第4話
俺はこの瞬間を待ちわびていた。
転移してきた俺たちのために用意された歓迎パーティー。一生縁が無いような豪華な会場に優雅な音楽、気の利く使用人に勝手に運ばれてくる絶品の料理。一体元の世界でこれと同じことをしようと思ったらいくらかかるか俺には見当がつかない。
だがそんな豪華な立食パーティーもこれから起きることに比べれば前座にすらならない。
皆がパーティーを満喫した頃合いを見て、姫様が恭しく俺たちの前に現れ透き通る声で話始める。
と言っても最初の方は俺にとってはどうでもいい内容だ。魔王だとか勇者だとか、どうやって俺たちを呼んだのだとか逆に帰れるのかとか。
俺は元の世界だったら多分、いや絶対に普通とか平凡とか、何ならそれよりを一段下の人生を送るはずだったと思う。少々卑屈に見過ぎと思うかもしれないが大抵の人間は変わり映えの無い人生を送って行くだけだ。
だけど今自分の身に起きてる一生に一度どころでは無い出来事にそれらの凡庸な考えは全てが吹き飛んだ。
俺は……今物凄く分不相応な事を考えてる自覚がある。笑われるかもしれない。馬鹿にされるかもしれない。何言ってんだコイツって思うかもしれない。
俺は……
主人公になれる。
この世界で!
・・・
小春と一緒に足を踏み入れた先で僕らは二人揃って口を開け立ち尽くしていた。
「凄い……」
「そうだね……」
絢爛な会場に足を踏み入れ自分が果たしてこんな場所に居ていいのか思わず疑問になってしまうほどだ。すると小春が急に笑みを浮かべて喋りはじめる。
「ハハハッ、さっきから『凄い』しか言ってないね」
「ア、ハハ、そういえばそうだね」
神殿で話しかけられた時は不安で押し潰れそうで今にも泣きだしてしまいそうだったが、神殿を出てから怒涛の光景に不安は押し流され今ではすっかり落ち着きを取り戻して普段の小春に戻っていた。
その小春を見て僕も多少気持ちを落ち着かせて二人で話しながら会場内を歩き始めた。
会場は豪華……は言うまでもなくテーブルの上には豪華な食事が並び会場の脇には大量の使用人たちが控えている。
これだけの人数が居るんだ、中には場の空気に興奮して飲み物を思わず零してしまう生徒もいるが控えている使用人が素早くそれを片付けていき、雑用ですら洗練されたその動きに感心というか、凄いという感想しか出てこない。
そんな様子を見ていると手ぶらな僕たちを見てお皿と食器を使用人が手渡してくる。お礼を言うとまたしても、当然ですと言わんばかりの態度で接してくれた。
「ここの人たちってすっごく親切だね」
「うん、さっきの兵士さんも同じような感じだったしね。まあ元々粗相をするような立場の人たちじゃないんだろうけど、やっぱり僕たちが『異界の勇者』っていうやつだからかな?」
「そういえば、あの綺麗なお姫様もそう言ってたね。何なんだろう?」
「……多分、こことは違う世界からやって来た人をそう言うだと思う。で、そういう人たちは何かしらの能力を持ってるから、『異界の勇者』って呼ばれるんじゃないかな」
そこまで言って、僕がオタク全開で得意げに語ったことに気づき慌てて弁明する。
「あ、いや、その……ごめん! 何か急に変なこと言って。ハハハ、大体合ってるかどうか分からないのに……と、とにかくごめん、今のは忘れて。ていうか、この料理! すごく美味しそうだよ」
そう言ってそこら辺の料理に手を付け話題を急いで変える。小春との楽しい時間を自分の失態で終わらせてしまうのだけはどうしても避けたかったからだ。
「ねえ、どうして……そんなに謝るの?」
「え?」
小春の問いかけに僕は言葉が詰まった。どうして謝ったりしたのか、自分の言ったことが的外れの可能性があったから? それを得意げに話す自分が客観的に見てキモかったから? 相槌だけならまだしも、普段だったら絶対に手の届かない人と気軽に話しているから…… 僕がそもそも小春に釣り合ってないから……
「えっと、その……ごめん」
自分でも何に謝ってるのか分からない。ただその場をなんとか繕うとして、結局何も思いつかなくてただコピー機のように同じ言葉を吐き出すだけだった。
