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第35話

 僕たちが遠征しているダンジョンは街から東に馬車で3時間程の距離にある。


 意外というか、そこまで時間が掛からない場所にあると思うが、なんと道中に馬の休憩や交代などを一切はさまず、ぶっ通しでダンジョン近くの街までの街道を走り続けた。


 これもスキルや魔術の成せる技かと驚愕する一方で、馬の体力を維持し続けるという、何と言うか意外と脳筋な方法がちょっとだけ面白い。


 初日は、街に着くとまず宿泊先の(と言ってもほとんどダンジョン内で寝泊まりするのだが)屋敷に向かう。流石に城の屋敷の方がデカさや豪華さが段違いだか、こちらも悪くない。


 部屋を適当に割り振り、荷物を置いて屋敷の広場に集合し、今回の遠征中にコンビを組むパートナーを決める。


 スキルの相性や人間関係を考慮したペアがマリアさんとその部下の騎士さんから次々と発表されて行く。


「よろしくね佐藤」


「よろしくお願いします。火神さん」


 僕と今回コンビを組んだのはB班のまとめ役でもある火神さんだ。


 明るく活発な性格と誰とでも話せる人当たりの良い性格から、この班内で彼女を嫌う者はいない。B班に振り分けられるも、真田と一悶着起こして周りから少しだけ距離を置かれて僕に真っ先に話しかけて受け入れてくれたのが彼女だ。


 その時から度々話すようになっていたので、コンビを組んだ時変な気を使わなくて良さそうで安心する。


 周りの、特に男子からの視線が少しだけチクチクする気がするけど……


 それと、多分火神さんと僕がコンビを組んだのはマリアさんが気を利かせた結果だと思う。ペアの基準は人間関係とスキルのバランスも考慮されている。


 例えば遠距離のスキルと近距離のスキルや自己強化と支援の組み合わせみたいに、弱点を補ったり長所を伸ばす具合にペアを決めていく。


 火神さんのスキル『撃波(げきは)』は遠近両対応の万能スキルで性能だけで見れば一人で二人分の活躍が見込める。

 おそらく、スキルの無い僕を案じての事だと思う。


 嬉しいような、悔しいような複雑な気持ちが入り交じりつつも、仕方ないと割り切り気持ちを切り替えダンジョンに向かう。


 街から出て森の奥へと続く道を進んで行く。街を出たあたりは特に何も思わなかったが、深い森の中を進んで行くと徐々に息が深くなっているのを感じる。


 周りからもいつの間にか話し声が消え、皆緊張している様子だ。


「着いたぞ」


 マリアさんがそう言って、目の前に現れたのは大口を開けた巨大な洞窟だった。


 そのあまりの大きさに転移者の僕たちは息を呑んでしまい、感想一つ口から出ない。軍隊が丸ごと突入しても問題無いくらい入り口は広く、それでいて光が全く射さない。これだけデカければ日の光が少しは当たり中が少しは見えそうなものなのに入り口は黒いままで、まるで黒く塗り潰されてしまってるようだ。


「よしっ、では行くぞ。中は一本道になっていて、奥で私の部下が待機している。私は最後尾に付くから安心して進んでくれ」


 そう言い終わると、たまたま先頭にいた生徒の背中をトンと叩いて洞窟に進むよう促すが、反射的に後退りしながら狼狽えてしまう。


 見兼ねたマリアさんが一言何かを言おうとした時、その様子を見ている僕の腕が急にグッと引かれ、思わず変な声を出してしまう。


「えっ!? ちょ!」


「マリアさん! あたし達が先に行きます!」


 人だかりを掻き分け火神さんが僕を引っ張りながら前へ出る。


「そうか」


 フッと軽く笑いながらそれだけ言ってマリアさんは道を開ける。


 促されるままに入り口へ近づいて様子をみる。


 これだけ近づいても全く中が見えない。試しに手を伸ばすと黒い部分に触れた場所が完全に見えなくなって、まるで飲み込まれてしまった感じだ。


「うわ!?」


「だっ、大丈夫か佐藤!」


「な、何とか……」


 ふと見ると、率先して一番を名乗り出た火神さんだったがかなり怖がってる様子が見て取れる。


 僕が情けないから、また……


「……行きましょう」


「うぇ!? さ、佐藤! ちょっと待ってよ!」


 意を決して暗闇に突っ込むと火神さんもなんとか僕の後に続く。


 中は予想通り暗すぎて何も見えない。と思っていたら徐々に目が慣れてきたのか結構ちゃんと見えるようになる。


 足元はゴツゴツで若干坂になっている。


「ちょ、ちょっと佐藤! いきなり行ったら危ないでしょ!」


 まだ目が慣れてない為か、両手を伸ばして障害物を探りながら歩く火神さんがやってくる。


「すっ、すみません……あ」


 僕は咄嗟に火神さんの手を掴む。


「え、ちょっ、は!?」


「そこ、足元凹んで危ないので」


「あぁ……ありがと」


「よかったです」


 些細な事だけど、前の自分ではこんな気を効かせることなんて出来なかったと思うと、自分の成長が少しだけど感じ尚且つ感謝という報酬を受け取った事で自然と笑みが溢れる。


「っ!?」


「どうかしました?」


「いや別に……それよりも」


 そこまで言いかけた火神さんの表情を見て僕はすぐに察して、慌てて彼女の手からようやく手を離した。


「あ、ああ!! すみません」


「別に、それは気にして無いけど…… それより敬語!!」


「え?」


「前から気になってたんだよね、ソレ! 同い年何だからさー、もっと普通に話せない?」


「あ、えっと、すみま……ごめん?」


「ハァ、ま、良いけど。それより行こ」


「わかっ……た」


 そんなぎこちない会話をしながら進むと奥から急に光が差し込む。


 いつの間に、と疑問になりながら光の中をくぐると、目の前に広がる光景に圧倒され疑問は消え失せていた。


 どこまでも続く青空、吹き抜ける風、暖かな光、草木が靡く草原が地平線まで広がり、再び異世界転移したのかと疑問に思うくらいだ。


「うっそ……だろ」


「何なの、これ……何なのこれえええ!!?」


 火神さんの叫びは空気に溶けてダンジョン中に広がり、その光景に二人揃ってこれから待ち受けるであろう期待に胸を膨らました。


 そして結果は……突き付けられた現実に打ちのめされる結果となったわけだが。

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