第37話
「……よしっ、準備オッケー、だよね? 髪とか変な寝ぐせついて無いよね? ああもう! ……何でこんな緊張してるの私いいい!!」
彼此長いこと鏡とにらめっこを続けては映る自分と同じやり取りを何回も繰り返してしまっている。
これから私、火神恋はこれからある男の子と街に出かける。切っ掛けは冗談半分で何かお礼をしてくれって頼んだだけだったが、相手がそれを本気にしてしまい翌日に早速お礼をしてくれる事になった。なってしまった。
自分で言うのも何なんだけどこれって完全に……イヤイヤ!! 無い無い無い!!! 絶対に。
って事で早いとこ待ち合わせ場所に向かわないと。待たせる訳にはいかないからね。それと平常心で、ね。
こういった類の事は今までの人生で一回も訪れた事が無かったので、若干心臓をドキドキさせてしまっている。
それがどういった感情なのか、この時の私は知る由も無かった。
・・・
今日は一週間のダンジョン遠征期間で丁度真ん中の日。ようは休日だ。この街に着いてすぐダンジョンに向かい二日間はその中で寝泊まりをしていたが三日目でダンジョンから一時帰還して、屋敷のフカフカなベッドで一夜を過ごした。
今日は午後から大切な用があるから、朝食をしっかり摂ってから毎朝行っている訓練を早めに切り上げる。
身だしなみをそれなりに整えて待ち合わせ時間の正午の少し前に着くように向かう。屋敷から出て小ぢんまりとした綺麗な庭園を抜け屋敷と外を繋ぐ門に近づくと、今日会う約束をした人が既に待っていた。
「火神さんおまたせ。結構待たせちゃった?」
「い、いや! 今来たとこ……ハハハ」
火神さんはそう言うが、今来た訳が無い事を僕は知って、少し早めに出たが結局彼女を待たせてしまったことに若干罪悪感が湧く。
次があるか分からないが、次回はもっと早めに出る事を決意した。
「そっか……じゃあ行こっか」
「お、おう」
お互い少し、というか慣れない事をしているので勝手が分からず二人揃って足取りがかなりぎこちない。
「意外だったな」
「え? 何が?」
「いや火神さんはこういうのに慣れてると思ってたからさ、意外だなって」
「いや! 遊びに出掛けはするよ! ただ……お、男の子とは、初めてで……」
「え!? あ……あー、そう……なんだ。何か、ごめん」
「謝んなボケ!」
「グハッ!」
あまりにも早い肘が僕の脇腹に直撃する。魔力を流して防御しなければ今頃どうなっていたか分からない。
そんなやり取りをしながら並んで歩いていると、いつの間にか街の賑やかな場所までやって来る。
壁の色や建物の高さなどはバラバラで一見纏まりが無さそうに思えるが、ここまでバラバラだと却って纏まってるように見え、街並みを眺めながら歩くだけで楽しくなる。
そこに住人たちの活気のある営みも加わり、より僕たちの目を楽しませてくれる。
だが、街行く人は何もここの住人だけとは限らない。
僕なんか簡単に真っ二つに出来そうな大剣を背負い、肩で風を切りながら歩く厳つい男性。顔や体、軽鎧に勲章のように残る傷跡をいくつも携えたおじいさん。
他にも獣人と呼ばれる猛獣がそのまま二足歩行したような獰猛さを醸し出す種族のパーティーなど、この街がどうやって発展していったのかを物語っている。
「なんか凄そうな人たちが多いな」
「そうだね。やっぱり近くにダンジョンがあるからかな」
ダンジョンは一見、レベルアップ目的を除けば見境なしで襲い掛かってくる魔物や魔獣といった存在が跋扈する、ただただ危険な場所に思えるが、実はそうでは無い。
この世界での人類種の発展はダンジョン無くしては語れない程、密接に関わっている。
代表的な物で言えば、ダンジョン資源と呼ばれる物で、簡単に言うとダンジョン内で伐採、採掘された木材や鉱石などの総称だ。
これらダンジョン資源の有益な理由は色々あるが、一番の特徴はなんと言っても半永久的にそれらを確保し続けられる点だ。
ダンジョンには自動修復機能とも呼べる性質があり、例えば、切られた木や、砕けた岩、抉られた地面などが一週間も経たない内に元に戻ってしまう。
なので、木は伐採し放題、鉱物は採掘し放題、正に人類種にとって夢のような環境だ。
「ふーん。でも何だか夢が無えなぁ。もっとこう……なんて言うの? 宝とかロマンとかそういうのを期待してたんだけど」
どこか適当な店に入って火神さんにご飯を奢ろうと思っていたけど、その適当な店が見つからず結局そこら辺の露店で買った骨付きに肉を並んで食べ歩きながら、火神さんと僕はダンジョンについて話していた。
「ダンジョンの構造には幾つも種類があって、草原、森、山、海みたいな自然もあれば、城や街、迷宮みたいな人工物の構造もあって、そういうダンジョンには所謂『お宝』があるみたいだね」
「へぇ〜なるほどなぁ〜。てか、佐藤って何でそんな事に詳しいの?」
「この世界に来て本読むのにハマっちゃって、城の図書館に頻繁に通ってたんだ」
「うわぁ、あたし昔っから本読むのダメなんだよな。なんかすぐに飽きちゃうってか、そんな感じでさー」
「まぁ得意不得意は誰にでもあるからね。でももし火神さんと一緒に読書出来れば楽しいだろうな、きっと」
「うぇ!? ……じ、じゃあ今度、その…教えてよ! オススメとかさぁ……」
「是非!!」
僕は嬉しくて思わず火神さんの手を握って興奮して返事をする。
「ッッッッ!? ちょ、ちょ! 分かったから!! そ、それよりも、こんな肉一つじゃまだまだ足りないわよ、あたしは!」
そう言ってどこか慌てるように走っていく火神さんを僕は必死に追いかけた。