「こっちこそごめんね。気を悪くさせちゃったみたいで……もう行くね」
そう言って小春は少しだけ悲しそうな表情を浮かべその場を後にした。歩き出す彼女に声を掛けることなくその背中を眺めるしか出来なかった。
その時、会場の正面にある大扉が開きお姫様が騎士を連れてやってくる。
「皆様。この催しは楽しんでいただけましたか? 改めまして私の名は『アリシア』。この国、レオデルシア王国の第一王女にしてあなた方をこの世界に呼び寄せた者です」
呼び寄せる。みんな黙って聞いてるけどその胸の内で考えることは大体想像できる。
「あ、あの!」
アリシアの近くにたまたま居たおさげの女子生徒が手を上げる。
「はい」
「あの、私たちは、えと、元の世界に帰れるんでしょうか……」
その質問はこの会場内によく響いた、それだけ皆が注目してる質問だからだ。その問いかけにアリシアは間を置かずに笑顔で答える。
「そのことで心配になるのも無理もありません。ですがご安心ください。これからそこら辺も含めてご説明させていただきます」
そう言ってアリシアはなぜ僕たちをこの世界に呼んだのかその経緯を話始めた。
話の内容はどこか聞きなれたような内容だ。かつて魔王と対峙しそれを封印。しかしその封印は徐々に綻びその影響が各地に出始める。それを止めるにはかつてこの王国の祖先たちが行った召喚の議を行い、別世界から勇者を召喚すること。
そして……
そんな呼び出された僕たちには特別な力が宿っていることを。
別の意味で会場中がどよめく。ついさっき真田が見せたあの人間離れした力。それが自分達にも備わってる。そんなこと言われたら騒ぎたくなるのも無理もない。
すると使用人たちが一枚のカードを僕たち全員に手渡してく。
金属のようだけどそれにしては軽い、だけど若干重い。例えるなら年会費十何万円のクレジットカードのような感じだ。
それをじっと見つめる。すると……辺りから興奮に満ちた声が聞こえてくる。
「え! ちょっと待て俺ヤバくね!」
「『聖域』って何? 意味わかんないだけど」
「剣なんて使った事ねえよ」
周りから口々にそういった感想が聞こえてくる。それは紛れもなく自分が授かった特殊能力についての話題だ。
そして僕の頭の中にある事が脳裏を過った。
何の才能も無い。何の取り柄も無い。平凡で退屈でつまらない自分。
対等だと思っていた彼女はいつしか遠い存在になって僕がいくら手を伸ばしてもかすりもしない存在になっていた。だけど……今なら。
ここで物語のような主人公になれたら、きっと。僕は彼女と……小春と対等な相応しい人間に成れる。
その瞬間、不意にカードが僕の手から抜き取られる。
「おい、お前はどんな能力貰ったんだ?」
振り向くといつの間に治療してもらったのか真田くんが僕のカードをまじまじと見ていた。
「ち、ちょっと! 返してよ!」
僕は反射的に飛び掛かる勢いでカードに手を伸ばすがあっさりと片手で塞がれてしまう。
「ぷっ、噓でしょ」
笑いを押えながら僕のカードを見て、しばらくして盛大に吹き出した。
「ぷっはは! マジかよ、おま、お前ぇこんな所でも落ちこぼれなのかよ」
僕は言ってる意味が分からなかった。まだよくカードを見てないから自分の能力は分からない。よっぽど酷い能力だったのか? でもそれなら使い方でどうにでも……
「お前、何の能力も無い、ただの一般人じゃん!」
「……え」
その後の事はよく覚えてない。一つ分かってることがあるとすれば僕は結局……
何も無いただの凡人だという事だ。
・・・
「お前、何の能力も無い、ただの一般人じゃん!」
「……は?」
いやいや、待て待て。え?
俺は自分のカードを見た、すると何故か読める見た事の無い文字が浮かび上がる。それを見て俺は呆然とした。
周りを見るとそいつと同じような反応の奴は居ない。みんな逆にそいつを見てドンマイ的な気の毒に眺めているだけ。
こいつら何も分かってねえ。
この大勢の中、たった一人、唯一、オンリーワン。それが意味すことを。




