暴走する【地獄の信者】と、悪徳メガ企業の影
「ふはははは! 崇めよ! 恐れよ! そして我が下僕となりて美味いお菓子を献上するのだー!」
配信終了から一夜明けた、五十層の隠し部屋。
エンマは豪勢なソファーに深々と腰掛け、調子に乗って高笑いを上げていた。
「おいエンマ、ジュースのストローを鼻に刺したまま威張るな。格が落ちるぞ」
「むぐ……!? ぬう、プロデューサーの分せいに小言を言うな!」
ジュースをズルズル啜りながら、エンマが悔しそうに頬を膨らませる。
だが、俺たちの手元の端末に表示されている数値は、もはや「過疎配信」などと呼べるレベルではなかった。
チャンネル登録者数:10人 ➔ 85万人
昨日の最大同時接続数:42万人(世界新記録)
総スパチャ獲得額:約2,800万円
「アポロンの崩壊劇が海外のニュース記事にまで取り上げられてるぞ。『Japan's Hell Streamer(日本の地獄配信者)』だってさ」
「へーあ(へえ)! 海外の高級チョコレートとやらは美味いのかのう!?」
「食い物の心配ばっかりだな、お前は……」
俺が呆れていると、配信画面のコメント欄(常時解放されている雑談チャット)が妙な盛り上がりを見せ始めていた。
『信者A:閻魔大王様万歳! 悪党どもに裁きを!』
『信者B:次の標的はどこですか? 投げ銭の準備はできています!』
『信者C:大王様を侮辱する奴らは全員地獄の業火で燃やせ!』
「……雲行きが怪しいな」
アポロンを完膚なきまでに叩きのめしたことで、視聴者の熱狂が「スカッとする娯楽」から**「過激な自警団化」**へと暴走し始めていた。
「エンマ、次の配信方針を少し変えるぞ。ただの『悪党狩り』を続けると、アンチや宗教団体の標的にされる。エンタメとして昇華させる企画が必要だ」
「む? 余はただお供え(スパチャ)をもらって美味いものを食べ、たまに悪党を燃やせば満足なのじゃが……」
その時。
隠し部屋の空間が歪み、ホログラム映像が部屋の中央に投影された。
『――はじめまして、地獄の王、ならびにプロデューサーの青年』
現れたのは、高級スーツを着た鋭い眼光の男。
背景には世界最大級の探索者支援企業、**『オリオン・コーポレーション』**のロゴが飾られていた。
『私はオリオン・コーポレーション広報部代表のサクラバだ。アポロンの件、実に見事な手腕だった』
「サクラバ……。大手企業が、こんなダンジョン最深部に直通の通信を入れてくるとはな。何の用だ?」
『単刀直入に言おう。我が社と【専属スポンサー契約】を結ばないか?』
サクラバはニヤリと笑い、ホログラム上に提示された契約書を提示した。
『年間契約金は100億円。さらに世界中の最高級スイーツや最新ゲームを無制限に支給する。その代わり――君たちの『閻魔帳』の権能を、我が社の競合他社潰しのために使ってもらいたい』
「100億……!? 最高級スイーツ無制限……!?」
エンマの目が一瞬で『¥』マークになり、よだれを垂らしながら身を乗り出した。
「契約する! 今すぐ契約するのじゃあー!」
「待てエンマ、飛びつくな!」
俺はサクラバの提示した契約書の『細部』に目を走らせた。
(……チッ、やっぱりな。『契約期間中、配信の演出および裁く対象の決定権はすべてオリオン社に帰属する』『違反した場合は地獄の権能の所有権を譲渡すること』……完全に俺たちを【都合の良い処刑道具】にするつもりだ)
「断る。俺たちの配信は誰かの道具じゃない。エンマの自由な小遣い稼ぎだ」
『なに……? 100億円の提示を蹴るというのか? たかが売れない探索者上がりが、調子に乗るなよ』
サクラバの顔から笑みが消え、冷酷な眼光が俺を射抜く。
『いいだろう。我が社の傘下に入らないというのなら、君たちの配信アカウントを全世界のプラットフォームから『BAN(凍結)』させてもらう。……メガ企業の力、舐めないことだ』
ブツン、と通信が切れた。
「な、なんじゃアイツは! 100億とスイーツをチラつかせておいて……! 無礼者め!」
「落ち着けエンマ。……向こうは『企業の力(BAN)』で潰しにくる気だ。だが、相手が大きければ大きいほど――」
俺は画面に向かって、不敵な笑みを浮かべた。
「――燃やした時の『バズ』はデカい」
「ぬ……? レン、また何か悪巧みを考えておるな?」
「ああ。次の企画が決まったぞ、エンマ。『メガ企業の裏金を100億倍返しで暴く、地獄の企業買収配信』だ!」
こうして、ただの悪党退治から、世界規模の巨大企業との【配信戦争】へと事態は加速していくのだった。




