第31話
次の日の夜、俺たちはいつものようにジョエルの部屋を訪れていた。
「それで怒られたんですか? ……ぷっ、くっ…ハハハ! さすがリュウジさんですね!」
「いや、バレた訳じゃ無えんだけどな」
今まで笑うことの無い人生だったからか、だんだんジョエルの笑いのツボというか沸点ていうか、そこら辺がおかしくなって来た気がする。
「まっ、んな事よりも……どうしたもんかなー」
「どうかしたんですか?」
「いやそれがさ、どこで魔法の訓練をしたもんかと思ってよー」
魔法の訓練は控えめに言って目立ちすぎる。魔導書にはやり方や効果なんかが書いてはあるが、どう言った規模になるかは魔力の度合いでかなり左右される為、かなり調整がむずい。俺の場合は特に。
「訓練所ではダメなのですか?」
「いや〜、ちょっとそれはな〜」
「ああダメダメ。そこは先客が居て使えないんだよね~、な! リュウジー」
「一々揶揄うなよ!」
「何か特別な理由があるんですか?」
「そうそうそれがな~」
「はいコロス! 絶対ブッコロス!!」
ドタバタと部屋中でしばらく騒いでこの件はなんとか有耶無耶にすることは出来たが、肝心の問題は未だに解決の目処が立たない。
街中でこれ以上騒ぎを起こすとお偉いさんが黙ってないし、訓練場は昼だと勇者様たちが使ってるから無理。
夜は連日の騒ぎで出歩いてると怪しい目で見られてしまうし、唯一空いてる時間は朝の早い時間くらいだが、佐藤がたまに使うから論外。
つまり、誰にも騒がれず訓練する場所が無いって訳だ。
困ったもんだ。
いやまあ、ちょっと自意識過剰かな? とは思うけど……
んな事より、これじゃあこれから押し寄せる波にただ呑まれるだけ。どうにかしていい場所を見つけないと。
せっかく面白そうな本を見つけたのに、それをすぐに試せないとなるとかなりストレスだ。
どうしたものか。俺と司はウンウン唸りながら考えてはいるが何も浮かば無い。
というか浮かぶはずが無い。ただ考えてるフリをしてるだけだ。
「あ……それでしたら、あそこなんて良いかもしれません」
そう言うとジョエルは立ち上がり、棚の引き出しをガサガサと雑にしばらく漁り、取り出したのは手のひらサイズのエンブレムで、よく見ると何やら歴史が深そうな古びた物で、ジョエルはそれを俺に手渡した。
・・・
「そこで何をしておられる勇者殿」
「え……っと、ちょっと城の探検を、な!」
「そうそう! ハハハ……」
「この先は例え勇者殿であっても通す訳には行きません。どうかお引き取りを、無駄な疑いをあなた方に掛けたくはありません」
「そ、うです、よね……ハハハ……」
「アハハ……」
俺と司は厳つい見た目とは裏腹に爽やかな声の騎士に言われるがまま、その場から素直に引き返す。
そのままお互い何も喋らず、にこやかに並んで歩き通路を曲がって先ほどの騎士が見えなくなったところで表情を崩す。
「全っ然ダメじゃねぇか!」
「まあ、こうなるんじゃないかって思ってたよ」
魔法を自由に試し撃ち出来る誰にも邪魔されない場所を求めていた俺たちだが、当然そんな場所を俺たち二人が見つけられる筈も無く、ただただ唸っていたところ、何やらジョエルには心当たりがあるらしく古びたエンブレムを手渡されその場所に向かったのだが……
向かった場所がなんと件の城地下。
アホか!!!
行けるワケねえだろ!!!!
「何があるのか知らねえけど、行くまでのリスクが大きすぎんだろ普通に考えて! 何考えてんだあの箱入り王子はよお!」
「リュウジどうする? 今回は流石にやめとくか?」
俺は立ち止まり苦い顔で考える。
普通だったらこんなピリピリした状況で城の、しかも立ち入り禁止の地下に近づくのはマズい。バレた時何されるか具体的には分からないが、めんどくさい事になるのは確実。
だけど、最近知り得た真実は悠長に遊んでいられる程、甘くない事も事実。今のうちに力を付けておかないと、という焦りが募る。
だったら恥とかそういうのを捨てて大人しく訓練場を使えばいいのだが……
「いや待て。そういえば……」
「どうかしたのか?」
「一旦俺の部屋に戻ろう」
「お、おう」
足早に部屋に戻ると俺は早速スキルを起動しスケルトンを呼び出す。
召喚されたスケルトン……『二号』の手には前に持ち出した本、では無くこの前図書館で目に入った『魔術によるスキルの再現』という本が握られている。
二号からそれを受け取りページを何枚も捲る。
「これだ」
ページには長ったらしく理論やら何やら難しい事が書かれているが、今はそんな事どうでもいい。俺はそのページに向かって早速魔力を流す。
関係ない文字や式、方陣に触れないよう狙いを定め指先から目的の箇所に魔力を流す。流された魔力はページに描かれた魔法陣に沿うように浸透していく。
魔法陣に魔力が行き渡るとしばらく発光した後に魔力という力の塊はやがて意味を持ち、魔術となってその力を発揮する。
「おい! これって大丈夫なのかリュウジ!」
「大丈夫だって、まあ見てろ」
すると俺の指先から徐々に消えるように薄れていき、やがて俺の体越しに反対側の景色が見えるようになってしまう。
「おいリュウジ! どこに行くん……アレ? 触れる……」
「……どこ触ってんだよ」
「うわ!? ビックリした! 何も無い所からリュウジの声が……おいおいこれってまさか!?」
「そう、『透明化』の魔術だ!」




