第3話
人が二人も吹き飛ぶ衝撃的な光景を前にしても毛ほども慌てずゆっくりとした優雅な所作で僕たちの前に出るお姫様。その一連の動作にまたもや目が奪われて言葉を失ってしまう。
そして再び透き通るような声が広間に響く。
「混乱するのも無理もありません。しかし、どうかご安心ください。我々はあなた方を無下に扱うような事は致しません。あなた方を歓迎するための準備が出来ております。まずは城までお越しください」
話し終えるとお姫様の後ろで待機していた何人もの兵士が前に出て、その剣や甲冑の脅威をまるで感じさせず気のいい感じで僕たちを誘導し始めた。
「さあ、こちらです」
前の方から順に出口の方に案内され始め、それと同時に壁に倒れ掛かっている真田も運ばれていくのが見える。
するといつの間にか僕と小春の前にも兵士がやって来て、やはり気のいい感じで話しかけてくる。
「お足もとにお気を付けください」
「あ、ありがとうございます」
小春はそんな気のいい態度の兵士たちに思わず感謝を述べてしまうほどだ。
「さ、あなたも」
「ありがとう、ございます」
そっと差し出された手を掴んで僕も立ち上がろうとするとグンッと一気に引っ張り上げられる。ヒョロヒョロの僕とは違って鍛えに鍛えぬかれた力強さを間近で感じた。
真田くんの前に立ち塞がった大男ほどでは無いけどこの人もかなり強そうだ。
僕は思わず目の前の兵士から目を逸らし軽く委縮してしまう。だが、そんな様子を見せた僕に対して寧ろ気を利かせて話しかけてくれる。
「いえいえ、これくらい当然ですよ。さ、出口は向こうです」
そう促された方をよく見ると遠くの方に白い光が見える。おそらくあそこが出口なのだろうがその遠さからどれだけデカい建物なんだと驚愕してしまう。
「どうしたの? 佐藤君」
「え、いや、何でも。えーっと、じゃ、行こっか」
「うん」
正直言って今目の前で起きてる事の方が僕にとって非現実的に感じてしまう。幼馴染とは言え年齢が上がるたびに疎遠になり、高校では同じクラスになったものの交流はほぼゼロに等しい。
そんな彼女が今、僕に話しかけて来てあまつさえ一緒に歩いてると思うと本当に信じられない。それこそ異世界転移なんかより、よっぽど。
歩きながら隣の小春にな話しかける内容を考えるがこれと言って話題が思いつかない。目に入る日本では見ない西洋的な彫刻や装飾がただの景色として視界を流れていく。
今にして思えばそのことを適当に話題にすればよかったと後悔してしまう。
結局、小春と一緒に外に出るまで何も話さず歩いただけだった。
出口が近づいてきて流石に勿体無いことしたと激しく思ったが、その考えは外に出た時の光景にすぐに追いやられた。
「うあー、凄い……」
「うん……ホントに、凄い」
外に出た瞬間に体全体で感じた少し強い爽やかな風、見渡す限り広がる空、心地よい太陽、そして……
見下ろした先に見える町、それを囲む壁、その中心に位置するどうやって建築したのかと思う馬鹿デカい城にとにかく圧倒されてしまった。
周りの反応も似たようなもので出口の先の光景に興奮している。その反応につられ建物からも続々と生徒や教職員がやってくる。
もう少しこの光景を目にしていたいが邪魔になってしまうので取りあえず歩き始めた。
「凄いね、佐藤君。外にこんな景色が広がってるなんて」
「え!? あー、そうだね。僕もこんなの初めて見たよ、正直凄すぎて……上手く、言えないんだけど、うん、凄い、ホントに」
「フフッ、そうだね」
可愛い。思わず口からそれが出てしまいそうになる。身に余るような笑顔が自分に向けられ、それを目の当たりにし、僕はさらに動揺した。せざるを得なかった。
その様子をまた彼女に揶揄われたりしながら歩いていると道の先の景色が変わっていた。
ここは言うまでもなく外、屋外なのだが、僕らの歩く道の先は明らかにどこかの建物の中の風景だった。磨かれた床とそこに敷かれたカーペットに内装。先ほど居た神殿は神聖な感じだったがこっちは豪華絢爛って感じだ。
フィクションでは何度も目にしているが、それをいざ目にすると思わず立ち止まってしまう。そこだけ、はさみか何かで切り取られ別の景色を張り付けたような感じだ。
「どう……なってんだ」
僕はその景色から回り込んで後ろを見る。変わらず道は続いていて何かしら変化がある訳ではない。そのまま後ろに回り込むと僕たちが歩いてきた道と最初に居た神殿が見える。
「うわ!? え? ビックリしたー」
そのまま歩いて元の場所に戻ろうとすると、小春が急に驚いた。
「ど、どうしたの!?」
「いや! 佐藤君が急に景色の向こうから来るから!」
そんなやり取りを見て一人の魔術師風、いや魔術師の男が近づいてくる。
「これは『次元門』と言って、勇者様方には馴染みが無いと思いますが魔術と呼ばれるものの一つです」
知識というか、一応見ただけでそういう類の物と分かりはするが、改めて説明されると別の実感が湧いてくる。
「ま、じゅつ……ですか」
「はい、これは空間と空間を繋げて別の場所に素早く移動することが出来る魔法です。どうですか? すごく便利でしょ」
「は、はあ」
これを便利の一言で片づけていいのか疑問だが、今はそれ以上考えないことにした。というか考えるだけ無駄だと思った。
「この先は城に繋げてあります。ここから城まで歩いて行くのは大変ですからね」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
小春と顔を見合わせから、再び先を見る。そして二人で意を決して足を踏み入れた。




