第27話
「うーん、それっぽい記述は無いな〜。なぁ、そっちは?」
「そう簡単に見つかんないって! ……てかリュウジ。こんな事して何の意味があんの?」
「一々、やることなすことに意味を求めんな。そんなのはなあ、向こうから勝手にやって来んだよ」
「んだよそれ……アレ? おいリュウジ! これは?」
司に呼ばれ今読んでるハリー◯ッターの書籍並に分厚い本にしおりを挟んで閉じ、読むのを切り上げて司の元に少し足早になって向かう。
「どれ?」
「これこれ、タイトルは……『レオデルシア史 第二十六巻』!」
「おおナイス! ……てか誰がこんな訳わかんねぇ棚に置いたんだよ」
「さあ?」
俺と司はテーブルに戻り、さっきまで俺が読んでいた本と同じくらいの分厚い本を早速開く。
司は一仕事終わったと言わんばかりに席につき、頬杖をついてただ眺めるだけ。
俺は目当ての項目が無いか、目次を一行一行丁寧に、かつ素早く読んでいき、ようやくそれっぽい項目を見つける。
パラパラと所々気になる内容が目にチラつくが、敢えてそれらを無視して目的のページまで捲っていく。
「あった」
「おっ! 見つかったのか」
「多分……」
「チョッ、多分かよ」
俺が探し求めていた文献はこの国の、直近で起きた世界の危機に対する内容だ。
どうしてそんなものを? って感じだが、と言うのも司がジョエルの地雷を見事に踏み抜いた後、少しだけ暗い、気不味い雰囲気の中でぎこちなく話している中、ふとジョエルが少しだけ気になる内容を零したためだ。
そして……
「なあ……これって、ヤバくねぇか?」
・・・
「それにしても、まさか生きてる内に異界の勇者をこの目で見れるなんて思ってもいませんでした」
「よしてくれ。言っただろ? 俺と司はそんな大層なもんじゃ無いって……なあ?」
「そうそう。世界を救うとか、いくらスゲェ力があってもって感じで、情けないけどな」
「そんな事無いです! お二人とも……立派です。僕なんかより全然……」
あの手この手で話題を逸らしても結局行き着く先は、このドンヨリとした重苦しい場所。
もうこうなったら無理矢理にでも話を変えるしかない。
「ああもう、この話は止そう! な!」
「たっ、確かに!」
「そっ、そうですね!」
三人ともこの息苦しさに耐えられなかったから、示し合わせたかのように息を合わせる。
「ていうか、昔にそんなスゲェ奴がいたなんてなあー、驚きだよ」
「ホントだよ。こんだけヤバいスキルがあるなら、わざわざ勇者召喚なんてしなくて済むよ」
司の言うことは確かにその通りだった。血筋がどれほど影響しているかはわからないが、この国の王族のように、高貴な身分というのはそれ相応の力を有している傾向にある。
その逆かもしれないが……それは一旦置いておこう。
「アレ? なあジョエル」
「はい? どうかしました?」
「勇者召喚……と言うかスキルってさー、遺伝すんのか?」
「遺伝ですか?」
「えっとー、要するに親の能力を子が引き継ぐって事。ジョエルはさっき言ったよな、勇者召喚は1000年くらい前に出来た方法だって。でもそれって結局スキルでやってるんだろ? だったら、普通に考えたらおかしくねぇか? だって同じ人間が1000年も生きるわけねえだろ?」
「確かに! リュウジの言う通りだ……あ、いやでも魔術は? 何か俺たちの知らない方法で寿命を伸ばしたとか、なんなら生き返らせたとか!」
「おいおい、そんな事言い始めたらさあ……」
元の世界にだって俺たち一般人では知り得ない事など山程あるが、こっちの世界はおそらくその比じゃないだろう。
真面目な話、俺たちが夢物語でしか無いような事を口走っても、この世界ではその大半を実現するかも知れないと予感させるくらい、この世界にはイカれた可能性が秘められていると思う。
「ツカサさんの仰った方法も勿論模索されました。強力なスキルはその国や個人にとって重要ですからね。長く生きればそれだけ有益ですから。しかし、どれも上手く行かなかったんですよ」
「流石に無理かー」
「てことはもしかして」
「はい。レオデルシアはこの大陸……『世界大陸』と言うのですが、その中で別格の国力を誇るのですが、その理由が世界で唯一スキルの継承を成功させたからなんです」
ジョエルによるとこの国の王都には『継承碑』という馬鹿でかい石碑が鎮座しているらしく、その石碑を使うと血の繋がった親から子へスキルを継承させることが出来る。
継承碑を使ってこの国は本来失われるはずの強力なスキルを代々継承してその国力を高めているらしい。
だがそうなると一つ疑問に思うのが……
「じゃあ、呼んできた勇者のスキルを継承したら……メッチャヤバいって事じゃん!」
その通りだ。
基本的にスキルの能力はあくまで補助的な役割だったりして平凡な能力でしか無いが、一度突き抜けてしまえばその価値は計り知れない。
そんな能力を無数に抱えた人間を何人も呼び寄せられるなら、当然その能力も引き継いでるはず。
しかし
「いえ、勇者様のスキルは子に引き継ぐことが出来ないのです」
「えっ、何で?」
「理由はよく分かっていなくて、おそらく異界から来てるから、とは言われていますが」
「そっか、上手いこと出来てんだな」
俺も内心そう思う。異界の勇者という規格外の戦力を呼び出して世界に現れる脅威と戦わせ、勝つ。
そして外から齎された力が世界のバランスを崩さないように、正に上手いこと出来てると感じる。
まだ他にも気になる細かい点もあるが、今は今回得た情報だけを咀嚼しておくに留めた。
「……ん?」
「どうしたジョエル?」
何かが詰まって取り出せないような難しい表情でジョエルは急に唸り始める。
「……少し、早いなって思いまして」
「何が?」
「本来、世界に訪れる危機というのは大体200年から300年くらいの周期で現れるのですが、今はまだ100年とちょっと……くらいしか経ってないんですよね」
ジョエルのふと口にした言葉に、俺の背筋は知らぬ間に凍りついていた。




