第2話
思わず見惚れてしまう美しさとその透き通るような声にその場に居る殆どが口をつぐんでその声の主をただ黙って見つめた。
「うわー、可愛すぎだろ」
どこからかボソッと聞こえる。誰が言ったか分からないが、しばらく沈黙が漂う中その言葉を皮切りに皆が静かに口を開き始める。
「確かに」
「綺麗~」
「てか、ここ何処なの?」
「そんなん知る訳ないじゃん」
「おいこれってアレじゃね?」
「な! ヤバくね!」
いきなりここに来た時とは違い目の前の絶世の美少女のお陰である程度冷静さを取り戻せたからか、皆が落ち着いて思い思いに話始めいつの間にかさっきまでの喧騒を取り戻していた。
「佐藤君」
「え? あ、こは……今井、さん」
背後から話しかけてきたのは小春だった。徐々に熱を帯びる喧騒の中、一人不安そうな表情で今にも泣きだしてしまいそうだ。
「だ、大丈夫?」
「うん」
強がりなのがまるわかりで心配になった僕は泣きそうな彼女を慌ててその場に座らせて落ち着かせた。
「……」
何て声を掛けたらいいか分からず、視線を彷徨わせあたふたしながら彼女に掛ける言葉を探していると逆にそんな僕を見て彼女が話しかけてくる。
「心配してくれてありがと。相変わらずだね佐藤君は」
「アハハ……いやー、それほど、でも?」
そんな僕の反応を見て小春は思わず笑みを零した。どんな経緯であれ彼女が元気になった様子を見て僕も何だか嬉しくなり、照れの割合が多い笑みを浮かべた。
久しぶりに小春とこんなに話せてちょっとだけこんな訳の分からない状況に感謝している自分に気づいて、こんな状況じゃ無きゃ小春とまともに話せないのかと思いすぐに笑みを消した。
「佐藤君? どうし……」
「てかさー、そろそろ説明してほしいんだけど?」
喧騒を掻き分け声を上げたのは真田くんだ。
「なんかさっき変な事言ってませんでした?」
形だけの敬語を装った失礼な言い方で僕たち大勢の前に立つ美少女のお姫様に向かって歩いて行く。するとお姫様の後ろに侍っていた甲冑を身に纏ったデカい男が真田の前に立ち塞がった。
「いや、何すか? それくらい聞く権利くらいあるっしょ」
「それはこれから説明する異界の勇者殿」
低く威圧の籠った声で真田に話しかける。僕だったら確実に震えあがってしまいそうな声だ。しかし真田は確かにビビりはしたもののそのまま口を開いた。どういう神経してんだ……
「ゆ、『勇者殿』とか言うんならその態度は何なんだよ! ああ?」
「真田君、よしなさい」
相手の大男は見るからに『重騎士』という存在だ。身に纏った甲冑、帯剣している大きな剣。どこを見てもコスプレとかふざけたことを言える存在では無いのは誰が見ても明らかだった。
そんな奴に面と向かって噛みつく真田を止めるため慌てて先生が止めに入る。もしそんな奴の機嫌を損ねたら何が起きるか、というかこれ以上事態をややこしくするなという非難の気持ちが大半を占めながら真田を大男から引きはがそうとした。
だが。
「うるせえ! 触んじゃねえ!」
真田くんが止めに来た先生の腕を振り払う。そこまでは見慣れた光景だ。しかしその後は完全に常軌を逸していた。
僕から見ても軽くあしらう程度で振るわれた腕が先生に当たると車にでも撥ねられたのかと思うぐらい吹き飛び床に転がった。
「キャーー!!」
「何々? 何が起きたの?」
「おいやべえって早く手当てしてやれよ」
あまりの衝撃な光景に場は再び混乱した。同時に僕はここがそういう世界だと確信した。
「あ?」
真田くんは自分の腕を見つめ軽く動かしておかしなところは無いか確かめてから床を思い切り殴りつけた。ドンッ! という人間が到底出せるような音では無い鈍い音が響く。拳を振り下ろした場所はこれまた人間業とは思えないようなヒビが入っていた。
真田くんは再び自分の拳を確かめる。普通だったら絶対折れてるはずの勢いで殴りつけた拳は傷一つ無く正常なままだった。
「ハ、ハハ……マジかよ」
興奮を隠しきれない様子の真田が再び騎士の大男に向き直るとその表情には先程まであった怯えが完全に消え去り不敵な笑みを浮かべていた。
「なあ、俺も暴れたいわけじゃねえんだ。ちょっとそっちの姫さんと話したいだけなんだよ。いいだろ? なんせ俺って……勇者だからさあ」
しかしそれをどこか呆れた様子で騎士は見つめ、尚も真田の前から退かない。それどころか
「おい! すぐにあの者を治療するんだ! 急げ!」
「ハッ!」
騎士の言葉に後ろに居た、いかにも魔術師のような見た目の人たち(杖は持っていないが)が生徒を掻き分け真田くんに吹き飛ばされた先生に駆け寄る。
手を先生の体に押し当て何かを唱えると押し当てた手が薄緑に発光しさらに空中から見たことも無い文字の羅列が流れ込んで行く。
その光景に圧倒されしばらく眺めていると、数秒後倒れていた先生が目を覚ましゆっくりと体を起こしその様子に皆が驚愕した。
「マジかよ、スゲェ」
「あれって魔法!? ねえ魔法!?」
「うるせえ見りゃ分かんだろ」
あまりの光景に興奮が周囲に伝播していくが、その中で一人イラつきを隠せない人物がいた。
「おい、何無視してんだよ。調子乗ってんじゃねぇぞ!!!」
怒号により再び注目された真田くんはそのまま騎士に食って掛かる。だが今度は誰も止めに入らない。
騎士は興奮した真田くんをなんとか宥めようと落ち着いた口調で話しかけるが、当の本人はもうそんな言葉は耳に入らない。その様子に騎士はさらに呆れた表情を浮かべそれを見た真田くんが我慢できずに遂に殴りかかった。
さっきの光景がまだ目に焼き付いているのでこれから何が起きるか想像してしまう。だがその想像は簡単に覆された。
いつの間にか殴りかかった真田くんが自分で吹き飛ばした先生以上に吹っ飛んで壁に激突しそのまま床に転がった。
僕は何が起きたのか見ていたのに理解出来ずただ唖然とする事しか出来なかった。
・・・
「やっぱな、ああいうイキってる奴は大体噛ませって決まってるんだよ」
神殿のような空間の隅っこ。集団から外れて一人俺はそう呟いた。
「やっべぇ、これから起きることを想像するだけでワクワクしてくる」
俺は集団から外れ、一人で『俺は何が起きてるのか全部わかってます』的などう見ても自分が主人公ですよと言わんばかりの、傍から見て少々どころかかなり痛々しいムーブかましていた。
・・・
「マジかよそんな痛い感じだったの?」
「うるせえなぁ、しょうがねえだろこん時はよお! ああああ! マジで記憶から消し去りたい」




