第39話
「うん? なんか人が集まってるけど何かあったのか?」
火神さんと街へ出かけた帰り、丁度屋敷が見え始めたくらいでその広場に人だかりが出来ているのが遠目にも分かった。
「急いで行ってみよっか?」
「そうだな」
走って屋敷に向かうと僕らがこの街に来た時に乗っていた馬車と同じものが停まっていて、どうやら屋敷に集まっていたのは僕らと同じ転移者みたいだ。
そしてその中には特に見覚えのある顔ぶれが揃っていた。
「チッ、A班の奴らじゃんか。何しに来たんだよ」
火神さんが軽く悪態を吐きながらそう呟く。詳しい事は分からないが、火神さんの態度を見るにどうやら彼女とA班の間には何か確執があるみたいだ。
「『何しに来た』って随分な言い方だね、恋」
「秋山……」
大袈裟に呆れながら火神さんに笑顔で話しかけてきたのは、城の図書館で真田を諌めつつ、僕と真田の試合をセッティングした戦闘組A班のまとめ役の秋山くんだ。
「フンッ」
火神さんに話しかけながら、一瞬だけ僕の方をチラリと見てきた。
彼の態度から察するに、僕に対しあまりいい感情は持っていない事が伺えてしまう。
僕自身、何の心当たりも無いんだけど。
「僕たちA班も勿論、レベルを上げに来たんだよ」
僕たちB班は今回が初めてのダンジョン遠征だけど、A班はこれで二回目。
班ごとに割り当てられる教官が違う為、今回が初遠征の僕たちB班やまだ遠征を実施していない他の班と違ってA班はかなり実戦的な育成方針らしい。
ただ……
「ああだけど、安心して欲しい。獲物の取り合いにならないよ、決してね。僕たちA班は君たちと違ってダンジョンの二層でレベル上げをするからね」
他の班と比べて多くの実戦を積んでいるA班は経験、レベル共に頭一つ抜き出ている。
それは確かに凄い事だけど、なんて言うか……秋山くんはそういった要素を鼻にかけて接してくる。
僕は最近戦闘組に参加したから秋山くんとまともに接するのは今回が初めてだけど、火神さんのウンザリする様子から、既に何度も遭っているらしい。
「あっそ。それじゃ。行こう、佐藤」
「あ、うん」
火神さんの清々しい程の愛想の無い態度に、何故か僕がヒヤヒヤしながら後に続こうとする。
しかし、やはりと言うかそんな火神さんの態度に秋山くんが黙ってる筈も無く。
「ハァ…いつまでもそんな事では困るなぁ」
「あぁ!?」
思わず火神さんが振り返る。
「その態度も含めて、ね。僕らが何のために呼ばれたか覚えてないのかい? この世界を救うために! 呼ばれたんだ。なのに恋……キミと来たら。いつまでこんな文字通りレベルの低い事をやっていれば気が済むんだ? もういい加減反抗期は終わりにして戻って来ないか?」
小バカにするような秋山……の言い方に僕も流石にどうかと思った時、当の本人は既に一触即発だった。
「あんたねぇ……」
「ちょ、ちょっと! 火神さん落ち着いて」
今にも飛び出しそうな火神さんを慌てて止める。
我を忘れる寸前だった火神さんが僕の声を聞いて目が合うと湧き上がる感情を嚙み殺し、深呼吸をしてから僕に一言「ありがとね佐藤」と言って振り上げそうだった拳を戻した。
言い方が流石に馬鹿にし過ぎだと非難の目を秋山に向けると、ふと彼と目が合い僕はたじろいでしまう。
その表情が明らかにドス黒い怒りを含んだ物だったからだ。
なぜ彼がこれほどの憎悪を僕に向けるのか心当たりを探すが本当に思いつかない。
しかし、留飲を下げた火神さんが顔を上げると先程僕が見た表情が嘘かのように秋山は落ち着いた雰囲気に戻っていた。
しかしだからと言って、これまでの過程が無くなるはずも無く、互いに無言の圧を放ち続けている。
するとそこに僕らが良く知る人物が現れる。
「佐藤君!」
「小春、どうしたのこんな所で……」
トコトコとこちらに駆け寄って来たのは幼馴染の小春だった。こんな所も何も小春はA班に属しているから考える間でも無く当然なのだが。……それとアイツも。
「どうしたも何も、佐藤くんが見えたから。あれ? 秋山君とそれにレンちゃんもここに? もしかして私、邪魔だった?」
「いやそんな事は……それより聞いたよ、ダンジョンの二層に行くんだってね。凄いな、小春は」
「それこそそんな事は無いよ、私が凄いわけじゃ無いし」
久々の会話なのに、今だにぎこちなく話すことしか出来ず、特に会話も思いつかないのでどうしたものか困惑していると、少し不機嫌そうな秋山が口を開く。
「小春、そろそろ集まらないと。こんなところで油を売ってる暇は僕らには無いからね」
「あ……うん、そうだね。じゃあそろそろ行くね、佐藤君も頑張ってね」
「小春も、頑張って」
さっきまでの事は小春のお陰で完全に有耶無耶になりこの場はお開きになった。
「じゃあそろそろ僕たちも戻ろっか」
気を取り直して火神さんに話しかけると、彼女がジッと僕を睨みつける。
「え? どっ、どうかした?」
「別に……じゃああたしも部屋に戻るから、今日はこれで。本、ありがとね」
「あ、いや、えっと……どういたしまして……また明日、火神さん」
「ん」
火神さんは後姿のまま手を振ってスタスタと歩き去ってしまった。何て言うか少し……ムッとしてたような……




