第7話
司と一緒に豪華な屋敷の庭園を抜け、敷地の外に通ずる門を守る門番の二人組に軽く挨拶しつつそのまま敷地の外に出る。
もちろん特に何も言われない。始めはどういう理由でとか聞かれたりしたものだが、今では挨拶するだけで殆ど顔パスみたいな感じだ。
舗装された道を司と並んで歩き、くだらない世間話をしながら街の方に向かう。
「今日はどこで飯食う?」
「いつもの店で良いんじゃね? 肉食いてえわ」
「たしかに」
俺たちはいつものように行きつけの店に向かう。勘違いしないでほしいが、俺たち『サボり組』もきちんと三食付いてくる。だけどそれにありつくには食堂に屋敷の食堂に顔を出さなければならない。
俺たちは一部の人間から毛嫌いされてると言うか腫物扱いされている。同じ転移者だったり、使用人だったり兵士だったり。まあ、全員が全員では無いと俺たちも分かってはいるが、煩わしい事に変わりは無い。
ま、何が言いたいのかというと、大人の俺たちが気を使ってやってる。ってことだ。うん。
日が結構昇り始め、道行く人が増え始める。しかし俺たちを二人を物珍しい感じで見てきたり、ましてや転移者だって分かってる奴は一人も居ない。
俺たちはちゃんと用意してもらったこの世界の平均的、普通の格好で街に出ている。流石にこの世界に来て制服で出歩くほどの勇気は俺には無い。今ではすっかりこの格好が馴染んで学校指定のワイシャツが逆に違和感を感じるほどだ。
さらに俺たちが転移者だって気づかれない理由はそれだけじゃない。
司と話していると目の前から筋骨隆々で肉食獣の頭部をもつ、所謂『獣人』と呼ばれる種族が俺たちに向かって歩いてくる。
すかさず俺たちは脇によりそいつに道を譲る。
そいつが横を通り過ぎると俺たち二人がまるまる影に覆われてしまう。
「デッッッか……」
「ヤベェな。てか司、お前は何と比べても相手がデカくなるだろ」
「うっせ!」
そうこの街、この国には人間以外の種族も数多く暮らしている。俺たち『人間』はもちろん、さっき通り過ぎた獣の特徴を持つ『獣人』。人間の近縁種である『亜人』。
俺たちのような黒髪や(司は金髪だが)平たい顔でも特に怪しまれたりしない。自分で転移者と公言したりしなければ、よほどの事が無い限り俺たちが転移者だってバレたりする事はまず無い。
以上の理由で俺たちは何の気兼ねなしに外を出歩けるってわけだ。屋敷なんかよりも全然快適だ。
暫く歩くと水の流れる音が聞こえる。建物の密集地を抜けると用水路にぶつかる。そのまま用水路沿いにしばらく歩き、橋を渡って大通りを進むと見えるこの世界なら何処にでもありそうな酒場が見えてくる。
看板に黄色の明るい塗料で多分……鹿?か何かのシルエットが描かれてるのが特徴で、俺たちの行きつけだ。
「ここまで来るとさらに腹が減るんだよなぁ」
「分かるわ~」
言っちゃ悪いが、日本で十何年も暮らした俺たちを納得させる料理はハッキリ言ってそんなに無い。初日に振る舞われた料理くらいなものだ。屋敷のタダで食わしてくれる飯もまあ悪くないが、ここのシチューは絶品だ。支給される小遣いを犠牲にしてでも食いに来る価値がある。
この時間いつも空いている俺たちの定位置の席について早速料理を注文する。適当に話して時間を潰しているとすぐに料理が運ばれる。
「いただきやす」
小声でそれだけ言って早速シチューに手を付ける。
「うっま」
一言それだけ口から零した後、黙々と俺たちは料理を食べた。
・・・
「あ~旨かった~」
「だな~」
「今頃あいつら訓練中か~、ざまぁ」
店を出た後、俺たちはすぐに屋敷に戻らず近くの公園の芝生に腰を下ろし空を眺めてのんびりしている。
今頃『戦闘組』は厳しい訓練の真っ最中。そう思うと奴らが俺たちの事を『サボり組』と揶揄するのも仕方ない事だと思ってしまう。
まあ、それは自分たちで選んだ道なのだから俺たちに一々文句言ってくんじゃねぇって感じだが。
するとその一言で何かを思い出したのか司が喋りはじめる。
「そういえばさ、あいつら近い内にダンジョン行くらしいよ」
「マジ?」
「マジマジ」
「マジかー」
スキルによる貢献。戦闘組はもちろん、その字の如く戦いで貢献しなければならない。
しかし、スキルも真面に使えない内に、いきなり戦場やダンジョンなどの危険な場所に放り込んでは犠牲が出るだけで意味が無い。そして何より……
レベルが足りない。
詳しい事は知らないが、要は敵を倒せば強くなる。別にゲームの話をしている訳では無い。これはこの世界における立派な自然現象、言うなれば常識、日常的に起きるものだ。
「大変そうだなー」
「だよなー。てかこの後どうする?」
特に仲の良い奴が危険な場所に行く訳でも無いのでそれぐらいの感想しか出ないし、司も似たようなものだ。
結局この後やる事は決まらず、しばらく二人で公園でボーっと空を眺めていた。
・・・
「サトウ……お前の頑張りは私も認める事だが……」
日もすでに高く上り一日の半分が過ぎ始め腹も減り始めるころ、午前の勇者たちの訓練を終えたマリアさんに僕は直談判していた。
「お願いします! 僕も……ダンジョンに連れて行って下さい!!」




