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第29話

 俺と司はいつも通り街へ繰り出し、最早顔馴染みになった酒場で決まった料理を食べた後、広い公園に足を運んだ。


 いつもだったら、のんびり空でも眺めながらうたた寝したり、雑談したりと多忙を極めた現代人が羨むような日常を送るのだが、今日は違う。


「よしっ、この辺でいいだろ」


 だだっ広い公園のさらに人気の少ない木々に囲まれた場所。


 これから行うテストにはもってこいの場所だ。


「今日は何すんだよ、リュウジー」


「決まってんだろ、訓練だよ」


「訓練? ……いやいやなんで急に!?」


 司の驚きも無理もない。今まで散々、訓練なんてしない、俺たちは俺たちの好きなようにのんびり過ごす、と周りから白い目で見られ、サボりだニートだ言われても気にする事なく過ごしてきた。


 だが、そんな俺がある日急に訓練とか口走るものだから司は泡食って目が点になる。


 その様子を少し面白く思いながらも、俺はここ最近知った真(・)実(・)を思い出し不安を感じずにはいられない。


「司も見たろ? あの本に書かれてる内容を」


「ま、まぁそうだけど……」


 図書館で司が見つけた『レオデルシア史 第二十六巻』は現在から大体200年前までの事が記されていた。


 つまり世界の危機とやらを退けてから今に至るまでの比較的平和な期間が記された歴史書になる。


 掛かれてる内容も概ねその通りで、突如現れた魔王を倒すべく異界の勇者を召喚し無事魔王を討伐。その後各地の混乱を治めたり、戦争したり、まあ色々あったみたいだ。


 そして現在。


 再びこの世界は危機に瀕する訳だが……


 ジョエルの話によると、俺たちが呼ばれたのは前回の魔王討伐からまだ100年と少ししか経っていないと言う。

 2、300年周期で現れるという話だから、逆に100年くらい早まってもおかしい話では無いのだが、王族という特別な立ち位置のジョエルの話がその国の歴史書に書かれてる内容が食い違うのは違和感以上に奇妙に感じる。


 さらに言えば食い違うのは何も歴史書だけでは無い。今この街に暮らす人々全員の話もそうだ。


 街では活気が溢れてるようで、皆の顔にどこか不安が立ち込めている。もうすぐ魔王が現れ、世界に危機が迫ると思っている。


 ジョエルが単に間違った知識を得ている可能性もあるが、もし正しいのなら、この国は歴史は100年分捏造されていることになる。


 誰が、何のために、そもそもどうやって。気になることは後を絶たない。


「だから備えるんだよ」


「な、何に?」


「決まってんだろ」


 主人公とヒロイン。未知の世界と冒険。数々の脇役とまだ見ぬ強敵たち。


 そしてそれらを彩る……背景(モブ)。


 俺は言ってしまえば、ただのモブ。奴らを彩る背景でしか無く、悲しい過去や運命、願いやら思いなんてのとは無縁の、いち転移者に過ぎない。


 この世界でこれから巻き起こるソ(・)レ(・)の演出として振り回され、翻弄され、時にそいつらの強さを強調する為に無惨に殺される。


 モブならモブらしく大人しくするべきかもしれない。

 だけどそんなの真っ平ごめんだ。


 だから備えなくちゃいけない。これから始まる……


「これから始まる、物語に」



 ・・・



「この辺でいいか?」


「おう、その辺でいいぞ」


 公園の人気の少ない場所で司を立たせ、そこから10メートルくらい離れた位置に俺も立つ。


 そしてスキルを起動して何も無い場所からスケルトンを一体呼び出すと、司は召喚されたスケルトンが手に持っているものを見て驚愕する。


「ちょっとリュウジ!? それってまさか……」


「あ、これ? 魔導書だけど? まあそんな畏まったやつじゃ無いけどな」


 さも当然のようにスケルトンから受け取る様子を見て司がさらに驚愕する。


「いやいやいや! それ城の図書館のやつでしょ!? 勝手に持ち出したらヤバいって!」


 城に蔵書されている本はどんな理由があろうと持ち出しは禁止されている。

 と言っても持ち出そうとすると館内に施された術が作動して、本を外に持って行く事がそもそも出来ない。


 だが、俺はそんな厳重に保管された本を持ち出すための裏技を発見した。


 俺のスキル『スケルトン召喚』は単純にスケルトンを呼び出すスキルなのだが、この呼び出したスケルトンは他とは少々違った特性がある。


 簡単に言うと俺が呼び出すスケルトンは完全な『個』として現れる、ということだ。


 命令に忠実に従うだけじゃ無く、経験を蓄積し思考する。見た目が骨なだけで人間と変わらない。成長するスケルトンと言える。


 まとめるとこいつは完全な個人として俺のスキルに認識されている。


 じゃあ例えばこいつに剣を一本持たせたらどうなるか、服を着せたらどうなるか。


 答えは、それも含めて個として扱われる。


 ゲーム風に言うなら装備品もそいつとカウントされてると言う事だ。


 ユーザーインターフェイスが出てくるでも、見えるわけでも無いのでちゃんと装備しているかは正確には分からないが、概ね俺たちが一般的に解釈する範囲が装備品扱いとなっている。


 話を戻すと、俺は召喚したスケルトン(こいつは因みに2号)に目的の本を手に持たせてから送還、そして任意の場所で再召喚。すると、このように装備品扱いの本を誰にもバレずに持ち出せるっちゅうわけだ。


 俺の説明に司は呆れて物も言えないって感じだ。


 だけど仕方ねぇだろ。これくらいやっておかないと、いざって時にただ波に飲まれるだけなんだからよ。


「よーし、まずはこの簡単そうな魔法から試してみよう。いくぞお!」


 本に載ってる説明を見様見真似でそのまま再現する。


「おいちょっといきなり!! ……アレ? 何にも起きない……ぞっ!?」


 突然上からワイヤーで引っ張られたように司は勢いよく宙に浮き、そのまま重力にしたがって落下する。


「いでっ!?」


「あー……ハハッ、ごめん……!?」


 鬼の形相で向かって来る司を目にし条件反射で逃げ始めるが、為す術無く捕まり一週間飯を奢るハメになった。

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