第40話
結局こうなる運命だったのかも。
まあ、もしそうだったとしても悔いは.…無い。筈だ。
そうやって自分を言い聞かせながら、ただジッと顔を埋めて座り込む。
だけどそうしてるだけじゃ、どんどん別の事が頭に浮かんでくる。
何も残せず、成し遂げられず、誰にも看取られることなく何処とも知れぬ場所で朽ちていく。そんな不安が徐々に現実味を帯び始め、その足音をただただじっと聞いてるしかない。
体がずっと震えている。おそらくこの震えが収まる事はもう二度と無いだろう。
自分の浅い息遣いと心臓の鼓動しか聞こえない。ただ逆に言えばそれ以外がもし聞こえたとしたら、僕は酷く動揺するだろう。
この黒い世界に来て一体どれくらいの時間が過ぎたのか全く見当もつかない。
時間が過ぎる感覚が無い。
全くと言っていいほど周囲の様子に変化は無い、と言うか分からない。
自分の体は問題なく見えるが、地面は少し先しか見え無い、座ってる感触や肌触りから多分きめ細かい砂だと思う。おそらく砂漠のような場所に居るのだろうが、自分と足元から少しし見えずそれ以外の空間は果てし無く黒く確認出来ない。
光という概念を感じさせない空間で逆に自分の周囲はちゃんと見える事に疑問を抱くが、それを考察する余裕は無い。
怖い。
これから自分がどうなるのか、それを考えないようにしても勝手に頭が想像してしまう。
だから僕は必死に憧れの人の顔を思い出す。
・・・
遠征期間の中日が終わり僕たちは再びダンジョンに訪れていた。
秋山が言っていたように、A班はダンジョンの二層を目指して進んで行くため、僕たちとはダンジョン内に建てられた簡易拠点で別れる事になった。
突然A班が現れると行ったイレギュラーはあったもののこれまで通りペアでダンジョン内を探索する事に変わりは無い。
無いはずなんだけど……
「……」
「……」
昨日までは楽しく話もしていた筈なのに今では、というか今日が始まってから全く会話という会話が全く無い。
火神さんはこの状況でもなんて事ないって感じたけど、僕は正直耐えれそうに無い。
もう既に二、三体魔獣と戦って、見ての通りケガ一つ負わずに済んでるけど、いつこれが問題になるか分からない。
僕は一度深呼吸をしてから火神さんに話しかける。
「えっと…火神さん、あんまり気にしなくていいんじゃないかな。昨日の事はさ」
「別に。アレはそんな気にして無いから」
「そ、そっか」
じゃあ何でそんな不機嫌なのか、僕は怖くて聞けなかった。わざわざ見えている地雷に自分から踏み込んで行くほど僕も馬鹿じゃない。
だけど結局何も変わらないまま平原を無言で歩くことになってしまった。
自分なりに火神さんの不機嫌な理由を少し考えるけど思いつくのは、昨日の秋山とのやり取りだけで特に思いつかない。
どうしたものか。
僕らもレベルが上がって来たと言ってもここはダンジョン。辺りを警戒しなくちゃいけないのに、どうしても今の状況が気になり過ぎて集中できない。しばらく無言で歩いているけど、ここはやっぱり無理をしてでも火神さんの機嫌をどうにかした方が良いかもしれない。
と、そう思い始めて来た時、意外にも火神さんから口を開いた。
「……あのさ」
「え!? は、はい! 何……ですか? 火神さん」
「……前も聞いたけどさ、佐藤が何でそんなに頑張るのかってやつ」
「ああ、それがどうか……」
「それってさ……」
その瞬間ダンジョンが酷く揺れた。
「きゃ!」
「危ない!」
倒れそうになった火神さんの手を掴んでから僕の方に引き寄せ態勢を低くする。幸い周囲に倒れてきそうな物は無いので揺れが収まるまでしばらくこのまま待機する。
「地震?」
「……佐藤、もう大丈夫だから」
「あ! ごめん」
周囲の状況を確認するのに必死で火神さんを支えたままだった。咄嗟に手を放し立ち上がって改めて周りを見回す。
特に変わった様子は今のところ無い。
先ほどまだと同じ、のどかな平原が広がっている。僕が知らないだけでダンジョンではそう珍しい現象でもないのかと思ったが、一応念には念をで拠点まで戻ることにする。
少し足早に僕と火神さんは平原を移動する。さっきまでのぎこちない雰囲気はすっかり消えて、逆にどこか気味の悪い不安が立ち込めていた。
目の前に小高い丘が見える。あれを越えればマリアさんが待機する簡易拠点が見える。そこまで行けばひとまず安心だろうと思い、さらに足を早めて丘を駆け上がる。
そして頂上付近に近づいた時。
再び地面が揺れた。先ほどよりも大きく。
立っていられないほどの揺れが地面と自身の不安を掻き乱す。唸るような低い音が辺りに響き、身体中から冷や汗が噴き出る。
しばらくしてようやく揺れが収まり始めたが、足が震えて立つことが出来ない。心臓もバクバクとなり続け息も荒い。
「一体……何が起きて……」
深く息を吸って自分を落ち着かせてから顔上げると、平原の奥に見慣れない黒いモノが広がっていた。
「何だよアレは……」
黒い何かは徐々に広がり平原を全て呑み込む勢いで広がっている。
それを目にした瞬間、本能が警鐘をガンガンと鳴らす。
ここに居るとマズイ!!
足の震えはいつの間にか収まり、寧ろ僕が走ろうとする前に既に走り出していた気がする。
広がる速度はそこまで速くない。レベルも上がり魔力で強化した身体能力なら逃げ切れるはず。その考えが正しいか確かめるため、一度振り返り黒い何かを見る。
そして……僕は足を止めてしまう。
「?……おい! 何やってんだ佐藤!」
火神さんが必死に僕を呼んでいる。だけどそれに一々反応してる暇は無い。
僕の視線の先、黒い何かに追いつかれないよう必死に走る見覚えのある人物たちが映る。
そしてその中に足を引き摺りながら懸命に走る姿が。
「……小春」
その瞬間、僕は黒い何かに向かって走り出していた。
「佐藤! 行くな!!」
火神さんの言葉はもう既に僕の耳には聞こえていなかった。




