストが無我夢中で唱え続けていた『リザレクション(蘇生)』――あまりの詠唱時間の長さゆえに実戦では使い物にならないはずの十秒間の大技が、奇跡的に最後まで通ってしまったのだ。


床に倒れていたLilyMageの身体が光の粒子に包まれ、少女が呆然とした様子で立ち上がった。


広間にいた全員の視線が、ただ一点へと収束する。


戦場の中央、ボロ布のような革鎧を纏い、血のついていないクレイモアをだらりとぶら下げて佇むDaikiCool。


「な……」


ナイトが掠れた声を絞り出した。言葉が続かない。眼前で起きた不条理を、脳が処理することを拒絶していた。


達也はゆっくりと、凍りついた味方たちへと視線を向けた。十分に間を取り、事態の異常性を彼らの骨髄に染み込ませた後、至極平然と肩をすくめてみせた。


「なんか、ムカついたから」


DaikiCoolは、ハエでも払い落としたかのような無造作な調子で言った。


まるで日常の些事を確認するかのような淡々とした響き。


だが達也は、この瞬間に生じた「政治的爆薬」の価値を誰よりも理解していた。サーバーの不可侵の支配者である『ソーラー・ヴァンガード』の構成員が、名もなき初心者の安物武器によって、公衆の面前で無残に解体されたのだ。ギルドの威信に対する、これ以上ない致命的な打撃。


一瞬の躊躇もなく、達也はフォトモードを起動した。完璧なアングルが必要だった。


構図を精密に整える。前景には、ボロ布を纏い、無表情に鉄のクレイモアを提げたDaikiCoolの姿。足元には、真っ二つに裂けたVanguardSmurf02の死骸のポリゴン。そして何より重要な――息絶えたPKerの頭上に浮かぶIDと、燦然と輝く『ソーラー・ヴァンガード』の太陽紋章。


カシャリ。


シャッターが切られた。サーバー世論を爆撃するための、最高の一枚が保存された。


「ちょっとトイレ行ってくる」


仲間たちにそう言い残し、達也は手早くSROのクライアントを最小化した。


ブラウザにフォーカスを合わせ、SRO最大手コミュニティ掲示板の捨てアカウントを即座に作成する。そのまま新規スレッドの作成画面へと移行した。


スレッドの体裁には、冷徹な演出が施された。知性の欠片も感じさせない、典型的な脳筋初心者の稚拙な文章を完璧にエミュレートする。高尚な正義の主張も、小難しい状況解説も一切不要。ただ剥き出しの事実を突きつけることこそが、選民思想に溺れたエリートたちの自尊心を最も深く抉るのだ。


スレッドタイトル:

『なんかPK仕掛けてきた雑魚がいたから返り討ちにしといたw』


本文:

『35層で狩りしてたら変なのが来てイキり散らかしてきたから、普通に殴り倒したw』


そして、添付された先ほどのスクリーンショット。


構図そのものが、極上の侮辱だった。前景に立つボロ雑巾のようなDaikiCoolの虚無の表情、足元に転がる黄金鎧の残骸、そして無慈悲に映り込む『ソーラー・ヴァンガード』のギルドエンブレム。


投稿ボタンを叩き、達也はゲーム画面へと復帰した。視界の隅でブラウザの更新を走らせる。


ネット世論の着火は、わずか一分と経たずに完了した。傲慢な課金者の失脚を常に渇望している掲示板の住民たちが、この極上の餌を見逃すはずがなかった。レスの通知が怒涛の勢いで押し寄せる。


