第6話
「ハァー」
俺は自分に割り当てられた部屋のベッドで横になり天井を見上げため息を吐く。何のやる気も起きない、何もする気が無い。
この二週間俺は……まあ少しは何かしようとしたけど結果は、聞かないでくれ。てか今の俺を見れば言わずもがなってところか。
誰も成し得ない、自分だけが特別。そんな幻想をこの世界に来たときは胸一杯に抱いて舞い上がっていたが、それもすぐに打ち砕かれた。
誰もが能力を開花させ、皆がそれを行使する。すると、何も特別では無く結局はただの平均でしかない。確かにこの世界の基準で言えば優れていて頭一つ抜けてるかもしれない。だけどそれも精々お山の大将を気取るだけが関の山。
唯一無二には程遠い。
努力……は、したつもりだ。授かったスキルを活用しようと試行錯誤もしたし、誰も思いつかないような運用が出来ないか試したが、どれも上手くは行かなかった。
物語に出てくる主人公になれると思っていた。割と本気で。
ま、結局何が言いたいのかというと、俺はただのモブ。それだけだ。周りと同じ何の特徴も無い……クソッ。
こんな朝の早い時間から訓練場でがむしゃらに案山子を叩く佐藤を見ていると自分の心のモヤモヤがさらに曇り心を覆いつくす。
心が曇り影を増すごとに俺は顔を歪ませる。自分を卑下するようにその光景を眺めていると、急にドアが開かれる。
俺はいつものように小言を漏らす。
「ノックぐらいしろよ、てか来んの早えよ何時だよ今?」
「うっせえな、いいじゃん暇なんだから」
こいつの名前は『司薫』。元の世界では特にこれと言った絡みは無く、何なら名前すら知らない間柄だった。
と言うのも、こいつは俺と違って容姿が優れていて運動もそれなり、勉強も上の方、で以て俺が言うのもなんだが可愛らしい見た目から女子からの人気もあり、所謂陽キャグループの中心で学内ヒエラルキートップの人間だ。
こいつに俺が唯一勝ってるとこを上げるなら身長くらいなもんで、それ以外はぼろ負けだ。
司は遠慮なく部屋に入り俺のベッドに腰掛ける。
「また覗いてんの? 飽きねえな」
「うっせ」
「だったらリュウジも頑張ればいいじゃん。少しは」
「いいんだよ俺はもう……それに主人公って柄じゃないし、俺」
それを聞いて司は少し黙った後、揶揄うように笑いながら俺の言葉を肯定した。見ての通りこいつとは随分仲良くやっている。前の俺が見たら、さぞ驚く光景だ。
言うまでも無いが司とは異世界に来てからつるむようになった。切っ掛けはこいつが俺と同じ『非戦組』になったからだ。
俺たちはこの世界に来ると同時に様々なスキルを授かる。その効果は多種多様、ていうか多岐にわたり過ぎる。戦闘に活かせるスキルや補助系のスキル、回復や探知、妨害に加え、建築、農業、数学、言語etc……
数え出したらキリが無い。
そこでスキルの系統を戦闘系かそれ以外かに大きく分ける。それが『戦闘組』と『非戦組』だ。
今はそこからさらに細かくグループを分けそれぞれに教官となる人物を割り当て指導してもらいスキルを使って何かしら貢献する、という形になっている。
非戦組はそこまで問題は無い。水を出すスキルを授かった奴は優雅な生活の傍らちょっと水を出すだけで貢献出来て特に苦労してる様子は無かった。
だけど戦闘組は違う。貢献するには戦い、言うなれば殺し合いをしなければ貢献は出来ない。ここも異世界だ。陰キャどもの想像通りこの世界には『魔物』や『魔獣』と呼ばれる危険な存在がいる。
戦闘組はそんな奴らと無理やり戦えと言われ、そのために厳しい訓練も行っている。
だが、俺たちは言ってしまえば被害者だ。無理やり連れて来られたうえ、さらに「この世界のために戦え」と言われてもはいそうですかと素直に言わない連中もいる。
それが俺や司みたいな、戦闘系のスキルを授かっているが戦わない連中だ。
フィクションだとそういう輩は国の連中から冷遇されたり、密かに処理されたりされる傾向があるが、意外にもそうはならず、何なら協力する奴しない奴関係なく面倒を見てくれている。
一応俺らもグループ的には非戦組だが、貢献できる事は何も無いから、住んでる屋敷も正規のグループの連中より狭いし、使用人も一人一人には割り当てられてない。
ま、屋敷の掃除なんかの家事はしてくれるし、三食付くし、小遣い貰えて出入り自由で街中なんかは自由に歩けるしで、何ら困る事なんて無い。寧ろ快適過ぎて怖いくらいだ。
正に至れり尽くせり。何だが……
他の貢献してる奴らからは『さぼり組』、何なら『ニート組』と呼ばれたりしている。そいつらがそういう風に俺らを呼ぶのも分からんでもないが、うっせえって感じだ。
そんなこんなで元々やる気の無かった、いややる気を無くした俺はもとより、司は今ではヒエラルキーの下位に転落してきて、そこで俺とつるむようになったってわけだ。
意外に気が合うし、話の話題も合うしで中々相性がいい。この世界に来て良かったと思える点の一つだ。
「そろそろ飯行こうぜ、腹減ったわ」
ダラダラ話していると司がベッドから飛び降りて俺を誘う。仕方ないという感じで体を起こして欠伸をしながら俺も後に続く。
「ふあぁあ……ふー、よし。行くか」
こうして、俺『緒方龍二』の一日が始まる。




