第30話
「よ、よし、今度は大丈夫だ。マジで。ホントに。……だからそんな目で見るな! 気が散るだろうが!」
見てるこっちが目を逸らしくなる程の疑わしい眼光で司がジーっと俺を見つめ……睨みつけてくる。余程さっきの事を根に持っている様だ。
「絶対、大丈夫だから、信じて! 今度はちゃんと調整してるから、マジで!」
「ふーーん」
やべえ、このままだと一か月飯奢る羽目になるかもしんない。もうそんな金無えよ。このままだとバイト地獄になっちまうよ。
「それより、ほら! そこに立っててくれ。行くぞ……」
俺は右腕全体に魔力を流し始める。ジワーッと冷たいのか温いのか絶妙に分からない感覚が腕に広がって、やがて俺の腕全体に満遍なく魔力が行き渡る。
意識を集中させながら、無断で持ち出した魔導書をチラ見して、今から発動する魔法の内容を確認する。
今から使う魔法は『跳び上がり』という魔法だ。
まず親指以外の指を真っ直ぐ隙間なく伸ばす。続いて親指を少しだけ折り曲げる。右腕を対象に向かって伸ばし指先で狙いを定め意識を集中。そして自分のタイミングで肘から先を90度自分の方に折り曲げる。
すると、俺の腕に纏ってあった見えない魔力が飛び出し司の体を素早く覆い始め。司は上から引っ張られるようにフワッと浮き上がり地面から離れ、そして重力に従い地面に落ちる。
今回は魔力の量を調節したのと、何が来るか分かっていたからか司も落ち着いて地面に着地した。
「な、大丈夫だったろ」
「ハァ……もういいよ、その事は。ていうか、こんなんで訓練になんのか? 向こうの方が全然ためになる訓練してると思うけど?」
「仕方ねえだろ、本の最初に書かれてる魔法なんだからさー。それに、今更『戦闘組』に頭下げて加わって訓練すんのも嫌だろ?」
「まっ、それもそうか。ほんで? 次は何すんの?」
俺は再び魔導書に目を向け、次の魔法を吟味していく。
魔法とは簡単に言えば、魔力によって引き起こされる自然現象の事だ。
燃え盛る火に風を送ればさらに火が燃えるように、こうすればこうなる、という法則が魔力にも存在し、魔の法則……つまり魔法と呼ばれている。
魔術とは魔法から派生したもので、魔法の発動条件を文字や言葉、方陣や模様に置き換えて発動する術を魔術と呼ばれ、人属は主に魔法よりも魔術を行使している。
俺がさっき発動した『跳び上がり』の魔法も勿論、魔術に置き換えられており、俺が持ち出した魔法の入門書と同じように魔術の入門書の最初の方に載っている。
じゃあ俺が何で魔術では無く、魔法を学んでいるかと言うと……
簡単だからだ。
「よしっ、今度はこれで行こう。司はちょっと横に避けといて」
俺は両腕にさっきみたいに魔力を流し、手を胸の前で組む。そして適当な木に狙いを定め、それに向かって思いっ切り手を突き出す。
両腕の魔力が腕を突き出した勢いを何倍にも倍増させたような勢いで空間を押し退けながら前進し、直撃した木を薙ぎ倒してしまった。
「うおお、マジか……スゲエなリュウジ! ……リュウジ? リュウジ!!?」
しかし俺は俺で、腕から放たれた魔力の衝撃の反動で後ろに吹き飛ばされ後方の木に頭を強く打って、あっけなく気を失っていた。
幸いなことに怪我は、司が俺を部屋に運んでポーションをぶっかけてくれたおかげで大事にはならなっかった……が!
翌日、城に再び転移者全員が集められ、街中で誰だか知らないが暴れるなと注意喚起されてしまった。
次は騒ぎにならないように上手くやろう。アリシア王女の貼り付けられた笑みをこれ以上見るのは勘弁したいところだ。
・・・
「そんでまた図書館かよ。あの本じゃダメなのかよ」
「あれはあくまで入門書みたいな物だからな、便利な魔法も載ってるけど、もっと危険で有用な魔法も知っておいて損は無いだろ?」
司は肩を竦めてハイハイそうですかと言わんばかりにため息を吐く。
「それに気になる事もあるしな」
「気になる事?」
佐藤と真田による半ば公開処刑に近い試合。
しかし結果は皆が予想していたものとは打って変わって、佐藤の劇的な勝利で幕を閉じた。
だが、あの勝利は決して佐藤一人の力で成し得られる物じゃない。
では誰のおかげで勝てたのか。当然俺たちのお陰、と言いたい所なのだが、真田はそれだけで勝てるような相手では無い。
佐藤は俺たち以外からも何かしらの協力を受け、それが重なった結果、あの勝利をその手に掴んだ。
確認出来たのは俺たちを含め三つ。
まず俺たちの一号による超絶スパルタ戦闘訓練とそれを可能にする大量のポーション。
二つ目は魔道具。詳しい効果は分からないが、アレのおかげで佐藤は命拾いした。
そして三つ目だが、何かしらの魔術の使用。司が試合中、佐藤が何かしらの術式を起動しているのを確認したらしい。
因みに余談だが、どうして今訓練してるのが殆ど俺だけなのかと言うと、司はマジのマジでチート持ちだからだ。
こいつが戦ったら真田は秒殺、秋山瞬殺、仮に佐藤と模擬戦をしたら奴に万に一つも勝ち目は無い。
搦め手無しの戦いで司が遅れを取る事は多分無い。それくらいこいつは化け物級に強い。
まあそれは置いといて。俺が気になるのは三つ目の事だ。
格下が格上に勝つ要因の一つとなった魔術。術は小難しくて本気で学ぼうとは思わないが、それくらいの興味は湧く。
だから俺は佐藤が魔術に触れる機会なんて図書館ぐらいしか無いだろうと踏んだ訳だ。
まあ、結果は芳しく無いが。
「リュウジー、これじゃあ埒が明かないよ。もう直接聞いたらどうだよ」
「い、いやーそれは……」
「ハァ……」
時間がいくら経っても、佐藤への後ろめたさは消えない。
陰で助けるには助けたが、同じく陰で妬んでいたのは事実。周りと違うという一見オンリーワンに見えて、その実、ただただ不利を背負ってるだけなのに……
そうやって考え事をしながら目当ての物を探していると、ちょうど本を返却しに来てた他の人とぶつかってしまう。
「あ、すいません」
反射的に謝りながら、ぶつかった人物を見ると少女と見紛う女子生徒が横にいた。
俺はその人物に見覚えがあった。
名前は確か……
「ひっ……!」
彼女の名前を思い出そうとしていると、ふと小さな悲鳴が聞こえてくる。
「え?」
声のする方を見ると、怯えた表情を浮かべ少し震えている。
「あ、えと、大丈夫で……」
俺がそう言い切る前に彼女は逃げるようにその場を去って行ってしまった。
「おいおい、リュウジが何したってんだよ」
「まあまあ。確かあの子、ここで佐藤と話してた子だ。詳しく見てないけど真田に何かやられてた筈だ。男を見て怖がるのも無理もない」
気を取り直して本の捜索に戻ると、ふとあの子が戻した本に気がつく。
「『魔術によるスキルの再現』?」