『草、課金マンを返り討ちにしたってマジ? どうやったんだよw』

『そのクレイモア、ガチャ限の壊れ武器か何か?』


五分も経つ頃には、懐疑的な視線は爆発的な狂喜と他人の不幸を喜ぶ悪意の乱舞へと反転した。住人たちが、死骸の頭上に浮かぶ紋章の意味に気づいたのだ。


『待て、死んでる奴のギルド紋章……ソーラー・ヴァンガードじゃねえかwww』

『嘘だろwww 鯖一位ギルドのサブ垢が、30レベの初期装備の初心者にワンパンされたの!?』

『恥ずかしすぎて草も生えない。これからどんなツラして攻城戦で仕切るつもりだよ』

『ソーラー・ヴァンガード、公式に雑魚認定おめでとうございますwww』


十分が経過した時点で、スレッドは数百のブックマークと無数のレスで埋め尽くされた。画像は瞬く間に外部の、各ギルドの専用チャンネルへと転載されていく。富豪に対する大衆の嫉妬の炎を燃料にして、ネットミームの生成装置が猛烈に回転し始めた。


『ソーラー・ヴァンガード:初心者にも負けます』

『ソーラー・ヴァンガード:レベル30の初心者がいない場所なら最強』


局所的な返り討ちの事故は、瞬く間にサーバー最大勢力に対する致命的なレピュテーション・ハザード(名誉の失墜)へと膨れ上がっていった。


その間も、達也は何食わぬ顔でパーティ狩りを継続していた。DaikiCoolは相変わらずぎこちなく鉄の塊を振り回し、弱ったオークの首を刈り落としている。奇跡的な「豪運」の余韻で硬直していた仲間たちは、時折恐る恐る視線を向けながら、機械的にスキルを回していた。


「な、なあ……お前、さっきの本当にどうやったんだ……?」


ナイトが耐えかねたように、探るような声で訊ねてきた。


達也はわずかに気まずそうな沈黙を演じ、照れ隠しのように笑ってみせた。


「クリティカルが出ただけですよ。運が良かったんです。……他のPKが来る前に、早く狩りましょう」


相変わらず数学的にゼロパーセントの言い訳だったが、他に論理的な解を見出せない仲間たちは、その奇跡を無理やり呑み込むしかなかった。この「不器用な初心者」の皮の下に潜む怪物の存在に思い至るだけの観察眼など、彼らは持ち合わせていなかったのだ。緊張感を孕みながらも、狩りは再開された。


***


普段は厳粛な静寂に包まれている『Solar Vanguard』のギルド要塞は、蜂の巣をつついたような怒号に揺れていた。


莫大なリアルマネーを投じて買い上げられ、希少な調度品で飾られた大広間の豪華絢爛な内装は、外部のネット掲示板で巻き起こっている屈辱的な炎上劇と痛烈なコントラストを描いていた。


あの『VanguardSmurf02』の本体である、レベル118のメインアバターを駆る男が、規律も忘れて広間の壇上で喚き散らしていた。


「クソッタレが! どこぞの馬の骨にやられたんだよ!!」男は唾を飛ばした。「今すぐメインで乗り込んで、あのフロアの連中を皆殺しにしてやる!!」


だが、選民たちの反応は冷酷極まりなかった。このギルドにおいて、無様な敗北は軽蔑に値する罪だった。


「お前がレベル30の初心者の安物クレイモアに両断された事実は変わらない」パーティリーダーの一人が冷ややかに切り捨てる。「リベンジだぁ? ログアウトして恥を知れ。お前のせいで、ウチは全サーバーの笑い者だぞ」


円卓の上座、全身を純金の課金アーマーで固めた片手剣士――公式ランキング一位に君臨する絶対王者、レベル201の『Zephyrion(ゼフィリオン)』は、VRブラウザに映し出されたスレッドを無言で見つめていた。


男がゲーム画面へと視界を戻した時、その双眸には底知れぬ怒りの炎が宿っていた。


数百万円の私財と数千時間をゲームに注ぎ込んできた男にとって、「ギルドの威信」こそが最大の資産だった。『ソーラー・ヴァンガード』の覇権は、大衆が抱く恐怖と畏怖の上に成り立っている。市場を牛耳り、攻城戦を支配し、中堅ギルドの生殺与奪を握る特権階級。その盤石の権威が今、名もなき初心者の投下した一枚のスクリーンショットによって、泥水の中へと叩き落とされたのだ。


ゼフィリオンはネット世論の力学を熟知していた。これはギルドの喉元に突きつけられた致命的な刃だ。ここで沈黙を守り、事故として処理しようとすれば、屈辱は永遠に既成事実化する。無課金のゴミどもは恐怖を忘れ、ライバルの上位ギルドは弱みにつけ込んでくるだろう。「不可侵の覇者」としての神話は崩壊する。


必要なのは、圧倒的な力の誇示。


過剰で、残虐で、見せしめのための徹底的な懲罰作戦。


「……ダンジョンへ行くぞ」


ゼフィリオンの冷徹な一言が、大広間の喧騒を瞬時に圧殺した。


「主力部隊を全軍招集しろ。あの分不相応な雑魚に、誰に喧嘩を売ったのかをその骨の髄まで教えてやる」


王の命令に議論の余地はなかった。


わずか三分で、ギルドの中核を担う最精鋭十七名がホールに集結した。レベル125から167。幾多の大規模抗争を潜り抜けてきた、完璧なロールバランスを誇る戦闘集団。


総額で地方都市の年間予算すら超える装備を纏った十八名のアバターが、一斉に課金テレポートスクロールを破砕する。


閃光。


グリムウッド・ダンジョン35層の入口が、連続する青い光の爆発によって引き裂かれた。


灰色の薄暗い通路を見渡し、ゼフィリオンは不快そうに眉をひそめた。レベル40にも満たない初心者たちのための泥沼のような狩場。この薄汚い空間に足を踏み入れること自体が男の美学に対する侮辱だったが、落とし前をつけるためには必要な儀式だった。


「視界に入る全員を殺せ。一人残らずPKだ」


ゼフィリオンが吐き捨てるように命じ、自らの片手剣にチャンピオン固有の火炎オーラを付与した。


十八名のアバターの頭上で、ネームプレートが一斉に禍々しい『黄ネーム(交戦可能状態)』へと反転する。


「この世界の主が誰なのか、刻み込んでやる」


重量級の甲冑が奏でる重厚な足音が、ダンジョンの天井へと響き渡る。


粛清劇は、一切の警告なしに幕を開けた。『ソーラー・ヴァンガード』に、誰がスクショの現場に居合わせたかを選別する気など毛頭なかった。このフロアに息づくすべてのプレイヤーが、連中にとっては己の権威を冒涜した連帯責任の対象だった。


最初の犠牲者は、交差点でオークを狩っていた無関係の初心者パーティだった。何が起きたのかを認識する猶予すら与えられなかった。部隊の上位魔導士が、宝石の散りばめられた杖を無造作に一閃させる。放たれた『連鎖雷撃(チェインライトニング)』が青白い軌跡を描いて炸裂し、四人の低レベルプレイヤーのHPバーを一瞬で消し飛ばした。崩れ落ちるポリゴンの残骸。


部隊は、暴走するブルドーザーのように前進した。


レベル150と147の二枚看板のパラディンが突撃し、退路を求めて岩陰に縮こまっていた無課金パーティをシールドバッシュ一撃で肉片へと粉砕する。


無差別虐殺。ヒーラー、戦士、盗賊――頭上に貫かれた太陽の紋章を持たないあらゆる生命体が、例外なく解体された。


アーチャーが嘲笑しながら炸裂誘導矢を雨あられと撃ち込み、逃げ惑うプレイヤーの背中を爆砕していく。陣形の中央を進むゼフィリオン自身も、僅かでも抵抗の意志を示した者を自らの炎熱剣で斬り伏せた。バターを熱したナイフで切るが如き蹂躙。


フロアチャットは、悲鳴、命乞い、そして理不尽な暴力への混乱で埋め尽くされた。


サーバーの支配者たちによる、冷徹な「害虫駆除」。過剰で、理不尽な暴力を叩きつけることによってのみ、失墜した階級秩序を再構築できると信じ込んでいた。


三つ目の大広間を更地に変えたところで、部隊の足が止まった。


先頭を進んでいたアサシンの斥候がマップ座標を確認し、鋼鉄の籠手を掲げて合図を送る。


「ボス」


斥候が振り返り、ゼフィリオンへと告げた。


「例のスクショの湧き場に着きました。……次の角の先です」

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